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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『落ち着かせる。落ち着かされる。』

「どうしようどうしようどうしよう!」

「てるやん先輩、落ち着いてください」


 頭を抱えてアタフタし、エリ先輩の目の前を右往左往して、手をわしゃわしゃしている。ここまで典型的なパニック状態を見るのも稀な気がする。


「俺、悪いこと言った?」


 不安に陥っている。

 ここまで慌てたところを見ると、なんだか逆に落ち着いてきた。

 とりあえず一旦落ち着かそう。


「言っていないです。大丈夫です」

「ほんまか。変なこと口走ってなかったか?」

「言ってないです! むしろ男らしかったです!」

「バ、ヴァ、ヴァッロー、恥ずかしいんだよ!」


 真っ赤になってデレデレと羞恥が混ざり合って、グネグネした動きになってしまっている。

 なんだろう。面白い。


「と、と、というか、エリは大丈夫か」

「これはテンションが上がっての気絶ですから、大丈夫です。しばらくしたら気づくとも思いますよ」

「ほんまか?」


 一抹の不安が過る。今僕が言ったことはたぶん間違いではないんだけど、気絶の原理に関してそこまで詳しくないから、モヤモヤした不安が浮かんでくる。


「それならてるやん先輩の家に連れて帰って看病しましょう!」

「ブァツロー、お、お、お、俺に、そんなことさせんのか」


 足までじたばたさせ始めた。なんだろう。もっと言ったら面白い反応が返ってくる気がする。

 ……。

 いやいやいけない今は真面目な場面だからこんなこと考えたらだめだ。

 いじりに目覚めかけたところを理性で何とか引き戻す。


「このままにしても、エリ先輩が風邪をひきますよ」

「それは、だめだ。でもどうしたら」

「家が難しいなら、保健センターでも連れていきましょう」

「お、お、そうだな。担架かなんかか」

「時間がもったいないから、背負っていきましょう先輩が」

「お、おれ!? むりむりむり」


 初心すぎる。いや僕も人のこと言えたもんじゃないけど、俯瞰して観察していると見えてくるものがあるのだな。

 僕がてるやん先輩の立場なら、こうなっていたとは思う。

 ただ、ここはしっかりしてもらわないと。


「そこは先輩でしょ。先輩が告白して、思い伝えた相手なんでしょ。勢いかもしれないですけど、ここで男を見せて、エリ先輩を連れて行ってください!」


 想像以上に言葉に力がこもっていた。それと同時に僕の胸がざわめく。

 てるやん先輩は面食らった顔から、眉間にしわが寄り、口を歪めた後、膨張させた悩みと思いを吐き出すかのようにため息をつき、ぱっと顔を上げる。


「そ、そうだな。わかった。運ぶ。カゲル。手伝ってくれ」

「わかりました!」


 先輩の決意に満ちた表情は、素直に格好いいと思った。



 

 その後は、てるやん先輩はエリ先輩を背負って連れて行くのを見送り、練習に戻った。


 嵐のような出来事で、少し休憩しようとも思った。

 エリ先輩とてるやん先輩の今後の展開が気にならないと言ったら嘘になる。

 ただ。あの二人ならすぐに良い意味で落ち着くだろう。仲良かったんだし。そういう安心感もある。

 だから、こういい形でまとまったのは良かったと思う。

 僕は後輩として、先輩の姿を見ていくだろう。


 でも……。

 自分がさっき言った言葉。


『男をみせて』


 自分の言った言葉が自分に突き刺さり、簡単に消えない痛みが、僕をすぐ練習へと向かわせた。


 必死にボールを投げて、練習する。


 自分がそんなことを言える程、男じゃないし、そんな立場の人間ではない。

 いやそれがジャグリングの上達と等しいことなのかは、違うだろう。

 でも強くはならないといけない。

 幸運なことに良い部活に入れた。幸運なことに彼女ができた。だけどそれは、本当に幸運なだけ。幸運なんて長くは続かない。

 幸運に甘んじてはいけない。


 僕は元々のスケジュールに戻り、練習を続けたのであった。




 場所は移り変わって時は少し進み、放課後……。


 キャンパス内にあるカフェテリア。

 いつもと変わらず賑やかな光景で、学生たちが各々談笑したり、時より騒いだりと活気に満ち溢れている。その中の端の方で、緊張しながら座っているのは、私とアーヤだ。

 

「ふう。もう。いや今日何度も思ったけど、まさかこんなに早くも話し合いの場が持てるとは」


 私はキョロキョロと辺りの人たちを頻りに見回し、今回来るお方がどこからいつ現れるだろうと、無意識に探してしまっている。

 それに加えて手がソワソワして落ち着かない。


「まあ。昨日の今日で、反応が返ってくるとは思わなかったし、まさか部長まで来るとはね。それにまさかの予定が空いている。こんなに早いとは思わなかったよね。きっちゃんならやりそうだとは思ったけど。とりあえず一旦落ち着こう。全く知らない人じゃないんだし」

「そ、そうだね」


 手元にある紅茶を手に取る。プルプルと揺れる水面を眺めながら、口をつける。

 紅茶の仄かな香りがすっと鼻を通り、少しだけ緊張が落ち着く。

 アーヤの言った通り、初対面ではないんだし、まだ顔を知っているから、うまく話せるとも思う。

 でも不安はそう簡単には拭えない。


「アーヤ。気分を落ち着かせる魔法ない?」

「カスミン。ジャグリング本番前を思い出してみて」


 え? 急に何を……。いや、一旦考えてみよう。

 ジャグリング本番前、やっと人前に立てる。見せることができる。テンションが上がる。


「ワクワクするね」

「じゃあそれを思い出しながら、落ち着かせてみて」

「え、それとこれは別じゃない?」

「たとえの話だって、実際少し落ち着いたでしょ」

「へ?」


 すっと手を見てみると、震えがさっきより収まっていた。確かに、楽しいことを思い出したから、少し落ち着いた気がする。


「相手は知った中なんだからね」

「うん」


 本当にアーヤは凄い。でも感心してばかりもいられない。

 私は部長なんだ。堂々としていないと。

 ぎゅっと手を握り締めて緊張を決意へと変えた。


「あ。ごめん待たせた!」


 すっと響く声が聞こえた。

 振り返ると日焼けした肌が目立つ、ショートヘアーの菊川さんと、長めのポニーテールが際立っている女子テニス部長の春宮さんが小走りで向かってきていた。


 私は、これから始まる話し合いに向けて気を引き締めた。

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