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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『共感と嫉妬』

「では、紹介します。僕の彼女の柿沢椿さんです」

「柿沢椿だ。よろしく」


 ツバキが僕の隣で、顔を硬直させた状態で、ぎこちなく皆に挨拶をした。


 少しだけ遡って説明すると、近くのスーパーで買い物をして家に戻ったら、ツバキが扉の前で立って待っていた。

 準備をしてきたのか、深緑のアウターに白Tシャツ、黒の長ズボン、そして髪もはねっけを抑えて落ち着いた髪型に整えていた。

 それでいて、部屋に入るなりに、僕にピタッと横に引っ付いたまま、早くもテーブルの前に座り、胡坐をかいて座った。

 僕はコップなどを準備しようとしたが、彼女は僕の腕をつかみ離れないでといった意志を感じたので、僕もつられて隣に座った。

 そんな中で多少状況察した、リナがテーブルに帰る途中に買ってきたお菓子や飲み物を、すかさず準備してくれたのが、ありがたい限りではあった。


 そして部員4人が僕らの対面に座って、今の紹介に至るわけだが、ツバキが、完全に以前の表情の怖い柿沢さんに戻っていた。


「蒼風梨奈です」

「音水恵です!」

「亀山田健三です。カゲルの隣の部屋に住んでます」

「国原大介、です」


 女性陣はワクワクしながら、カメケンは妙にソワソワして、大介はオドオドしている。

 対して僕はドキドキである。色んな意味で。


「早速、単刀直入で聞きますけど、2人はどんな出会いだったんですか?」


 メグが、目をギラッギラッにしている。

 出会いか、出会いって、あれ?

 ふと思い出したことが尾行だったので、返答に困ってしまう。尾行されたことを、言っていいのだろうか。

 チラッと彼女を確認すると、ピタッと目が合った。

 そして、スッと僕の手の甲に彼女が手を重ねてきた。

 状況を理解した僕は、小さく頷くと彼女に話を任せた。


「出会った、というより一方的だったか。たぶん君たちがキャンパスのど真ん中でパフォーマンスしてた時、たまたま見かけた。その時カゲルの演技を見て……」


 そこで言葉が途切れると、ぎゅっと僕の手を掴まれた。


「それから、しばらくして話しかけた」


 緊張しているとはいえ、うまく話してくれたことにほっとしたのと、ポッと体温が上がる。


「そ、それって、もしかして、私と一緒!?」


 メグがばっと華が開いたような明るい表情になった途端に大介に抱き着いた。


「ふえ!?」

「な!?」


 想定外だが想像内の反応だった僕はメグっぽいで終わらせたけど、想像外だったであろうツバキと大介は、すっ飛んだ声を上げた。


「ちょっとメグ」

「私もこの子の演技を見て好きになったんです!! この健気っていう部分が」

「ん~~。あー。わかる。こう不器用ながら必死にこなす姿!」


 想像外だったのは、ツバキが本気で共感して、首を立てに振っていることに、こう顔から火が吹きそうになる。


「そうそう。そして、演技になるとキャラが変わるところとか」

「あー。確かにそう」


 唐突にメグとツバキがお互い共鳴したように盛り上がり始めた。

 それを聞いてて、僕とたぶん大介も、どんどん顔が赤くなるような恥ずかしさを味わい始める。


「ギャップがね」

「そうギャップ」

「あと、根が真面目だから、きちんと返してくれるんだよね」

「あー。無視しないし、何かと反応をしてくれる」

「こう、守りたくなるような!」

「わかる!!」

「ツバキ」

「メグ」


 僕と大介のタイミングはほぼ同時だった。

 僕たちは揃って顔を真っ赤にして、僕はツバキの手を握り、大介はキッとメグを睨んだ。

 しばしの沈黙のあと。


「プッ」


 リナが我慢できずに吹き出した。


「えっとこれはその、俺聞いててよかったんすか?」


 困惑せざる負えないカメケン。

 あー。カメケンの立場が一番困るよな。それはなんとなく察するんだけど、僕も色々と精神を絶えるのに精一杯でフォローができない。


「カメケン。これはあれよ。この二組の天然属性を楽しむのがいいのよ」

「えええ! いやこれ天然というよりもう事故じゃないかな?」


 傍聴組は、聞くだけでいい分、もはや容赦がない。いやもう突き抜けてくれたから、なんかもう笑えてくる。

 とはいえ、なんかちょっとモヤっとした。


「リナ。まあ。そのわかるけど」

「ごめんごめん。本当は我慢するつもりだったんだけどね。いきなり二人の波長が合うって思ってもみなかったからつい」


 リナが少し涙ぐんでいた。どんだけ面白かったんだよ。いやある意味凄かったけど。


「いいだろ。好きになったんだから」

「そうそう」


 ツバキとメグが怒るわけでもなく、苛立つわけでもなく、ただ素直に好きということを共感していて、またドキッとしまう。

 そして振り向くと、じっと視線が合う。


「ツバキ」

「ん?」


 凄い恥ずかしいと言いたい。でも本心を思ってくれている彼女に、そうも言い辛い。


「いや。その。なんだ。その、照れる」

「ンンッ」


 なんか色々言いたかったけど、こうも素直に好きと言われたら、嬉しさを隠せないので結局そう言ってしまった。

 真っ赤になった僕は彼女と一緒に顔を背ける。


「お熱いようで」

「ンン。ハアー」


 リナはもう生暖かい目で見守っている。カメケンはものすごく苦い表情になる。

 ん。なんかごめん。


「ちょっと、私たちより熱々にならないでよ。ね?」

「え!? いやメグ。熱いよ。接近しすぎで」


 物理的な意味かい。


「大ちゃん? さっき照れてたじゃない」

「いや。だってなんかこう健気って、こう子供っぽいのかなと、いや。なんかいやだけど、演技は褒められているから、いやでも演技はいつも褒めてくれてるけど、なんか今日は迫真だったから」

「え!? それって」

「いや違う違う!」


 メグの暴走に拍車をかけそうな勢いで、大介が珍しく照れていた。

 なんかこう危なそうだったので、リナがさりげなく肩に手を置いて、何とか暴走を止めたのである。

 いやもうこの一言に尽きる。カオスだ。

 決して悪い意味ではないのだけど、こう一つの部屋という空間に、詰め込む感情の数が間違いなく飽和状態でパンパンに渦巻いているこの状況は、秩序はなく混沌である。

 感情に秩序なんてあるのかというと、明言はできないけど、感情の混沌だとはいえる。


 だからカオスだ。


 僕の部屋ってカオスのパワースポットなのだろうか。


「まあ。カゲル。幸せそうで良かった。羨ましいけど」


 カメケンが少しだけ不貞腐れて、少し諦めているけど、そう言ってくれるのは本当にいい奴で、こっちが申し訳なくなる。


「ありがとうカメケン。その……」

「いや。変に気を遣うな。こうなんか、こう本当に、俺は俺で大丈夫だから」


 めちゃくちゃ強がっているのがわかる。

 あとでなんか奢ろう。


 ある程度時間が経ち、感情が落ち着いてきた。

 そして気が付くと、ツバキはすっかり打ち解けたみたいだった。


「それで、ツバキッキはどのアーティストが好きなんですか?」

「ああ。アタイは、『ジェガン』『ラル=カン』『エデゥ』かな」

「『ジェガン』好きなんですか!? 私ボーカルのガジェル好きなんですよ」


 リナがスマホの画像を見せる。


「あー。確かに、全体的に声高めだけど、しっかり芯があって深みがあるんだよね。パワーがあって」

「え、どれどれ、でもちょっと顔のホリが強すぎない?」

「あー。メグは薄めの顔はだよね」


 メグとリナは女性同士もあり、そして共通の趣味があって馴染めるのが早い。

 カメケンは大介とジャグリングのルーティンの話をしていた。実際落ち着かないのも確かだろう。

 そして僕はというと、ツバキが馴染めたことにほっとしつつも、女性三人の和やかなやり取りを見て、僕は……。


「ちょっと腹減ったから、コンビニ行ってくる」

「あー。じゃあついでに。私、プリン買ってきて」

「あー。いいよ……」


 メグが自然に言いすぎて、違和感もなく返答していた。気が付いたら、メグを凝視して、言葉を飲み込み、話を続ける。


「他に買いたい人はいる? なんか買ってくるけど」

「私は、大丈夫かな」

「俺も、大丈夫。そろそろ寝るし」

「僕も大丈夫」

「アタイも大丈夫」


 結局メグだけだった。

 まあでもそろそろ眠る時間だからだろうか。と自分なりの謎解釈をして僕は家を出た。


 ぶるっと肩を震わせてしまう寒さに、身を縮める。

 そして大きなため息を吐くと、白い靄となって上に登っていく。

 今、すごくモヤっとしていた。なんだろう、女性同士が仲良くなっていることは良かったんだけど、何故か、こうちょっと悲しいのか。ツバキのこと音楽のことついていけなかったこととか、話に入れなかったとか、結局、あの盛り上がっている姿を見て、なんだかちょっと自分の情けなさを感じた気がした。

 それを悟られないようにと、思った。

 だから、こうアレかな。これって嫉妬なのかな。

 自分が人生で初めて感じた感情に、困惑した。でも悟られないように、避けたのだ。

 くっ。なんか気持ちが重い。

 少し落ち着くまで遠回りしようかなとも思った。


「ああ。カゲル!」


 突然の声とその主の二つの意味でびっくりした。

 振り返ると、少し汗ばんで、白い息を上げているツバキが立っていた。


「ツバキ。どうして!」

「いや。なんか、こう気になったのと、アオ……。いやじゃなくて、こうついていきたいと思ったから」


 ドキッとした。

 そして思わず背を向けた。自分の嫉妬心を隠すために。

 だけど、それはすぐに。


「カゲル、もしかして嫉妬してた?」


 恥ずかしくて一瞬にして熱くなる。


「ち、ちが……わ、ない」


 結局認める僕であった。

 ツバキはフフッと笑いながら横に並ぶ。

 正直、彼女が僕から見て誇張かもしれないけど、偉大に見える。嫉妬までした自分の醜い心を、咎めるわけでもなく、むしろ喜んでいるように見える。

 嫉妬されるのが嬉しいという場合があるのだろうかと思ったけど、そんな楽天的な考えにはならない。

 ただ、気を使った僕を心配して追いかけて来てくれたのはわかる。

 申し訳ない。という気持ちが強い。

 でも、ここで伝える言葉が謝罪なのも何か違う気がした。

 彼女の横顔が少し笑顔のを見ると、謝るのは胸が詰まるような辛い気持ちになる。

 だから。


「ツバキ」

「ん?」

「ありがとう」

「ん。 どういたしまして」


 満足そうな彼女の笑顔だった。



 そして到着したコンビニにて……。


「いらっしゃい、ませー!!?」

「あ?」

「げっ!?」


 コンビニで、バイト中の新木さんと鉢合わせし、幸せな時間は一瞬ということを思い知ったのであった。 

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