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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『先輩二人と後輩一人』

「おい。一体どうしたんだ?」

「てるやん。なんで最近元気なかったんだ? 私ともなんか話しづらそうだったし」


 エリ先輩は顔をてるやん先輩の背中にうずめたまま、動かなかった。

 てるやん先輩は口をへの字に曲げて、なんとも渋い顔をする。


「そんな大げさな。俺はなんとも」

「そんなはずない。いつもと違っていた」


 珍しく必死な声をあげてるエリ先輩にふざけて返すこともなくただ困っているてるやん先輩。この光景は本当なのだろうか。僕は違う世界線に迷い込んでしまったのではないだろうか。


「あー。まあ。そうかもな」

「……」

「でもまあ、心配するな!」


 てるやん先輩は、誤摩化すように笑ってみせた。

 だが、てるやん先輩の顔色がみるみる青くなっていく。


「いたたたた。おいエリ!!」

「てーるーやーん」


 エリ先輩の後ろからメラメラと赤い禍々しいオーラが沸き立ち、掴んでいる手から血管が浮き出て、てるやん先輩の迷彩柄の服の皺が深くなっていく。


「痛いって、やめろ!」

「あ、ごめん」


 てるやん先輩が強めに発すると、ようやくエリ先輩は拘束を緩めた。


「ふー。まあ。色々考えてた。怒られたから流石に考えてた。あの場所波好きでもあの楽しい感覚がなくなると、ちょっと寂しくてな。だからな」


 てるやん先輩は肩を竦める。

 寂しさによるものか、でもその寂しさはそんな単純なものだろうか。


「そう……」


 エリ先輩はまだ顔を埋めたままだ。


「なあ。でも何とかならないかな。また騒ぎたい」

「そうでござるね」


 騒ぎたい……か。

 冷たい風が肌を擦っていく。僕とてるやん先輩は同時にぶるっと体を震わせる。

 寒くなってきた。


「とりあえず、体を動かして練習するか」

「そうでござる。まあ拙者はそんなに寒くないでござるが」

「エリ先輩は、ずっと抱き着いていますからね」

「カーゲール? 羨ましい? してあげようか?」

「僕は彼女がいるので!」

「ちっ!」


 エリ先輩の表情があまりにもいやらしそうだったので、ついつい反射的に返してしまった。

 嫌味に聞こえるかもしれない。でもそう決めた以上そうするしかない。ただもう少し言い方も考えたほうがいいかなとも思ってしまう。


「エリ。すまん。俺動きづらいからどいてくれないか、いったっ!」


 てるやん先輩の表情がまた青くなる。今日は信号機並みに変わっている。まあ本人の意思じゃないが。


 ようやくてるやん先輩は拘束を解かれた。

 痛みのせいで体をギクシャクと古めのロボットのようないびつな動きになりながらも、自分の道具、フラワースティックを取り出した。

 そして各々練習を始めた。

 エリ先輩はリング、てるやん先輩はフラワースティック、僕はボール。当然道具は別々だから、3人とも無言になる。無言になって、自分の道具の動きに集中する。

 僕はカスケードをし、そのうち一球を掴んだボールを背中の後ろにもっていき、自分の左手に収まるように前に投げる。

 だがまたあらぬ方向飛んでいく。


「ぬー」


 とぼとぼとボールを取りに歩いていく。

 最初からすんなりできないとは思っていたけど、ここまで変な方向に行くと自分の体の硬さを恨む。

 背中の後ろに腕をもっていくこと自体、肩と背中に地味なダメージを与える。

 一度、1球だけでやってみようか。

 ボール2つを芝の上に置き、1球を右手に持つ。

 たぶんほぼ背面投げに近い形だと思う。それをもう少し左肩の後ろから、左肩の前に飛び越えるように投げればうまく行けるはず、そう考えて投げてみる。

 だがそんなうまく行くはずもなく、大きく左方向に外れていく。

 これはまた、あれを繰り返さないといけない。

 投げては落として拾うことの繰り返しを……。

 いつもやっていることだけど、想像するだけで、しんどくはなる。だができないことをできるようにするにはそうするしかない。

 1回、2回、3回と試行回数を増やしていく。


「ん。む? ぬあ」


 全然うまく行かない。

 

「おっと苦戦しているでござるね」


 エリ先輩がニヤッとした表情で近づいてきた。

 自分の練習はどうしたのだと心の中でツッコミを入れる。


「できるんですか先輩?」

「貸してみるでござる?」


 僕は仏頂面のまま、ボールを渡すと、エリ先輩は軽々と右腕を背中に回しボールを投げた。そのボールは左手の定位置に吸い込まれるようにして動き、その手にすっと収まった。


「こんな感じでござる」


 ムフッと鼻息を鳴らして、ものすごいドヤ顔を見せるエリ先輩。

 表情にイラっとしたのは事実だが、それでもその技術に関しては尊敬する。


「エリ先輩。どうやったらいいのですか?」

「回数こなすだけでござる、あとは柔軟でござろうね」

「柔軟?」

「カゲルは体が硬いでござる。その上に若干の猫背だから、姿勢を直すでござる。そうすると自然と腕を後ろに直せるでござるよ」


 姿勢……。新木さんと同じことを言われた。

 少し胸を貼ってみる。そして腕を背中に回す。

 少しだけ奥まで腕が行けたような?


「おうおう。何やら楽しそうなことしてんじゃないの?」


 てるやん先輩が、眉間にしわを寄せた表情でやってくる。どこかのヤンキーか何かか?


「てるやん。もしかして、嫉妬?」

「そんなわけあるかい!」

「じゃあなにでござる?」

「輪投げしよう輪投げ!」

「輪投げ?」


 てるやん先輩が急によくわからないことを言った。いや輪投げ自体はわかるけど、唐突な輪投げという流れに訳がわからない。


「……なるほどそうでござるか?」

「エリ先輩?」


 納得するの早すぎない?


「よしじゃあてるやん。アフロを剥ぐでござる!」

「おっしゃわかったって、このアフロは地毛や!」

「ほれ。構えるでござる!」


 エリ先輩が自分のリングを横に持ち直し、てるやん先輩から少しだけ距離を取った。

 てるやん先輩が、足を大きく開き、大の字になって構えた。

 今からいったい何が始まるというのだ?


「せーの!」


 エリ先輩はリングをてるやん先輩に向かって投げた。リングはやや斜めに傾き、少し左に曲がりながら進んでいく。

 それをてるやん先輩は体を動かし、首を斜めにしながらリングの下に顔を潜らせた。そしてリングの内側にスポッと入った。 


「よっしゃ! ってエリ!初手からカーブって難しすぎや!」

「いやあ。風が強くて困ったでござるよ。でもよく入ったでござる」

「そりゃ。後輩がいる前で、先輩はかっこいい所見せたいからな!」


 ムフっとエリ先輩とてるやん先輩が僕に向けてドヤ顔を決める。

 その表情だけは、すごーくイラっとしたのは間違いないけど、でも今の技なのか演技問えばいいのかわからないけどさっきの過程は単純だけど凄いと思った。


「これぞ人間輪投げ!」

「どっちかやらしてください!」


 思わず、やりたいと言ってしまった。


「じゃあとる方でござる。ほら構えるでござる」

「エリ待て! 俺に投げさせろ!」

「いいでござるよ! はい!」


 エリ先輩はてるやん先輩にリングを渡すと、二人揃って僕にリングを構える。


「待ってください? まさか」

「そのまさかでござる!」

「そうだぜ!」


 今2つのリングが僕に向かって投げこまれようとしている。ということは答えは一つ。2個同時にリングを取れということ。

 この謎の協力関係はなんだよ。いやまあこの2人が組んだ時点で察するべきだよ。

 こうなったらやるしかない!


「いくぜ」

「「せーの」」


 二人から同時にリングが放たれた。その別々のリングは別々の軌道を描きながら僕のところに集まって……。いくことはなく僕を中心に左右に分かれた。

 僕は反射的に両腕を目一杯に開いて、リングの内側に腕を差し込んだ。

 なんかバンザイした格好になってしまった。


「おう!」

「それは卑怯でござるよ!」

「いやいやいや。左右に分かれてるからこれが限界ですよ!」

「いや待てエリ。これ、もしかしたら面白いことができるぞ?」

「ん?どういうことでござるか?」


 てるやん先輩が、なにやら怪しげな顔になった。それに呼応するかのようにエリ先輩も怪しげな表情になる。今度は何をされるんだ。

 不安な思考が巡る中、それを思わぬ声で中断させるところになった。


「あー! てるやん大先生だ!」


 トコトコという音が聞こえるであろうその小さな体を走らせる一つの人影が見えた。

 あの人は、確かてるやん先輩のファンの人だっけ? 

 その微妙な記憶を引き出している間に、その人はてるやん先輩の目の前にやってくると、何やら包み紙みたいな物を取り出した。すると……。


「てるやん大先生! やっぱりあれから考えたんですけど、もっと会いたくなったので、付き合ってください!」

「……」

「……」

「「えええええええええええ!!!」」


 波乱だらけだよ!

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