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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
149/162

『推理』

「くっ」

「んー」

「ふん」

「はあ」


 四人四色。苦い空気だ。もう味わいたくない。

 折角の味噌カツ丼なのに旨さを感じない。

 話をつけないといけないみたいだ。

 昼から練習する予定だから時間が欲しいし。


「エリ先輩。どうしても、僕をいじらないと気が済まないのですか」

「そうでござる」


 ニッと笑いかけるエリ先輩。

 親戚同士の2人は仏頂面で、眺めている。

 なんだろう。いつもより怖い。だけど、いつもより……。


「エリ先輩、もしかして寂しいんですか?」

「……。まさか。そんなわけないでしょ」


 エリ先輩の仮面の笑顔は簡単には剥がれない。

 だが珍しい。末尾が戻った。

 少なくとも余裕はない。動揺してる。

 まさか。

 とはいえ、僕もそう易々とその寂しさを和らげるためにいじられますとは言えない。いじりに付き合い続けるのはしんどい。まあ退屈はしなかったけど、疲れてはいたからな。

 それに、やることが決まったから、それに時間を割きたい。


「僕は先輩に色々されて、大変だったのはわかりますよね」

「そうでござる。それを見るのが楽しいのでござる」


 相変わらずの悪魔だ。


「ドSなのはわかってます。別に僕にこだわる必要はないですよね。例えば大介やカメケンとか」

「あー。そうでござるね。でもツッコミ加減が違うのでござる。そして丁度いい反応がいいのでござる」

「あー。それはわかる気がする」

「「えっ!?」」


 意外な人物の共感に、思わず新木さんと僕は同時にその当人を凝視する。


「ほう。わかるでござるか?」

「ツッパるが、案外話を聞いてくれる部分が」

「そうでござる。聞いてからツッコンでくれるでござる」

 

 共感を得られて、目をルンルンにさせるエリ先輩。

 これは褒められているのか。

 少なくともツバキは、貶しているようには聞こえない。


「ツバキ?」

「でも勘違いするな。アタイは別にそれだけじゃねえし、アンタの様な悪魔じゃねえ」

「初対面に悪魔って酷いでござるね」

「彼氏とのデートを邪魔して悪魔以外のなんでもねえ。それにアパートで何回か顔は合わせたことあるけどな」

「辛辣で……。ござるね」


 エリ先輩の仮面はそのままである。

 ツバキが言うのもわかる。だがそれはそれでイラッとしてしまう。


「ツバキ。嬉しいけど、少しだけ静かにしてもらえないか」

「……。わかった」


 ツバキは気を遣って、手元のうどんをすすり始めた。

 正直こんな風に言いたくなかった。胸が痛い。

 本当はこのままエリ先輩には引き下がってほしいけど、そう簡単には引き下がらないよな。

 早速、自分の計画をずらさないといけない気がする。


「はあ。エリ先輩、次のコマ空いていますか?」

「空いているでござる」


 そうだろうと思った。


「ツバキ、ごめん。折角一緒のご飯だったのに、ゆっくり出来なくて」


 隣の彼女に向けて、僕は頭を下げる。


「あー。そうだよ。この埋め合わせはきちんとしろ」


 明らかにムッとしてる。 

 背中がスッと冷えるのがわかる。


「わかった。週末デート行こう」

「フフ。わかった。時間空ける」


 ニッとした笑みにホッとする。

 ツバキはいつの間にか食べ終わった食器をトレイに乗せて立ち上がる。


「勇一もさっさと行く」

「お前に言われなくても行くわ」


 ガチャガチャと食器音を立てながら、2人は去っていった。

 昼休みは終わりに近くなり、食堂は賑わいから落ちつきへと移り変わる。

 僕ら2人は食べきった食器を横に寄せて、テーブルを挟んで対峙する。


「エリ先輩」

「なんでござるか」

「僕に彼女が出来て嫉妬してるんですか」

「そんなはずないでしょ」 

「エリ先輩語尾」

「……」


 ビタっと口が止まるエリ先輩。

 嫉妬してるんだな。

 

「はあ。なんでか知らないですけど、僕って嫉妬するほどの存在ですか?」

「そんなわけないでござるね。カゲルなんてゴミ以下でござる。嫉妬するほどの価値なんて無いでござる」


 酷い言われようだな。


「じゃあ。僕のことなんてほっといても良いじゃないですか」

「それは……。あれでござる! 同じ部活の後輩だからでござる」


 んー?

 わからん。

 同じ部活の後輩だから、いじる?

 ゴミ以下なのに?

 そんな直訳ではないよね。構ってほしいからなのか?

 いじれる環境が減ったから?

 てるやん先輩もいるだろに寂しいってことはないだろ。

 なんか尋問の流れになったような。いやこれ尋問として成立してるのだろうか。エリ先輩の意図を未だに読みきれない。

 とはいえ推理するしかない。親切にも質問には応えてくれている。

 いつもならはぐらかしそうなのに……。

 ふむ。今までの行動を分析してみようか。

 僕とエリ先輩の会話って、くすぐられて、はたかれて、いじられて、唆されて……。あれ? あまりまともな会話って無いような……。

 無いことはないけど、少ないよな普通の会話って。

 イジられる以外の会話って極端に少ないような。

 んー?

 なんだろうわかんないな。カマをかけてみるしかないかな。

 案外エリ先輩の反応は分かりやすいからな。

 

「エリ先輩。もしかしてイジる以外のコミュニケーションが苦手なのですか?」

「……。そんなわけないでしょ……。でござる」


 早速当たった。案外早かった。表情は変わらないのに語尾だけ変わってるからな。

 まさか単純に不器用なだけなのか?


「じゃあ。これから二度といじらないでくださいと言ったら、いじったら無視しますと言ったら」

「それは……。困る……」


 珍しく困惑する反応を見せた。

 ただ不器用なだけなのか。いや不器用にも程があるだろ。

 だとしても僕に拘る理由にはならない。


「てるやん先輩じゃ駄目なんですか?」

「てるやんはいじらなくても話しかけてくれるし、こちらからいじっても逆に喜びそうだから、なんかそれも違うし」


 逆に喜ぶ?

 僕は視線を上に向けて考える。

 確かにてるやん先輩が怒るのも抵抗するのも想像しづらい。ただ笑ってノリそうではある。

 

「では今でも相手はしてくれてるんですよね?」 

「まあ。そうでごさる」 


 だんだん歯切れが悪くなる。

 いつの間にかやエリ先輩の笑顔の仮面が消えていた。


「じゃあ寂しくはないんじゃないですか?」

「いや、そうじゃなくて。そうじゃなくて」


 エリ先輩が言葉を詰まらせて、必死に絞り出そうとしている。


「てるやんの調子がいつもと違うくて」

「ん? え?」


 僕の頭の上に無数のはてなマークが出現する。


「どういうことですか?」

「あー。そのなんだ。あーもう。こういうこと言うのなんかむず痒くて面倒くさいから言いたくないけど」


 エリ先輩が僕から視線を逸らした。


「あの一件以来、てるやんの調子が悪くて。なんかたぶん凹んではいないんだろうけど、何分ガッツリ怒られたせいか、うちとの付き合いも、なんか妙で……」

「ん……。ん?」


 てるやん先輩の調子が悪い。

 最初の話から予想外の方向に飛んだよな。

 それはそれは確かに僕も気がかりになったよ。

 でも。どうしても、僕にイジる(くだり)が結びつかない。

 腕を組んで考え込む。


「……あ」


 もしかしてそういうこと?


「エリ先輩」

「なに?」

「てるやん先輩がこのところ調子悪いから助けてほしいでいいんですか?」

「……。そ、そう」 


 苦しそうに、こくんと頷いた。


「エリ先輩」

「なに?」

「不器用すぎません?」

「そ、そんなことないでござるぞなめし。あっ」


 エリ先輩が顔赤らめて、もう何語かわからないくらい戸惑ってる。語尾の崩壊だ。

 珍しいことが起きすぎて笑いそうになった。

 実際には笑いはしないが。


 要約すると、エリ先輩の得意のコミュニケーションのイジりが実質制限された上に、よく話してたてるやん先輩が変になったのが、重なったことにより、寂しさと戸惑いが相まって、僕に助けを求めてきた。ということなのかな?


 理由がわかってホッとはしたものの、新たな難題が増えてしまった。

 てるやん先輩の調子が悪いか。

 解決策が思いつかないけど、とりあえずエリ先輩が何となく構ってほしい空気も伝わったので。


「エリ先輩、今道具持ってます?」

「ん? ああ。あるけど、でござる!」


 元気を取り戻したエリ先輩に少しホッとするのであった。

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