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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
136/162

『大学祭終了!』

 部統会の一室。


 ピリッとした空気で張り詰めていた。

 会長が大きめのテーブルに座って、紅茶を飲み。副会長がデスクに座り書類に目を通し、純浦が同じく書類に目を通している。だが一連の騒動のせいで、重々しい空気が流れているのがわかる。

 もともと口数が多いわけではない。だが誰も話そうとせず誰も話しかけられたくもない。そんな状態。


「おっ疲れ様でーすっっ!!」


 と、そんな空気をぶち壊す勢いで豪快に扉を開けた金橋皐月である。

 スタスタと中に入り、自分の机にある書類を流し見てから会長に提出する。真田は眉を一つ動かさずに受け取った。

 金橋はじっと真田を見つめたあと、副会長の堂島と、純浦を見たあと、ふんと鼻を鳴らした。


「三人ともご飯を食べに行きませんか!?」

「……ん?」

「……む?」

「……え?」


 三者三様に驚く上に、堂島に至っては眉間に皺を寄せて、金橋に食って掛かる。


「ふざけるな! まだやることがあるんだぞ!」

「終わってからでいいですと言いたいところですけど、折角の大学祭で楽しめないで終わるのなんて、悲しくないですか!?」

「どうでもいい。こっちはお前のせいで腹立ってんだ!」

「だからですよ。仲違いはしましたけど、このままぎくしゃくしたまま部統会続けるつもりですか? それこそストレス溜まりますよ。だったらごはん食べて全て水に流さないと思いませんか?」

「水に流すだと!? 俺のプライドを傷つかせておいて、一方的に水に流すってどの口が!?」

「えええ!? 良い年して人を嵌めれなかったから、プライドがって、子供ですか!?」

「なっ!?」


 初めてではないだろうか、堂島が面を食らった表情を見せるのは。


「ふっ。そうね。今日はここ四人で食べますか。あー。それと彼も誘いますか?」

「んー。無理だと思いますよ。あっちはあっちで忙しそうでしたよー」

「そうですか。じゃあ、四人でどこか食べましょうか? 純浦君もよろしいですか?」

「大丈夫です。堂島さんが行くなら行きますよ!」


 意図してはいないものの追い討ちをかける純浦。

 黙ったままの堂島に真田は少し笑みを浮かべつつ誘う。


「堂島君、会長命令ですよ。ご飯を食べに行きましょう」

「……。わかりました」


 堂島は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「じゃあ。今日は引き上げましょう!」

「え。もうですか?」


 純浦がばっと立ち上がる。


「そうですよ。善は急げ。気持ちが変わらないうちに行きましょう。残りは明日に回せばいいのですから」

「そうそう。行きましょう!」


 そう言うと金橋が二人をけしかけて、テーブルに書類を残したまま部屋を出ていった。

 最後の一人となった会長はまた一つ溜め息をする。


「私も子供だったかな」


 自分の手でボロボロにしたパンフレットを開いた。

 あるページに人差し指を立てて、さっとなぞる。

 しっかりと()()()()()()()()という文字が書かれていたのを確認すると、会長はぎゅっとパンフレットを丸めて、ゴミ箱に静かに捨てた。

 そして部屋を出たのであった。





 夜中。僕の家にて


「それでは大学祭が無事終わったということでカンパーイ!」

「「「カンパーイ!!!」」」


 各々コップが鳴り響き、一斉にジュースを飲み始めた。

 テーブルに並べられたお菓子や、つまみなどをみんながそれぞれ取っていく。


「ぷっはー。うめえ!!」

「大学祭の後のジュースは上手いな」

「酒だったらもっと旨かったでござる」

「こら。エリ、まだ後輩がいるからだめ。飲むなら終わってから飲みなさい」

「そうそう。エリ酔うとめんどくさいから」


 カスミン部長からのアヤメ先輩の追撃に頬をひきつらせるエリ先輩は、さっと首を動かして、急に顧問の首の根を掴んだ。


「それを言うなら()()()()()が一番めんどくさいでござる!」

「え!? えええ。ちょっと! というかひっちゃんって呼ぶな!」


 ジタバタと足と手をパタパタさせる顧問。

 僕はサイダーを飲みながら静かに二回頷く。


「数谷君。なにゆえ納得してんの?」


 しっかりと見られていた。そこは教授なんですね。


「まあ。目撃しましたので」

「ええ!? いつ?」


 そんなまさかという表情をしている。いやいや覚えていないんですか。ああ。相当酔ってたから覚えていないのか。


「ええ? 何それカゲル! 知らない! 教えて!?」

「気になります。カゲル!」

「どうだったんすっか!?」

「えっ。えっ?」


 同期四人から一斉に質問責めに合う。というか、そんなに気になることなのか。


「ちょっ、ちょっと待って、私も聞く!」


 顧問がエリ先輩の掴みを振りほどいてきた。どんだけ力があるんだよ。


「別に大したことないよ。ただ夏合宿の海岸で一升瓶を抱えて寝転んでいただけだよ」

「えええええ! この身なりで」

「ひどっ! 音水さんそれはないでしょう」

「ちょっと、顧問危ないですよ!」


 メグがあからさまに指さして、怒った勢いで飛び乗ろうとする顧問を、リナがすかさず受け止めるという。もうてんやわんやな状態になった。


「あの身なりで一升瓶は確かに衝撃だな。そして誰かが見ると誤解を招く」

「一升瓶か」


 静かに僕の両隣に寄って来た大介とカメケンである。

 わかってくれたみたいでよかった。


「ふう」


 カメケンは壁に寄りかかり、溜息をついた。


「どうした」

「いやー。なんかどっと力が抜けてきた。カゲルがいなくなってと聞いて、めちゃくちゃ焦ったんだよ。そんで真っ先に救出しようと思っていたけど、なんか急に人前でポイを回してってなって、『俺一度も人前で回したことないのにできないです』って言ったら、『大丈夫。なんやかんやあんまり人は見てないからとかアーヤ先輩とカスミン先輩』が言うから、余計わけわからんようになって」


 ()()()()()()ということを伝えようとしたんだろうか。先輩っぽいちゃ先輩っぽいな。


「『そしたら最初が怖いだけだからあとは勢いで何とかなるって』と言われて思いっきり連れていかれた」


 ははは。強引だな。


「でも、よかった。確かにやってみたらなんか世界が開けたような感じだった。自分の演技で歓声が聞こえて、新しい世界を見た気がした。ここに来なかったら見なかった世界だった」


 カメケンの目のきらめきを見ながら、僕は「それはよかった」と言った。嘘偽りもない本心の言葉だ。ただ同時に羨ましいとも思ったし、ほとんど何もできなかった自分に劣等感が生まれた。

 僕は何もできずに閉じこめられて、結局みんなに尻ぬぐいしてもらったし、本当に散々だったから……。


「ごめん。迷惑をかけた」

「何で謝るんだよ……。ああ! いやいや連れ去られたのは事故だよな。だったらもう助かってよかった。それでしまいでいいだろ」

「うん。けどなんか。その……」

「僕も怒ってないよ。確かにバルーン配布はしんどかったけど、カゲルが無事で良かったよ」


 大介が逆側から、ぬっと顔を覗かせていた。

 いや、ふ、二人とも……。や、優しすぎるって。

 急激に目が熱くなってきた。


「あ、ありがとう」

「お、おう。ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、カゲルど、どうした?」

「え。え! え?」


 二人が慌てているのを余所に、涙を止めようとしたけど、全然止まらない。


「ちょっとカゲルが泣いているよ」

「え。うそ!」

「ほほう。これはまたまた珍しいでござる」

「数谷君!?」

「どうした。どうした。どっちが泣かした?」

「うむ。泣かすのは」

「こら二人とも」

「どういうことか説明しなさい」

「違うっす。むしろ励ましていたっす」

「そうですそうです!」

「あ。いや。二人は悪くないです。ちょっと二人の優しさというか、みんなの優しさが染み渡りすぎて、本当にみんな優しい人で本当によかったと思っただけですから」


 僕は本心を言った。するとなんか全員こう、反応が止まるというか、なんか声が止まった気がした。僕は目を擦って視界を確保する。


「ううー。いい後輩を持った」


 耕次先輩がもらい泣きされた。腕をごしごしともう号泣している。


「いや。ついに俺らの偉大さを分かってくれたのか」

「よかったでござる」


 例の二人さん。そこの偉大さではないんだけど。


「カゲルはいいやつっす」

「うんうん」


 大介とカメケンが頷く。


「カゲルって人たらし?」

「そうじゃなくて……。そうじゃなくて、天然人たらし?」


 ちょっと待ってメグ、リナも酷い。


「天然って言ったらね。ここに強者が」

「ちょっとアーヤ!? 待ちなさい」

「え。気になる中谷さん?」

「あ、もう一人発見?」

「酷い!」


 アヤメ先輩が裏モード発生している。もう本当に自由奔放だな。でもそうか。考えすぎか。いや考えないといけないことだけど、今は楽しんだ方がいいのかな。


「辛気臭いのはなしだよ。飲み会ぐらいは楽しんで!」


 カスミン部長からウインクが飛んできた。そうですよね。今は楽しもう。

 本当にここの部に入ってよかった。




 お疲れ会が終わり、一年組、大介とメグとリナと何故かカメケンもが眠った頃。僕は眠れずに起きていた。

 するとピロンとスマホが鳴ったので、画面を開いた。


『今日はお疲れ様。どうだった?』


 柿沢さんからのメッセージだった。僕はすかさず指を動かして返す。


『よかったよ。お客さんもたくさん来てくれた』

『そうか。こっちも今まで一番よかったと、バンドメンバーが言ってくれたんだ。だからすっごいよかった。ありがとう』

『今日は、僕は何もしてないですよ』

『昨日の君のおかげだよ。だから、ありがとう!』


 こうも感謝されるとなんだかむず痒い気持ちだ。


『どういたしまして』


 そう送ると、スタンプが返って来た。そのスタンプが、白と黒で塗られた顔の人物が、笑顔で飛び跳ねているスタンプだった。

 こ、これは、喜んでいるのかな。

 初めて送られたスタンプにしばらくの間、悩み続ける僕であった。





 お疲れ会も終わって、家に帰った私たち。


「ふー。流石に疲れた」

「そうね」


 私はテーブルにぐたーっと上半身を預けて腕を伸ばす。ああ、ここで寝れそう。


「カスミン。風邪ひくよ」

「うーん。大丈夫。五分したら動くから」

「本当に? わかった。五分経って動いてなかったら、起こすからね」

「うー。わかった」


 アーヤはパタンと扉の音を鳴らして自分の部屋に戻っていった。

 静かになる。色々あった。バルーンのお客さんが来ないからの部統会の陰湿な作戦の発覚。そして人海大作戦からの叩いて被ってジャンケンポンの、カゲル誘拐からの救出のライトアップポイ。

 目まぐるしい二日間だった。何とか全部まとまって良かった。でも私は貢献できたのかな。ほとんどアーヤが立ち回ったおかげだよね。

 私なんて、叩いて被ってジャンケンポンをやっただけな気がする。あれでお客さんが来たのってアーヤのおかげだよね。


「……」


 私、今年の半分なんかできたっけ?


 いやー。何もできていない気がする。これはまずいよね……。

 ジャグリングをしていないし……。

 一日目で見たダンス部の演技がフラッシュバックする。

 いけないやっぱりジャグリングしないと、ガバッと起き上がり、部屋に転がり込んだ。

 そしてボールをバックから取り出した。そしてボールを投げる。


「カスミーン! 今日は寝なよ」


 気がつくと部屋のドアを開けて、じっと見つめていた。


「あ、はーい」


 静かにボールを鞄にしまうと、スーッとドアを閉めるアーヤであった。

 明日からにしよう。そして、次こそは私も舞台に立つ。


 そう硬く拳を作って決意したのだった。

あとがき失礼いたします。


これにて第二章終了となります。

ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


私的な都合でございますが、一度休憩も兼ねて、少しの間、更新をお休みいたします


第三章ですが、目処が立ち次第活動報告にてご連絡する予定です。


今後ともよろしくお願い致します。

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