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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭2日目!』その16

 外に出たときはもう空は真っ暗になっていた。

 部統会会長は足早に去っていた。

 カスミン部長は難しそうな顔をしつつも、「まあ、ついてきて」と言って僕の少し前を歩いている。


「あらー。もう夜だねー」


 僕たちの横で金橋さんが、腕を伸ばしている。

 そして何か言いたげな表情で目を細める新木さん。


「どうしたの?」

「何もない」

「ん?」


 はて。と不思議そうに首を傾けていた。

 いや、それよりも……。


「えっと。なんでついて来ているんですか?」


 僕が振り向くと、金橋さんは目を輝かせ、反対に新木さんは目を鋭くさせた。


「このあとなにやら面白そーだから!」

「けじめだ」


 両極端である。金橋さんは想像通りだけど、新木さんは……。真面目なのかな。


「んんんー」


 カスミン部長は何やらとても不安そうに唸っている。一体何があるのだろうか。

 大通りに向かって歩いていくと何やらぞろぞろと人影が増えて流れていくのが見えてきた。

 グランドステージが終わったのだろう。

 でもまだ広場には結構な人がいる。


「おっ!? いたでござる! カゲルゥゥ!!」


 ササッと軽快なフォームで人の流れをものともせず、すいすいと走ってきて、そのまま……。


「食らえ。抱腹絶倒!! 脇腹アタッッ!」

「うああ!」

「ストップ!!」


 エリ先輩の伸びた両腕をガシッと上から掴んで制したカスミン部長。依然手だけモゾモゾ動かしながら、カスミン部長を恨めしそうに見る。


「カスミン。守り固すぎるでござる」

「というより、エリの好戦欲求が強すぎるだけだよ。分かりやすい」

「およ。そうでござるか」


 勝ち目がないと判断したエリ先輩は、静かに手を引いた。


「エリ先輩、すみません。お騒がせしまして」


 僕は頭を下げる。


「いいでござる。いいでござる。むしろイジる話が増えたから」

「エエリイイ!?」

「カスミン。おっかないって」


 力関係は知っての通り。


「君も真面目だな」

「ほんとほんと」

「およ。そこの二人は……。ほうほう。そういうことでござるか」


 キランと目を光らせてから、じっくりとなぞるように観察しながら、二人に近づく。新木さんは緊張の色を浮かべ、金橋さんは変わらない。

 エリ先輩のことだから既に知ってそうだけど。


「って、あれ? もう数谷くんがいる!?」

「よかった」


 こちらも両極端な声が一緒に聞こえたかと思うと、一目で分かる大きな姿が近づいてきた。

 耕次先輩とその背中からひょっこりと顔を出した日暮顧問であった。


「元気そうでよかったよー」

「すみません。お騒がせしまして」

「うむ。無事でよかった」


 頷く耕次先輩と顧問のゆるい声でホッとする。


「顧問も、すみません。大丈夫でしたか?」

「うう。もう慣れたけど、肝心な場面でなるとは」


 カスミン部長が謝ると、小さい体を更に縮めるのであった。何かあったのだろうか。


「その後ろの二人はどうしたんだ?」


 興味深そうにじっと二人を見つめる耕次先輩である。

 エリ先輩と耕次先輩の二人に眺められる部統会二人の表情は綺麗に対比する。何とも思わないどころかキラキラしている金橋さんは、強靭な心臓でも持っているのではないだろうか。

 それはさておき。


「あの? 部長。ここで何が行われるんですか?」

「んー。とりあえずあと少しで花火が上がるはずなんだけど、その前に……」

『おおおっ!』


 広場の前の方で何やらざわめき、いや歓声だろう声が聞こえた。

 だがよく見えない。


「耕次先輩何が見えますか?」

「そうだな。じゃあ見るか?」

「ん? えっ?」


 耕次先輩がするっと片手で僕の体を持ち上げた。群衆は眼下に移動し、視界が開けた。ギャラクシーホールの広場の左側、ほんの少し高くなった段差のステージっぽいような場所で、二種類の光が見えた。

 一つは紫とピンクの光のライン、もう一つが青と黄色のラインだ。

 その光が暗闇というスクリーンに綺麗な円を描いた。くるくると円が加速し、楕円に変わっていくかと思えば、光のラインが大きく逸れては戻り形を変えていく。

 二種類の色が交差するとまた大きな驚き声が沸き上がった。

 お客さんの流れが止まり、注目がどんどん集まっていった。


「すごい!」

「綺麗だ。私のポイが、あ、あんなに綺麗になるなんて」


 背中に乗る顧問が、ポロポロ涙をこぼしながら、頬を上げて笑っていた。


「綺麗だな」

「えっ。ちょっと待って見えないよ」

「カスミン。私の肩に乗るでござる」

「え? エリ!? ちょ、ちょっと。待って自分で乗るから」


 掴まれた腕を振りほどきながらもエリ先輩の上に乗って、肩車された。僕と同じ高さに位置するカスミン部長は、光り舞う光景を見るや大きく目を見開いた。

 そして、食い入るように、見つめていた。


「私も見えなーい。新木くん。お願いできるー?」

「するか!」

「な、なんでえー!?」


 しょんぼりとする金橋さん。どうしよう。せっかくだから見せたい。そう思い、声をかけようかと思ったら。


「じゃあ前に突撃していく! うらー!」


 叫び声までひょうきんであった。群衆の中に突っ走っていったのであった。新木さんは腕を組んだまま動かなかった。


「あのー。追わないんですか?」

「ほっとけ。どうせ適当に帰って来る」

「そ、そうですか」


 ちょっと前から気になっていたけど、性格がすごくトゲトゲしくなったよね。

 まあ。とりあえず面倒なことは置いておき、前の二人のパフォーマンスを見よう。

 今も闇に光を描き続けている、さっきよりも速く、そして大きくなっている。群衆から観客へと変わり、「おおお!」という歓声が大きくなった。

 トドメの急速にスピードアップした光に、拍手が湧き上がった。


 僕は食い入るように見つめた。音もないただ視覚だけで人を魅了した光のパフォーマンスに僕は感動した。そして、一つの虚無が、僕の心に影を落とした。


 ボンっという音とともに、二つの光は消え、代わりに夜空を新たな光が照りだした。


 花開くように色とりどりに広がる花火だった。


「光り輝くポイの後には、花火か。すごいよー」


 顔がぐしゃぐしゃになっている顧問である。


「んー。す、すげえな」


 下にいる耕次先輩も涙声になっている。二人揃って涙腺が緩い。


「カスミン。もう降りるでござるか?」

「え。ああ。うん。ありがとう」


 反応が微妙に遅くなりながらも、カスミン部長はゆっくりと下りて地面に足をつけた。僕も耕次先輩に言って下に降りたのだった。


「じゃあ。花火を眺めつつ、四人と合流して戻りますか」


 カスミン部長の言葉にみんなは同意しつつゆっくり歩き始めた。

 え? 四人?




 新木さんはいつの間にか姿が見えなくなり、そして四人と合流する。


「うおおお。カゲル帰って来てよかったぞ!」

「よかったっす。よかったっす!」


 てるやん先輩とカメケンにめちゃくちゃ抱き着かれた。ちょっとちょっといやそうやって心配してくれて喜んでくれるのは嬉しいけど、さすがに暑苦しい。


「カゲルゥ。心配したよー。そんで、めっちゃ緊張したっす。手え震えったっす。あんなところでいきなり演技は怖かったっすー」

「俺は結局道具なくてできなかったんだぞー。それに比べてカメケンはできたからええやん。うおおお!」


 早くも違うことで泣いているんですけど。

 頑張って引き剥がそうとするが、想像以上に力が強くて離れない。

 五分ぐらい粘ってようやく解放された。


「とりあえず、何ともなさそうでよかった。大丈夫だった?」

「カゲル君大丈夫だった?」


 アヤメ先輩と榊原さんの少しホッとした表情を見て、とっても申し訳ない気持になりながら、またまたぺこりと頭を下げた。


「あ、はい。ご心配をおかけしてすみません。とりあえずは、大丈夫でした。部長が助けてくれました」

「と言っても、ほとんどは部統会の人たちが結局何とかしてくれたんだけどね」


 カスミン部長はひらひらと手を動かして、かぶりを振る。


「そう」

「そっちは上手くいったみたいでよかったね」

「いやいや。こっちもこっちで音楽がなかったし、マッキーにも来てくれたんだけどさすがにマイクもない状態と声は届かなかったりと厳しかったよ。ほぼ無音で強引にやったから、あんまり見てなかったんじゃないかな?」


 アヤメ先輩は首を傾げると、榊原さんと、僕ら五人は必死に否定する。


「そんなことなかったよアヤアヤ。ちょっとだけ離れて見たけど、意外と人が見てたよ!」

「かなりの人見てましたよ!」

「見てたな」

「いたよ!」

「いたよー!」

「いたでござる!」

「え? そ、そうなの?」

「そうっだったんすか!?」

「うおおお。まじかああああ! 俺も光るものがあれば出たかった」


 驚きに満ちた表情のアヤメ先輩とカメケン。そしてガクッと膝をつくてるやん先輩。

 むしろいつもの感じでホッとした。


「じゃあ。私は帰るね」

 

 榊原さんがさっと歩きだして手を振る。


「ああ。うん。ありがとうね! ほらカゲルも」


 ポンとアヤメ先輩に背中を叩かれ、びっくりしつつも僕は謝意を述べた。


「はい。ありがとうございました!」

「どういたしまして。色々気を付けるんだよ!」

「は、はい」


 凄い痛いところを突かれて少し凹む僕であった。


「積もる話もあるだろうけど、とりあえず戻りましょうか? 一年生たちを待たせちゃいけないし」


 アヤメ先輩の言葉に従い、旧棟に戻った。



 旧棟に到着すると。


「ああ! カゲル帰って来た!」

「カゲルさん!」


 メグとリナが、走ってきてそして。

 ゴフッと腹に衝撃が走った。痛みで悶絶し足が震えた。二人の壮絶なパンチによって出迎えられた。


「ちょ、ちょ、お二方?」

「あんたが連れ去られたせいで、こっちは大変だったんだから! 罰として、今日はあんたの家で泊めさせてね。というか押しかけるから!」

「そうですね。宿泊代代わりで手を打ってあげますから」


 リナの目が笑ってない。


「ちょっと待って。確かに落ち度はあったけど、今回は不可抗力だって!」

「それを言うなら、私たちもだって! バルーン一杯捌いたんだから! 大ちゃんに至っては真っ白に燃え尽きちゃったんだよ!」


 ビシッと指さした方向を確認すると、大介が椅子にもたれて、口を半開きにして、魂が抜けたように座り込んでいた。

 ま、まじか。


「す、すまん」

「まあまあ。今回は事が事なだけに、結局私たちの事後処理不足で巻き込んでしまったから、私たちの責任でもあるし、カゲルも反省しているようだから、落ち着いて」

「むむ。カスミン先輩が言うなら。まあ。そうですね」

「それはそれで聞き捨てならないんですけど、部統会は大丈夫なんですか?」


 納得するメグだが、リナが部統会関連で疑いの視線を送る。


「大丈夫だよ。部統会の方もそれなりにうまく収まったから」


 カスミン部長が「ね」っという視線を送ると、少し考えたあと「ならいいんですけど」と渋々納得したようだった。


 でも、みんなの反応を見て、結構迷惑をかけてしまったと、不可抗力とはいえ反省の気持ちが消えない僕であった。

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