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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭2日目!』その12

『えええええええええ!?』


 一体全体どういうことだろうか。 

 この短時間に起きた怒濤の出来事に私の頭はショート寸前である。


 ざわざわ。ざわざわ。


 あまりに大声過ぎたのか、周りの注目が集まってしまう。

 私たちは静かに隅に寄って小さく円陣を作り集まる。


「もう一回言ってくれない? よくわからない」

「私もよくわかっていないんだけど、カフェテリア内を歩いていた時なんだけど、ふと人を背負っている人とすれ違った時、妙だなと思って注意深く見ていたら、その背負われているのがカゲルだったんだよ。しかもぐったりと眠っていた」

「えええ!?」


 とんでもない状況に頭が追いつかない。 


「見間違いではないですよね?」 


 リナの疑念に、マッキーは首を横に振る。


「最初はそう思ったし、三度見ぐらいしたって。でも確かにそうだった。気になって追っかけた。体調壊して、保健室でも向かっていると思ったら全く違う方向に行ったし、けど途中で人が邪魔で追いかけることできなかったんだって」


 身ぶり手振りで説明する姿は嘘を言っているようには思えないし、嘘だったらもっとまともそうな話をするはず。


「でも万が一見間違いだといけないから、確認も兼ねて来たんだけど、カゲル君はいる?」

「……。来てない……ね」

「やっぱり」


 現にいない。だからマッキーが言うことはほぼ確実。

 だったらどこの誰がどうして連れていったのだろうか。

 私は腕を組んで考えようとすると、他のメンバーが妙な表情をしていたので、そっちに気がとられた。


「どうしたの?」

「なんか。似ている」

「そういや俺も」

「確かにでござる」

「んー。妙な既視感が」

「そういや私も」

「いやいや。みんな真面目に考えて」

「似た展開なんてありました? それよりか、か、カゲルはどこ行ったんですか!?」


 え? どういうこと? そんな展開なんて今までなかったよね。

 大ちゃんが必死に言っている反応が正しいはずだよね。

 

「どうする? 助けに行こうにも、場所がわからんぞ。そもそも目的が読めん。それにその人とカゲルが知り合いの線もある」


 てるやんが真面目なことを言っていることに、マッキーがきょとんとしている。

 まあ、珍しいといえば珍しいか。


「そのうち帰ってくるでござる……」

『エリ』


 私とアーヤで睨み付けると、エリは固くなった笑顔を見せた。

 もはや仮面である。


 そのうち帰ってくる……。その線がありえないとはいえない。てるやんの言う通り背負った人間が知り合いの可能性もあるし、マッキーの早とちりの線も捨てきれない。

 でも仮に知り合いが眠っていたら、背負うのだろうか。仮に私が親で小学生くらいの息子が眠っていたら、背負って運ぶけど、同年代の知り合いが眠っていて背負って運ぶなんて、酒で飲み潰れてでないとありえないし、彼の性格からシフトが残っている状態で酒を飲むとは考えにくい。それに未成年だし。

 眠っているのは昼寝でもしていたから。でもそれならカフェテリアでなく控え室でするはず。そんなところで眠るのだろうか。特殊な場合もあるから完全には否定できないが、可能性は低い。


「その運んでいた人ってどんな人ですか?」


 メグの問いかけに、マッキーは少し考えながら答える。


「一瞬だったからはっきり顔はわからない。男の人ってぐらい」

「どっちに向かったの?」


 続いてアーヤが聞く。


「確か方向的に、ギャラクシーホールがある方かな?」

「保健室の正反対といっちゃ、正反対か」


 その方向って、他には三つか四つ、中くらいの授業用の建物があるくらいで、行く必要もないはず、外に連れ出される可能性もある。

 個人的な恨みをカゲルに持った行動かもしれない。ただ彼が個人的な恨みを買うような人間には思えない。あくまで私の見解であるが。


『きちんと部員を観察していてください』


 ふと真田さんの言葉が脳裏を過った。

 あれは誰かが問題を起こしたということではと思った。過去のことかと思った。

 でもなぜあのタイミングなのか。それとも本当に今日に何かあったのか。

 仮に注意するなら()()()()()()()()()()()と言うはず、()()()()って変にやんわりとした言い方をするのだろうか。

 もしかして……。

 こう解釈してみたらどうか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。


 ……こじつけな気がする。


 もしそれなら、連行されることを知っていたことになる。

 そうなると部統会がやったと思われるし、部統会の会長が部統会がやったことを認めるってことになる。

 そんなことを会長が言うのだろうか。

 その上、ギャラクシーホール前の広場に人が集まり花火があがるまでの間が暇になるって本当なのだろうか。散々敵視した私たちにいきなり飴でも送るのだろうか。


 罠かもしれない。


 パンフレットに名前を載せないという行為をしてまで、そこから更なる非を認めるとか、あり得るのだろうか。

 感謝はされたけど、怪しすぎる。

 でも……。会長の意図はさておき、部統会が私たちの動揺を誘うためにカゲルを連れ去るという強硬手段はあり得るかもしれない。

 一度しか会っていないが、堂島という人のオーラは普通じゃなかった。あの人が、汚れ仕事担当ならその手段に出ることに不思議はない。

 実際いくつかの部活が潰されている噂は耳に届いていたし、どんな手段に出たかは知らないが可能性はある。

 カゲルが眠らされて連れ去られたというのならあり得る。

 でも連れ去ってからどうするのだろうか、そのあと、何か悪いことでもするのだろうか。


 ぞわっとするような感覚に急に襲われる。


 嫌な予感がする。よくないことが起こる前触れではないだろうか。


「……ス……ン」


 でも何が起きるのだろうか。


「カスミン!」

「へっ!? は、はい!」


 気がつくと全員心配そうな顔で私を見ていた。


「どうしたの? さっきから何回も呼んだのに全然反応していなかったよ」

「え。いや。ちょっと考えていたの。そっちは、何か思いついたの?」

「いや。さっぱり。ギャラクシーホールの方に向かったなら、そこかなという発想ぐらいしかなくて」

「ギャラクシーホール……」


『ギャラクシーホール前の広場に人が集まるんですよね。今回花火を打ち上げるんですけど、少し時間がかかるんですよね。その間待っている人が暇だと思うんです。あなた方の得意分野じゃないですか』


「まさか」

「え!? どうしたの? カスミン?」

 

 アーヤがぎょっとした表情をする。

 さっきより注目度が上がっていた。もうこうなったら変なことだと思わずに私の考えを言おう。

 

「ちょっと思いついた。とんでも理論のこじつけかもしれないけど、私の考えを聞いてくれる?」

「えっ!? うん。わかった!」


 他のみんなにも目配せをするが、拒否する人物はいなかった。

 一呼吸おいてから、私は話し始めた。


「カゲルは部統会に連れ去られた。私たちを動揺を誘うため、そしてギャラクシーホールでのグランドステージが終わった後の広場に集まった花火の時間に、何かとんでもない仕打ちを行うと思う」

「え? その根拠は?」


 アーヤが理解しきれていない表情だ。


「アーヤには言ったけど、さっき会長と話をした時に言われたんだけど、グランドステージの後に広場に出たお客さんが、花火を打ち上げるまで暇になるから、得意分野ができると言ったんだけど、このあとは私の推測、いやほぼ暴論に近いんだけど、その暇になる間、私たちが夏でやった()()()()、私たちのジャグリングじゃなくて、戦闘の方だった場合、カゲルが傷つくような戦闘が大衆の目の前で起きるとか」

「ええええええ!?」


 あまりの暴論に一同驚愕する。私もあまりこの論が現実を帯びていないとも思う。

 ただあの堂島という人なら、何か悪いことをしそうという、直感だけで作った暴論。

 私たちの間に沈黙が訪れる。


「んー。でもそれって会長が若干味方していることでしょ。あの会長に味方されるのは腹立つ。私たちをコケにしようとした人なのに、それに罠かもしれない」


 アーヤが不機嫌そうに口を曲げる。


「でもよう。会長はさておき、カゲルの身に何か起きた方がヤバいだろ。それにカスミンの考えがあっていればカゲルにも俺たちにも精神的なダメージを負うぞ」

「え、いつも、精神的な攻撃をしているじゃない?」

「エリ。お前にだけは言われたくねえ。俺だって分別はあるつもりだ。まあ、たまに度が過ぎるのは認めるが、今回はその範疇の問題では無いかもしれんだろ」


 てるやんの言葉に一同きょとんとする。


「てるやん先輩がまともなこと言ってる」

「ほんとほんと」

「て、てるやん先輩?」

「私も珍しいと思った」


 後輩三人とマッキーが口々に珍しいと言っている。 


「うおい! 俺を何だと思ってんだ?」

「アハハハハ」


 まあ。そうだろうね。みんなには珍しいだろうね。


「わかった。とりあえずカスミンの考えを適応してみる。それ以外思いつかないし」


 アーヤは溜息まじりにそう言った。ほんと気苦労かけすぎてごめんね。


「んで、具体的にどうするかなんだけど」

「あれー!? みんな円陣を作ってどうしたんだい?」


 真剣な雰囲気を無視するような呑気な子供っぽい声が聞こえ、みんなそっちに視線が移った。

 そこには見た目は子供中身は大人の顧問。お気に入りのライトアップポイを首からかけた日暮顧問が、現れたのだった。

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