表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
143/162

『一難去ってまた一難』

「時間をとらせて悪かったな」


 103の部屋から出て、2つ隣のツバキさんの部屋に向かう途中。

 新木さんは申し訳そうに首に手を当てる。


「本当に」

「てめえじゃねえ」


 呆れたツバキさんと、苛立つ新木さん。


「まあまあ。色々とはっきりしたから良かったです」

「はい。僕の方も色々迷惑かけましたし、それに状況説明もできたので」

「……。ああ。それはまあな」


 両手を出してフォローにすかさず入る部長と遅れての僕。

 先を越されてしまうことに後悔する。

 頻りに首を回している彼。


「ったく。あんた勢いだけあるくせに、途中で……」

「それ以上は言うな」


 いつの間にかツバキさんが優勢になっている。

 まあ。もう落ち着いたなら、いいか。


「それじゃあ。部活楽しんでね!」


 ツバキさんが新木さんを引っ張りつつパッと手を振る。

 僕も振り直そうとする。


「あ、あの!」


 カスミン部長が、少し前のめりになりながら呼び止めた。

 彼女は毒気が抜けた純粋な興味を見せた。


「今後ともよろしくおねがいします!」


 ペコリと下げた部長。つられて僕も頭を下げた。


「いえ。むしろこちらこそ今後ともよろしくおねがいします」


 ツバキさんと、新木さんも頭を下げた。


「それじゃあまた明日」

「はい! 明日」


 ヒラヒラと手を振る彼女にハラハラと手を振る僕。

 パタンとドアを閉めた音の後に、降りてきた沈黙。

 恐る恐るカスミン部長を覗き見る。


「カゲル!!」

「はい!」

「一言言わせて!」

「何でしょう?」

「公私混同はしないように」

「はい!」

「それと」

「それと?」


 一言じゃなくなっている!?


「おめでとう。嬉しいよ。あの頃に比べて、だいぶ変わったんじゃない?」


 意外だった。

 と同時に嬉しくもあった。でも微かな心苦しさが薄く纏った。


「ありがとうございます!」


 素直に喜ぶべきなのに、僕は何か引っかかりを覚えた。いや。たぶんどこかで気がついていたんだ。それが何なのか明確な言葉にできなかった。でもそれが今日の騒ぎでわかった。


「カスミン部長」

「どうしたのカゲル?」


 これは本当は言うべきなのか、いや。言わないほうがいいのか。ただ謝ればいいと思っているだけなんじゃないか、自分がスッキリしたいだけではないのか、それかそう言って慰めてもらうという甘えなんじゃないか。

 しかも相手は彼女でもない……。

 違う。そうじゃない。それは関係ない。それこそ失礼だ。誰隔たりなく平等に接するなんて無理だけど、だけど、親身に関わってくれた人にはしっかりと話をしろ。ケジメだ。部員としてのケジメだ。

 もしかしたら一方的かもしれない。でもこのまま隠すのも罪悪感でしかない。


「すみません。部長。僕は謝らなければなりません」

「えっと。それは彼女がいることを隠したこと?」

「それもあります。でもそれだけではないです」


 なんだろうという、怪訝な表情に、僕は胸が痛む。


「学祭の最中です。僕はその時にツバキさんが彼女になりました」

「そ、そう」

「それを理由にはしたくはないですが、僕は浮かれていました。バルーンの配布の時も、たぶん……。いや間違いなくうつつを抜かしていました。だからこそ誘拐されるなんてことになりました。それをあなたの優しさに僕は甘えていました。だから、学祭の肝心なときに中途半端なことしてすみません」


 深く頭を下げた。

 突然すぎるし、なんだか自分を納得させる為に謝っているようでならない。だけど、だけど、今頃になって中途半端な自分を許せなくなってくる。


「頭を上げてカゲル?」

「は、はい」


 カスミン部長の静かな声に、ゆっくりと顔をあげる。彼女のちょっと困った表情をみせる。


「なんといえばいいかな。それはお互い様だよ」

「えっと……それは」

「私は君たちに助けられた。カゲルに迷惑をかけたよね。だから私の方こそごめんなさい」

「それは……」


 彼女は頭を下げた。

 思ってもみない展開に、言葉を失う。

 確かにあれは大事件だったけど。


「私はあなた達に迷惑をかけて助けられた。だから私はあなた達を助ける。いや。たぶん。助けられなくてもあなた達を助けるよ」

「……」


 彼女は静かに微笑んだ。

 それはいくらなんでも優しすぎる。もう聖人だ。


「それに、はっきりと言ってくれたんだから今更私は何か言うことはないよ。君の勇気に私は何も咎めはしない。あるとするなら今後気をつけて、かな?」

「……それでいいのですか?」

「……いいも何も、それを話したってことは、しっかりと考えて反省して、もうしないって決意で言ったものかなって」


 純粋だ。彼女の瞳の奥にあるのは純粋な信頼。

 ただ真っ直ぐに信じてくれている。

 だからこそ耳が痛い。

 だからこそ、もう裏切るな。

 僕はその一言に力をのせて、答えた。


「わかりました」





「「そーれーでー。どーなーっーたーのー!?」」


 メグとリナが不貞腐れた顔で、カメケンの部屋から、出てきて、僕と部長は連れ込まれた。

 みんなガヤガヤしながら、僕とカスミン部長に注目する。


「とりあえず事態は……」


 カスミン部長が話そうとしたのを遮るように、僕は前に出た。


「ごめんなさい。みんなを待たせた上に迷惑をかけてしまった」


 そしてみんなの前で深く頭を下げた。

 突然僕が率先して頭を下げたことで、部員のみんなは静まりかえった。


「あ、いや。私達も、突然押しかけてごめんなさい」

「私も」


 メグとリナの急な変化に、逆に戸惑う、僕と部長。

 すると、チラッと目があったのが二人。

 耕次先輩とアヤメ先輩。


「いやー。カゲルの彼女があんなに可愛いとは。ううー」

「カメケン。ちょっといい加減諦めなさい」

「リナも、結構引き摺ってってええ!?」


 目元を真っ赤に腫らしたこの部屋の主が、引きずられ、隣の部屋に連れ込まれる。


「まあまあ。ゆっくりお茶でも……」


 そう言って、コトとテーブルの上に湯呑を置く日暮顧問と大介。妙にかしこまっていて気味が悪い。

 そんな気味が悪い二人を他所に、部屋を見回す。

 あとは部屋にいるのは大介と日暮顧問だけ。


「エリ先輩とてるやん先輩は?」

「まあ。大丈夫だから」

「大丈夫?」


 アヤメ先輩が腕を組んで、ため息混じりで答えた。

 大丈夫って。何が大丈夫なんだ?


「で。どうなったの?」


 ピリッとしたアヤメ先輩の言葉に、僕は正直に事の顛末を話した。


「はー。とりあえずは落ち着いたのよね」


 アヤメ先輩は深いため息からの、安堵した言葉を溢した。


「とりあえずは、今後僕の部屋の許可は変わらないですけど」

「まあ。私も今後謝りに行くから」

「私も」

「俺もだな」

「僕も」

「私もかな」


 部屋の騒ぎは部員全員が原因だし、顧問もそうだよね。謝りにいかないとな。改めて迷惑をかけすぎた。


「で、そっちはなんとかなったとして、カゲル。彼女の話をしなさい」


 ぶっっと飲んでいたお茶を吹き出した。


「アヤメ先輩?」

「こっちは待ちくたびれていたんだから?」


 ちょっと待って、アヤメ先輩。顔が赤くなってない?


「えっ? 待ってなんでアヤメ先輩」

「アーヤ! もしかして酔っている?」


 カスミン部長が、グワッとアヤメ先輩を抱きかかえる。


「カスミーン。良かった無事だったあ〜」


 そう言ったあと、カクッと頭を垂れてグッタリとした。


「えっ。えっと? 何があったの?」

「いや〜。それがねえ」


 顧問がコクコクと話してくれた。

 僕達が連れ込まれたあと、どういうことなのか、事情が詳しい人誰かと、アヤメ先輩が問い詰めて、観念したエリ先輩とてるやん先輩が全て話したことにより、元凶の二人が、退場させられた。

 あとは、不安でならなかったのも合わせてお酒を飲んだらしく、半端ない迫力だった為に、みんなの神経がピリピリとしていたらしい。


 そして、とりあえずアヤメ先輩を寝かしてなんとかなったのであった。


 その後のことは、もうみんな疲れたので僕とカメケンの部屋に男女に分かれて、眠ったのであった。


 


 そして数日後、次の部活動日。


 カスミン部長がとても不安な表情をしていた。


「えっと、新入部員を紹介します」


 そう言って、ゆっくりと歩いて現れたのは、僕の知った人物。


「新木勇一です。これからよろしくおねがいします」

「ええええええええええ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ