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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『提案』

「ぎりぎりセーフだけど、ごめん待たせた?」


 菊川さんは、ほんの少し額に汗を滲ませていた。 


「いえ、私たちも今来たところですし。一旦座って落ち着いて」


 私は先立って立ち上がり、椅子を引いて促した。


「ごめんね」

「ありがとうございます」


 菊川さんがテーブルの下ににリュックをどさっと置いて、アーヤの正面に座り、春宮さんは小さい黒色のバッグをすっと背中側に置いて私の正面に座った。

 2人の呼吸が落ち着くまでの間に、ぼんやりと2人の服装を眺めていた。

 菊川さんは青のデニムジャケットに薄水色のシャツにオレンジの長ズボン。

 春宮さんはピンクのブラウスの服に黒のスカートである。

 互いに全く違うカラー、全く違う雰囲気。でもそれぞれオシャレな服装に、私は自分の服装を少し気にしてしまう。

 今日は、いつもの青の長袖のトップスに白のスカート。別に悪くはないと思うんだけど、少し気にしてしまった。

 前に大量に買い込んだ服は結局ほとんど着ずにクローゼットの奥にしまったままだ。今度引っ張り出そうかな。

 いやいや、今は目の前のことだ。


「2人共突然呼び出しで応じてくれてありがとうございます。あとこの前の学祭も協力してくれて本当にありがとうございます」

「私からも本当にありがとうございます」


 私の言葉に続き、アーヤも続けて言葉を述べたあと、私達2人は頭を下げた。

 

「こちらの方こそ楽しかったです! 本当にありがとうございます!」


 春宮部長さんの言葉に、ホッとしたのと、安心もしたのと、思い切って良かったと、色々な安堵の感情が湧き出てきた。


「とんでもない! 私も楽しめたし、結果的に盛り上がったし、こっちだって感謝しかないよ! それに親しいナカッチと可愛い部長さんの頼みなら、何かあったら秒で飛んでいくから!」


 前のめりになりながら、顔を近づける菊川さんに対して、アーヤは相対的に後ろに退く。

 若干引き気味になっている私の相方。

 ここまで好意的に持ってくれたことは、親友としてとても嬉しいけど、確かにびっくりはする。

 そこまでになった関係の経緯が気になってしまう。

 

「ヒカリさん。落ち着いてください」


 春宮さんは静かに右手で、菊川さんの左肩を押えて後ろに押し下げて、私に目配せをする。


「この子はね。ちょっと猪突猛進なところあって」

「部長だって、あのほんわかな部長に会えるってテンション上がってたじゃないですか」

「ちょ、それは言わないって」


 なんだか、2人がわちゃわちゃし始めた。

 そして、ほんわか部長……。って私のことだよね。私ってそんなにほんわかしているのかな?


「う、ごほん。ちょっとお見苦しい所を見せましたよね」

「いやー。ちょっとはしゃぎすぎて」


 1つの言葉に疑問は持ったものの、目の前のやり取りにほっこりした。

 そして2人が落ち着くと、この場が静かになる。

 こうなってしまうのは容易に想像できることだった。


 どう話すか迷っていた。


 本来、段取りをアーヤと決めてくるべきだったんだけど、ほとんど出来ずにいた。トントン拍子で決まった。急だったのとものすごく焦った。ただの言い訳になるんだけどね。

 だから、実はアーヤがここに向かっている途中にこう言った。


「正直、色々考えたけど部長のカスミンが正面切ってお話してみて、それがいい。あとは私がサポートするよ」


 え、アーヤは言ってくれないの? というアーヤに対しての甘い期待をバッサリと斬られたのも相まって不安が増大したのであった。

 でもアーヤがそう言うからには、何かしらの確信があるのだろうか。

 話をするのは部長の私の役目だ。だからやらないといけない。

 だが正直悩んでいる。これは部の発展のためという名目、いや下心か。

 この前の文化祭で仲良くなった。でもそれで頼むのはと考えてしまう。

 たぶん自然な流れで行くべきだと思う。そう考えて話すのがいい。それが話術? なんだろう。 

 だがそれって、いやー。どうも気が引けるのは、何か騙しているような気になっているのは私が幼いせいだろうか。


 あー。もう単刀直入でいこう!

 

「あの。ちょっと早いんですけど、女子テニス部で、忘年会は毎年してますか?」

「「「え!?」」」


 菊川さん。春宮さん。そしてアーヤまでが、目を丸くする。

 え、私変なこと言った? それとも突然過ぎた?

 アーヤが一瞬何か言いたそうに口をぐにゃっと動かしていたのを横目で確認して、冷や汗を流したが、それでも一旦は続けることにする。


「そうですね。毎年やってますね」


 春宮さんはすぐに落ち着き、応えてくれた。


「でしたら単刀直入に無理を承知で言います。そちらの部活の忘年会に私たちの部活をジャグリング演技でゲスト出演をさせてくれませんか?」


 頭を思いっきり下げた。

 体に伝わる不安、焦燥、心臓からぎゅっと締め付けられるような息苦しい感覚。

 巡る不安の中、この沈黙がとても長く感じる。


「白峰さん」

「はい」


 恐る恐る私は顔を上げると、少々戸惑った表情をしていた。


「えーっと、そうね。一旦話を整理させてください。つまり私たちの忘年会のイベントがあった時に、その、例えるなら、余興としてあなたたちのジャグリングを見せたい。ということですよね?」

「は、はい。そうです」


 伝わりはしたのかな。

 春宮さんは、口を閉じて考え込む。対して菊川さんは。


「え? 何、ジャグリングの演技を見れるの! 是非ともやってもらいましょうよ! 楽しめそうですし! 2人は何の道具をやるの?」


 菊川さんが、今度はバシッとテーブルに手を当てて、身を乗り出していた。


「ヒカリさん。ちょっと落ち着いてくれませんか?」


 また同じように、ではなく、少し強引に菊川さんを椅子に押し戻した。


「白峰さんがおっしゃることはわかりました」


 春宮さんは、少し眉間を動かしながら、難しい表情を見せた。

 少し時間をかけて考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「そうですね。面白いとは思います。ジャグリングを見てみたいとも思います。ただ、その提案にすぐには了承はできないですね」


 と応えた。

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