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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『恋の話題とは騒がしく面倒で複雑なもの』

 今日の練習はいつも以上に騒がしかった。

 それもそのはず。エリ先輩とてるやん先輩が付き合ったことがみんなに知れ渡ったからだ。

 ほとんどがその話題で持ちきりだった。

 それは普通なら良いことなのだろうが、僕にとってはあまりいい方向に働かなかった。


「カーゲール。祝福してくれてもいいのに、愛想ないんだから」

「お前は俺等を結びつけた仲介人なんだからな」


 両脇に例のカップルが立って、挟み込むようにして顔を覗き込んでくる。

 なぜ僕が間になるんだという疑問は、たぶんお互い純粋すぎるせいでもあるのだろう。だからと言って緩衝材扱いされるのも困る。


「ちょっと、どういうこと!? カゲルが一役買ったって!?」

「俄には信じ難いですけど、先輩方が冷やかしで言ってる様には見えないですね。まあ依然と変わらずイジりは平常運転ですけど」


 メグは恋バナに目が無いのはほっといて、リナのその冷静な分析はいいから、助けてほしい。


「ええ。ええ。良いんじゃないかな」

「くうー。カゲル、今度誰か紹介してくれ」


 反応は混乱しつつも純粋に褒めてる大介とめんどくさく僕にしがみつこうとするカメケン。


「なんかまたうるさくなりそう」

「意外と早くひっついたんだ」


 頭を抱えるアヤメ先輩と、驚きつつも納得するカスミン部長。


「……」

「……」


 そして無言で練習する新木先輩と耕次先輩。

 意外にも耕次先輩の反応が薄い。いつもはこういうことに二言三言話しそうなんだけどな。と、呑気に観察している場合ではない。僕も早く練習したい。

 だが今日はいつも以上に拘束が厳しかった。

 暫くの間苛立ちつつモヤモヤしつつも、それでもワイワイとしつつも、なんとか心を維持した。

 結局解放されたのは、結構経ってからだった。


「大変そうだな」


 ようやく練習を始められたというのに、新木さんがしれっと横から、相変わらずの仏頂面で話しかけてきた。


「もう慣れました」


 僕は横目で確認しつつも、練習を続ける。

 あの一件以来、微妙に気まずい空気だったのだが、向こうから話しかけてくるとは思わなかったので内心驚いた。

 とはいえ、少々心が波立っていたので、塩っ気のある対応を示そうと思う。


「で、冷やかしに来たのですか?」

「そう思うのが普通だろう。その通りだ」


 潔く認めるところが猶更腹立たしい。かといってやさしい反応なんて想像できないが。


「性格悪いですね。でももう色々と慣れました。それにあなたが言うことが別に間違っているわけではないです」

「へえ。じゃあ敢えてプレッシャーをかけるとすると」


 僕の正面に立つやいなや、見せ始めた技はハーフシャワーとリバースカスケード、そしてウインドミル。

 数日前にカスケードがやっとだった人間が、もう何種類も習得していた。


「新木さんって性格悪いですよね」

「心配するな。お前にだけだ」


 その嘲笑するような笑顔に焦燥感と苛立ちが募る。


「嫉妬深い男って重すぎません。まさか、ツバキのこと好きだったんですか?」

「ツ・・・。んなわけねえ! あんなガサツな女好きではねえ!」


 新木さんは顔を真赤に染め上げて、拳をぎちぎちに震わせ、目が少し潤んでいた。


(まさかねえ……)


 この前聞いていたから、ただの親族愛かと思っていたけど、そうじゃない可能性が出てきた。

 と同時に、いつもならビクビクして自分が、落ち着いて分析を始めていることに、本当に慣れてきたのだなと察した。


「何々? 何の話!」


 メグが目をキラキラと輝かせながら、ビュンと勢いよく走ってきた。

 色恋沙汰には目がない。というか結構離れていたよね。地獄耳にもほどがある。それに傍から見たら結構緊迫した状況なのによく突っ込んでくるよね。


「メグ。一旦落ち着いて」


 突撃しそうなところを新木さんの前に立って何とか阻止する。


「ったくもう。今回は俺が悪かったよ。だがな。おめえには負けたくないから覚悟しろ」


 そう言って、その場から去っていった。


「あの人、いつも不機嫌だよね。なんでうちに入ってきたの?」


 メグは僕の背中裏から顔を出して、新木さんの後ろ姿を覗き込むように眺める。


「半分は僕への当てつけらしいけど」

「え。原因カゲル? まさかあの彼女さん絡み? というか、私にも紹介しなさいよ!」

「ええ? なんで」


 話題の切り替わりが早すぎる。


「なんでじゃない! 色々話を聞きたいの!」

「なんの話だよ! 僕が言うのもなんだけどツバキはたぶん小百合さんより癖が強いから、大変だと思うよ」

「そんなの会って話してからにするよ! ほら今日金曜日だから、家に行くから。紹介して!」

「そんな無茶苦茶な!」


 毎回思うのだけど、なんで僕の家なのだろうかという疑問が尽きないのであった。


 

 そして練習後、空き教室で特別ミーティングが開かれた。


「題して、みんなで知名度上げよう作戦ッ!」


 教壇に立ってバンっと黒板を叩くカスミン部長は、数秒後に手をひらひらと振って痛そうにしていた。

 

「ちょっと大丈夫?」

「大丈夫だから続けて」


 心配そうにするアヤメ先輩。

 なんか締まらないこの感じがうちの特徴だなと、僕は温かい目で眺めていた。


「ごほん。この名前の通り、私たちの現状はとにかく知名度が低い。まず私たちのことを知ってもらわないと集客につながらない。だからこの冬から春にかけて知名度を増やすために、みんなに案を出してほしい」


 アヤメ先輩が議題の内容を詳細に話してくれると、教室がシーンと静まり返った。


「……」


 大半は案が浮かばないだけなんだろう。

 僕も思いついていないのが現状だ。

 実際急に案を出してくれと言われてすぐに出るほうが難しい。

 とはいえ「知名度が低い」ことは、榊原さんが前に言っていたので、改善しなきゃいけない点。

 僕自身ただ未だに目立った方法も取りきれてないのも事実である。


 しばらくの間、沈黙は続いた。


 そしてようやくある人物が手を上げた。


「んー。すまんな。あまりぱっとは思いつかないが、文化祭の時にも榊原が言っていたような、知り合いを増やすって言うのも作戦の一つか?」


 その巨躯から放たれる野太い声が特徴の耕次先輩だった。


「そうね。前々から言っていたことだからね。だからそれも改めてやってほしいとも思ってる」


 アヤメ先輩がそう伝えると、何人かの表情が固まる。

 僕もその一人だ。

 知り合いを増やすって難しい。元々人見知りしている僕がこう知り合いや友達が増えたのなんて、みんなの積極性があったからだ。

 こちらから能動的に知り合おうとした人があまりいない。

 我ながら困ったものである。


「んー。アヤメの意見は分かるが、そう簡単にいくものでもないからな」


 耕次先輩はみんなの顔色を察したのかはわからないが、今の皆を代弁するように応える。


「まあ。そうだよね。だからこれに関しては、一つこちらから部活として提案できるものはあるけど、その前に一旦他に案がないかなと思ってみんなに聞いている形」

「ふむ。なるほどな」


 耕次先輩は太い腕を組んだ。


「じゃあ。SNSに上げるとかはどうですか?」

「手としてはありなんだけどね。問題も多いから、すぐにとはいかないかな」


 メグが。あーっと納得しながら、乗り出した体を引っ込めた。

 

 このあと、結局意見が出ることはなく、教室は沈黙のまま時間が過ぎた。


 そして、これ以上意見は出ないという判断で、カスミン部長がすっと前に出てきた。


「さっき、副部長がほのめかしてはいたんだけど、一つ計画しているのがあります。近いうちに、他団体の部活と交流会を持とうと思っています」


 他団体と交流……。そう聞いてもあまりピンと来てない自分であった。

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