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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『涙と電話』

 新木勇一が訪れる少し前のある日。


 私は、泣いていた。


 理由はわからない。


 彼が私達を落ち着かせようとした時、彼が私に謝った時、変わったのかなと思った。

 彼女が出来て、自分の過ちを謝り、真面目に頑張ろうとしている。

 そんな彼を見て嬉しかった。

 ただこの喪失感、モヤモヤ、何かを失ったような、それでいて寂しいような感じ。一体なんだろう。

 私はみんなとは違い時間が短い。だからこそ、この喪失感があるのだろうか。

 それは違うのかな。

  

 ベットから転げ落ちるように降りて、私は例の栄養ドリンクを取り出して、一気に飲み干した。


 相変わらず癖のある味、でも今回は少し甘いかも。

 

 いけない。あまり引きずるな、彼の今後を応援する。それが部長が部員に対する在り方だ。

 そのはずだ。

 だけどこのモヤモヤはなんだろう。 

 

 カゲルに彼女ができたと聞いた翌々日の朝であった。

 目が覚めて、気がついたら目が熱くなり、ポロッと涙が流れていた。

 

 今日は日曜日。

 授業がなくて良かった。

 練習をしようか。よし。しよう。

 また、あの広場で練習をしよう。

 その方が気持ちがスッキリするはずだ。

 そう決意をして、私は壁にかけてある巾着袋を持ち出す。


 ブー。ブー。ブー。


 スマートフォンからバイブル音が鳴る。

 画面に映っていたのは、知らない番号。

 不安に思いつつも、私は通話ボタンを押す。


「もしもし」

「もしもし。白峰カスミさんですか?」

「はい。そうですが。どちら様でしょうか?」

「新木勇一です。一昨日はすまなかった」 

「ええっ!? あっ。いえ。わざわざお電話なんて」


 なんで新木さんが私の番号を知ってるの?


「えっとそれでどうしました?」

「あ。そのですね。実はその。あなた達の部活に入部したいと考えてまして」

「……え?」


 手からスマートフォンが滑り、危うく落としそうになる。

 何かの聞き間違いかな?

 それともドッキリ?


「入部希望なんですか?」

「……はい。そうです」


 言葉に何か含みを感じる。

 何故こんな急に。この時期に。

 私達が迷惑をかけてしまったことに対する報復?

 でもそれなら入部するなんていうあからさまなことはしないだろうし、もっと違う方法をするはず。


「差し支えがなければ理由をお聞きしてもいいですか? あと、電話番号の件も」

「……すみません。電話番号は部統会の真田会長に許可を貰って聞きました」

「なるほど」


 そういえば部統会の一員だったよね。


「入部理由は、そうですね。内緒にはしてほしいですけど」

「……はい。わかりました」

「実はまあ。羨ましいなと思ったのと」

「……はい」


 ん? 羨ましい?


「個人的な興味ですね。騒いでるあなた達を少し羨ましいと思ったのが理由です」


 なんだか。曖昧な理由と、何か裏があるのかな。


『あんたたちはいつもあんな感じで仲がいいのか』


 ふと一昨日の言葉を思い出した。

 あれはなにかの皮肉かなと思っていた。

 けどそれは違って、もしかしたらそういう意味なのか。

 もし偽りならアレをあの場で聞くのだろうか。

 ほんの少ししか会ってないけど、ギャップがありすぎる。


「……ふふ」

「どうしました?」


 いけないいけない。ついつい笑みが溢れてしまった。


「いえ。いいですよ。いつから来ますか?」

「……はい。ありがとうございます。直近の活動日に行きます」

「わかりました。じゃあまたその時にご連絡します。この電話番号でよろしいですか?」

「はい。それで構いません。よろしくおねがいします」

「よろしくおねがいします」


 ピッと電話が切れた。

 たぶん大丈夫だと思う。

 けどみんなと仲良くなれるのかな。いや。まあ大丈夫かな。悪い人には思えないかな。

 お節介な印象はあるけど。


「カ〜スミ〜ン」


 ガラガラの声で襖を開けたアーヤ。

 少しだらしなく着ている部屋着のままである。


「どうしたの? また酒焼け?」

「そんな感じ。それよりさっきの電話、入部希望?」

「そうそう。一昨日のカゲルの真下に住んでいる新木勇一さんが入部したいんだって」

「へー。そうなんだ。いいんじゃない?」


 そういって襖をパタンと閉めていった。

 ほんの少しの沈黙……。


「ちょっと待ってどういうこと!!?」


 バンっと勢いよく襖を開けて、駆け込んできた。


「アーヤもコント好きよね?」

「カスミーンが言うのお?」

「いひゃいひゃい」


 ギューッと頬をつままれ引っ張られ続けた。

 パチンっとゴムのように戻された両頬はジンジンと熱を帯びる。


「アーヤ。それれ」

「それでじゃない。何がどうなってあの人が入部することになった? この前はそう言ってないじゃない!?」

「だって今の電話で、入部したいって初めて聞いたんだから」

「えええ!?」


 アーヤの乱れた髪がさらに乱れ、肩紐が腕にズレ落ちる。


「もう。頭痛い」

「それは同感」

「カスミンも」

「へ?」


 私も頭痛くなるようなことしたっけ?

 ああ。そんなことあった気がする。


「なんでそんなに落ち着いているの?」


 そっちね。


「実際会っているし、何となく人柄はわかったからね。新木さん個人については問題はないと思う」

「カスミン。人を信用しすぎる。それにその言い方だと周りは問題あると思ってる?」

「それはねえ。何せこっちが迷惑かけてるから。不安にはなると思う」


 実際近所問題はあるし、警戒はする。たぶん大丈夫なのは彼だけじゃないかな。


「はあ。文化祭が終わっても問題続いてばっかり」

「退屈しないだけいいんじゃない? 特にこれから大きくするためには、新たな風もいるだろうし」

「んー。確かに毛色が違うタイプ。不和が起きなきゃいいけど」


 不安そうに腕を組むアーヤ。

 ネガティブな部分がでてくるのは仕方ないこと、でもポジティブに考えてもいいとも思う。


「抑止力としてはいいんじゃない。常識離れのことをしていたけど、常識で繋ぎ止めなきゃいけないときもあるし、それにアーヤの負担を少しは減らせるんじゃない?」


 するとアーヤがじっと私を見つめる。


「カスミン? その人のこと期待している? それとももうそこまで考えていたの?」

「ん?」


 確かにサラッと言った。何となく……。いや……。たぶんもう期待しているのだと思う。

 なにより理由がねえ。


「ふふ」

「カスミン。変な顔してるよ。まさか?」

「まさかって、どのまさか? 大丈夫だって」

「なんか誤魔化した」

「大丈夫だって。私のポジティブは大丈夫でしょ」

「いやかえって私の胃がもたない!」


 アーヤがお腹をおさえている姿に、苦笑していた。

 そんなやり取りをしていたら、いつの間にかあの涙は消えていた。


 そして次の部活動日、新木さんがやってきた。   

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