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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『次の朝』

 ガラッ。


 家に戻り、崩れるようにベットに飛び込んだ。

 全身が岩のように重い。あとお腹がまだ苦しい。


 食べ放題の店での勝負は、一位、耕次先輩。二位、エリ先輩、三位、一年生チーム、最下位てるやん先輩になり、結果罰ゲームはてるやん先輩が耕次先輩に末尾を「にゃん」を付けて話すという、誰得状態で終了した。


 最初はやっていたが、後半はもう気持ち悪いから、やめようという女性達の判断で終了した。


 その後、漫画喫茶でダーツやビリヤード、卓球といった、ハードなことをしたせいで疲労はピークに達していた。

 

 けど、今までしたことなかった上に、初めて大勢の人と遊んだ気がした。今思うと純粋に楽しかった。

 部活ってこんな感じなのかな。

 朧げに考えていたが、突如猛烈な眠気に負けて、そのまま眠りについた。




「チュン。チュン」


 鳥の鳴き声と、窓から差し込む強烈な日射しが僕を眠りの世界から引っ張り出した。

 半開きの目をこすりながら上体を起こし部屋の中を見回す。異常がないことを確認したあと、静かにベットから床に足を下ろす。


「!!」


 床の硬い感触とは明らかに違う、妙に柔らかい感覚が足の裏を通して感じた。

 焦る鼓動を鎮めるため、一回深呼吸をしてから恐る恐るその場所を覗き込む。


「……。ええええええ!」


 朝っぱらから絶叫を上げるとは夢にも思わなかった。


「ん? ああ! エリ! しまった! 寝てしまったぞ」


 アフロ男が僕の声で目覚めたのか、むくっと起き上がり、隣にいた女性を必死にゆする。

 程なくその女性も起き上がり、気がついたのかハッとしたように口を開ける。


「ああああ。カゲルドッキリ作戦をする前に、カゲルに見つかってしまうとはなんという失態」

「くそー。やはり眠気には勝てんか」


 二人ともドッキリ成功できなかったことを悔いているのか。顔に手を当てたり床に跪きトントンと床を叩いている。


「な、なんで、いるんですか!」


 柄にもなく大声を上げてしまう。

 すると、二人の先輩はキョトンとした顔で僕を見返してくる。


「カゲルをドッキリさせるためだ」

「そうそう」

「そういう問題ではないです。普通なら警察沙汰ですって」


 そう抗議するが、向こうは一ミリもダメージを受けていない。


「そんな常識を超えてこそ、ドッキリなどの驚きが生まれるものでないのか」


 いや、その理論は正論っぽいけど、時と場合によるだろ。話ずれてる。


「別に隣とその隣の住人がここにいる事に、そこまでの問題は発生しないだろ」

「それはただいるという話で、今回はそこに至るまでの経緯が違いますって」


 それがという顔で返され、こちらは何も言葉が出ない。

 全力で突っ込んでも効果は現れない。


 ダメだ。全部屁理屈で埋まっている気がする。


「それよりどこから入ってきたんですか、ドアに鍵はかけたはずです」

「ん? 天井裏から入ってきた」

「え?」


 後ろから殴られるほどの、不意打ちを受けた。先輩が指した方向に行くと、天井板が正方形にくり抜かれていた。その板はご丁寧に金属部品で加工され、開閉式に改造されていた。


「外すの結構骨が折れたぞ、内側からだと暗くて見えねえからな。あと狭いし」

「私が先に行くと言ったではないか」

「おめえ外し方知らないだろ。それにぶっ壊すだろ」

「ああ!」


 ポンと手を打つ。


「俺の手にかかれば隠し通路の入口に早変わりってわけだ」

「流石、我が弟子」

「なんでお前の下なんだよ」


 僕は蚊帳の外で、二人は談笑している。怒りを通り越して、何の感情を持てばいいかわからなくなった。


「そんな落ち込むな。後で通気口は直すから」


 そういう問題じゃない。屈辱だ。



 一人沈んでいると、てるやん先輩がテーブルに置いている、赤、黄色、青の三つのボールに気がつく。


「あれはカスミンのボールじゃないか」


 てるやん先輩の言葉にエリ先輩もボールに視線が集まる。

 話の移り変わりの激しさに、もう突っ込む力は無かった。

 とりあえず、今の話題に話を合わせる。


「はい。それは一昨日のクラブでカスミ先輩から借りました」


 説明が終わる前に、先輩二人はボールに近づき、そのボールを一個ずつ手に持った。


「懐かしい。これカスミンが最初に使っていたビーンバックじゃない」

「そうだな」


 感慨深そうに、まじまじと見つめていた。その借りている当人の僕は、ある用語とその行動の意味が分からなかった。


「ビーンバックってなんですか?」

「このボールの種類がビーンバックという種類だ。特徴としてはボールを四分割するような形で紐が縫い付けられていて、ギュと握ると変形してつかみやすいのが特徴だ」


 初めて知った。借りるときにカスミ先輩からは何も聞いていなかった。


「カゲル。借りてからボールの練習しているか?」


 てるやん先輩がボールを手の上でポンポンと軽く投げている。


「昨日三十分ほど練習しましたが、ほとんど進歩せず、投げて拾うの繰り返しでした」


 昨日の朝、折角借りたので実際練習したのだが、体育館の練習と変わらずほぼ投げて落として拾うという行動ばかりで、すぐに放棄してしまった。


「最初はそんな感じだよな」


 いつになく真面目に返答するてるやん先輩。

 反応がガラリと変わったことに、一瞬別人と思ってしまった。


「カスミンもそんな感じだった」


 唐突にカスミ先輩の話を進めはじめた。


「カスミンも最初部活立ち上げた時、ほぼ初心者でそれに驚くぐらいの不器用で、ボールの練習は落として拾うの繰り返しだった。それでもカスミンはジャグリングが好きだったから、人の三倍以上の練習をしていたんだ。そしたら一ヶ月ぐらいたったら物凄い勢いで上達していった。その時、俺はびっくりした」

「へえー」


 まさかてるやん先輩がそこまで語るとは予想できなかった。

 もう一つ意外だったのは、カスミ先輩が不器用だということだった。そんな風に僕は見えなかった。


「カスミンね。あの頃は本当に不器用だった。本当に何もないところで転けるほどだったよ」


 エリ先輩が上乗せしてくれた内容も僕にとっては衝撃だった。


「だから簡単に諦めないで欲しいかな」


 部長に対して、ジャグリングに対しては二人の雰囲気がガラリと変わったことに、ふと疑問を抱いた。


「先輩方二人は、何故ジャグリングを始めたのですか?」


 二人は腕を組んで考え込む、あまり意識していなかったのか、パッと答えを出してくれない。


「うーん。ノリかな」

「私も」


 所謂、勢いだけの考えに、少しだけまともなのを待っていたのを無駄だと思ってしまう。


「きっかけはないんですか?」


 再び、うーんと唸ると、考えて何とか絞り出した。


「俺は友達がやっていたから」

「私はたまたま生で見たから」


 存外、そんな特別なことでもなかった。


「きっかけなんて正直重要じゃない、続けるか続けないかだ」


 てるやん先輩は脇腹にに手を当てて胸を張る。

 継続していくこと。

 正直僕にはわからない。何となくしか過ごしていなかったから。

 でも何かあるものを続けてきたから、この人たちは楽しんでいるのか。度を過ぎている部分もあるが。


「君も難しい顔をするな。こんなやさしーい先輩がいるんだから」


 むっとした僕は彼女を凝視したが、気がついた彼女はすぐに僕の上を飛び越えて後ろに周り、がしっと腕を掴んで僕を捉えた。

 焦って抵抗し暴れるが全然動かない。


「ちょ、ちょ、なんですか」


 正面にはニヤリ歯を見せて立ち構えている元白い化物。

 そして両腕を広げて飛びかかってきた。



「ヨッシャー! 今伝説のビックドリルアタック!」



 僕の体に壮絶な精神的なダメージを与えたのであった。

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