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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『焦り、練習、関係、鈍感』

「ううー。寒くて手が鈍る」

「そうは言っても、あんまり時間がないんだからやらないと」


 箱を地面に置いて、はぁー。と両手に息をかける大介と、ディアボロを器用に脚の周りをグルグルと通すメグ。


「俺まだ初心者だからやばいよ。そもそもルーティンてどうやって組むん?」

「あー。それは私は答え辛いかな、まだなんとも言えないし」


 ポイをバザバサと回しながら舞うカメケンと、クルクルと2つの黄色のリングを指で回すリナ。


「僕も正直ルーティン定まってないし、だから今練習するのはわかるんだけどよ。今日も泊まり確定なの?」


 暗闇の中、目を凝らしながらボールの練習をする僕は、ふと思い浮かんだ疑問を言ってみる。


「確定!! それに新木先輩は事情知ってるから妙なことは言わせない!!」


 いつも以上の気合とにじみ出る怒りの表情のメグであった。


 ミーティングが終わり、僕ら1年組は、僕のアパートからそこそこ近くにある河川敷に集まって練習をしていた。

 前に練習したことある公園より、住宅街から距離が離れているので騒音の心配を然程気にすることがなくていい。

 ただ、夜の暗さによる視界不良と、秋の夜の寒さによる体の硬直と、指先の感覚が鈍くなる等のデメリットもある。


「というか、あんまり突っ込んで聞かなかったけど、結構な頻度でしかもノーアポで週末で泊まりに来てるけど、女性2人とも毎回準備万端過ぎない?」

「言われてみれば確かに!」

 

 僕の質問と共にカメケンと揃って2人に視線を注ぐ。


「そんなの毎週準備しているに決まってんじゃん!」

「そうそう!」


 さも当たり前のように言う女性陣。

 ノリノリなんかい。

 というか、親御さんはそれを了承しているのだろうかという疑問が思い浮かぶ。特にリナは揉めてたし、なんとなくそこは聞かないほうが良さそう。


「分かった。それで明日も練習?」

「当然!!」

「どこで?」

「ここで!」

「んー」


 ふと思った。ここって昼って人通りが。いや。あんまり気にしない方がいいのか。


「ええ!? ここって昼間、人が多いんじゃないの?」


 大介がビクッとこわばり、箱を構えて持ったまま、悲しみの表情を浮かべる。


「大ちゃん気にし過ぎじゃない?」

「んー。どうだろうねえ。時と場合によるけど、目立つよね」


 リナも手を止めてフムと考え込む。


「じゃあ学校の自由練習スペースなら? この前空きコマに練習した」

「ああ。でも休日は……。 どうだったかな?」

「どうした?」


 リナがリングを持ったまま、考え込むと、僕を含めた残り4人は手を止める。


「ダンス部や、鼓笛隊とかが、練習していてスペースが無い時があるって聞いたことがある。だから、早めに行って確保する必要があるかも」

「なるほど」

「んー。逆にそれはチャンスじゃない!?」


 メグがぱっとひらめいた様に、表情を明るくした。

 今度はメグに視線が集まる。

 

「うまく行けば交流と宣伝はできるんじゃない?」


 視線に呼応するようにチャンスの内容を説明してくれると、言いたいことを僕は理解する。


「……。ああ。確かに、空いていたら、少なくとも練習できる上に、誰かが絶対見るから、悪くない。もしかしたらきっかけを掴むチャンスがあるかもしれない」

「そううまくはいかないだろうけど、目立つのは事実よね」

「でもそれって見られてるよね。練習しずらい」


 大介は消極的になって、体を小さくさせる。


「大ちゃん。そこは克服しよう。私が付いているから!」

「メグ、それって解決になってるの?」

「なる! 好きだから!」

「ただ言いたいだけだよね!」


 相変わらずだった。大介に対して甘々であるメグ。


「まあ。アリじゃないかな。正直昼間のここより集中できそうだし」


 カメケンがポイ回しを再開する。

 明日の予定がざっくり決まったような形になったので、僕は話を変えてみる。


「じゃあ、明日は学校に行くとして、今日は何時までここに?」

「うーん。今何時?」

「22時半」

「あー。どうしようか。本当はもう少し練習したいんだけどね」


 メグが、ムムッと眉間に多少力を入れながら、それでも手を止めずにスティックを動かしてディアボロを操る。


「メグ、気持ちはわかるけど、私ちょっと疲れてきたからここらへんで今日は終わりたい」

「僕もそろそろ集中力が切れてきた」


 リナはたぶん手が限界と言わんばかりに、手をぶんぶんと振っている。

 つられるように大介が、箱をぽとっと地面に落とした。


「うーん。そうだね。私も集中力切れてきたし、そうしようか」


 ディアボロを上にトスして掴んだ。

 正直僕も手の感覚が寒さでマヒしていたから、丁度よかった。ボールをバックにしまい、引き上げる準備をした。


「それじゃあ。カゲル! 彼女に連絡入れて!」

「うえ! な、なんで!?」

「あんた、会議中のこと忘れてないよね?」

「ってマジで言ってたの? いやあ。えっと、ええ?」


 メグだから、マジだと思っていたけど、やっぱりマジだったんだ。どうしようか。とはいえごまかしは効かないよね。


「わかった」

「よろしい」


 メグは満足そうな表情であった。

 これ本当に大丈夫だろうか。とはいえ連絡を入れないとあとあとめんどくさいんだろうな。

 ため息交じりにスマホを取り出す。そして電話を掛ける。


「もしもし?」

『もしもし? カゲル!?』

「ツバキ元気?」

『元気元気!! どうした? 明日か明後日どこか行く?』

「明後日行こう!! ちょっと出かける場所は考えてるから」

『わかった!』


 元気な声が聞こえて、僕は自然と幸せな気持ちになる。だが次にある要件を伝えなくてはならない。胸がぎゅっと締め付けられそうになりながらも、話を続ける。


「それで、今って家にいる?」

『え!? いるよ!』

「会える? 実はうちの女性部員が紹介してほしいって言ってるんだけど」

『……。あー。うーん。まあ。でも、そうか。えーと。もしかして、カゲルの家にいる感じになるの?』

「あー。今はいないけど、あと数分で。というか、もうそういう流れ」


 自分で言っていて気づいたけど、彼女いるのに別の女性が家にやってくるこの状況って、絶対変だよね。というか絶対あり得ないよね。

 今更……。

 今ようやく自分の状況を理解したと思う。

 メグとリナに関しては、全くもってその心配が起きないというある種特殊な信頼から成り立っているから、絶対そんなことはないんだけど、ツバキからしたらそう……だよね。

 異常かもしれない。いやそれでも、関係を築くことも、壊してしまうのも、ここからの自分の行いだ。


「ごめん。今、僕、自分が置かれている現象が特殊だと気付いた。だからその、凄い酷い言い訳だけど、今いるメンバーは部活の友達というのを知ってほしい、という意味で、会ってほしい」

『……。わかった。あと何分くらいで来る?」

「うん。大体10分くらい」

『わかった。ちょっと準備するよ』

「うん。お願い」

『それじゃあ。また後で』

「わかった」


 ふー。っと一つ息をついた。

 こんな寒くなった夜に、うっすら滲んだ汗が、自分の心境を物語っていた。


「どうだった?」


 メグが、何も悪びれなく聞いてくる。


「なあ。一つ聞くけど、僕らのこの関係って、結構特殊か?」

「ん? それって」

「カゲルさん。今気づいたんですか? それ?」


 全く気が付いていないメグを他所に、リナが苦笑い、いや、もう呆れたような顔でいた。


「でも、それが私たちの部活の個性でもあるからね。あとまあ変な心配はしなくてもいいんじゃない。一組はアレですし、私はある意味気兼ねないからいいし、それに彼もそういうタイプじゃないでしょうし、ある意味それくらいの鈍感さがいいかもしれない。それに気づいても、そんなことにならない性質でしょ。私たち」

「あー。確かに。そうか」


 リナの説明に少し失礼だけど笑えてきた。でもそうかもしれない。

 

「ちょっと二人で何納得してんの? 私にも説明しなさいよ」

「リナ。頼む」

「えー」


 メグに絡まれて、若干気怠そうな、それでも少し楽しそうなリナであった。


「なあ。何の話してんだ?」


 後ろから、ひょこっと現れるカメケン。


「ざっくりいうと、僕らって仲いいよな。ってこと」

「え!? ああ、まあ確かに」


 少々腑に落ちないが、悪くない。そんな表情のカメケンであった。

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