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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭2日目!』その7

 時は少し遡り。

 ワタアメ屋。


 機械の予備が設置するまでの間、私たちは屋台回りに持ってきたバルーンを飾り付けた。

 すると、ソフトテニスの部員はその飾り付けたバルーンをマジマジと見つめながら「これ、あとで作り方を教えて」と詰め寄られた。

 プライベートスペースは私は意識しないのだけど、初対面でここまで近づかれるのも初めてかもしれない。

 私たちがバルーンをせっせとワタアメ屋台に設置していると、突然渕名さんが花のブレスレッドを見つめながらこう言った。


「この花、頭に着けたらいいんじゃない?」


 私とアーヤは目を合わせ、ソフトテニス部員四人は、目をきらんと輝かせた。

 結果、彼女たちの餌食となった私たち二人。ただではやられず強引にやり返して渕名さんと、アーヤの友達の菊川さんにはつけてもらった。


「これ。恥ずかしい」


 ポニテ—ルのヘアゴムの上につけたアーヤが、恥ずかしさのあまり卒倒しそうである。

 珍しい姿を拝めたと、ちょっと得をする。

 私も恥ずかしいのは変わりないんだけど。


「これで宣伝したら効果覿面こうかてきめんだよ」


 こめかみあたりにつけた菊川さんは、とてもテンションが上がっている。

 特にアーヤの姿を見て、無駄に興奮しているし。


「いいんじゃない。みんな似合ってるって」


 渕名さんは慣れているのか分からないけど、特に何も思っていないのか、自然体である。左前頭部についた花は違和感がなさすぎる。もうモデルである。


「生きていてよかった」

「眼福である」

「ありがたやありがたや」


 ソフトテニスの三人は両手を合わせて拝んでいるし。


「で、どういう宣伝するの?」


 アーヤが真面目な表情を取り戻す。花ブレの印象が強すぎて、ちょっと笑いそうになるのを止める。


「普通に……」


 と言いかけて言葉を飲み込む。

 本当はやってみたいことがある。でもいざとなって不安しかない。いやさっきの勢いはどうしたってなるけど。

 いやいやここまで来て気持ちで退いてはいけない。

 とりあえず提案だけしよう。


「折角だから三団体集まっているし、部活対抗的な宣伝したい」

「それは?」

「それ面白そう!」


 ソフトテニス四人組は、さっき以上に目のきらめきを輝かせている。


「え! え! なにやるの」


 ここまで来たら、もう退けない。


「部活合同でアピールするけど、何か興味を引くことやりたいなと、例えば……」


 私はバルーン袋に手を入れて、スッとバルーンの剣を取り出す。


「例えばこのバルーンソード使って『叩いて被ってジャンケンポン』して興味をひかせるとか」

「……」


 一瞬にして沈黙する。

 あ、やらかした気がする。


「グハッ」


 春宮さんがフラッとよろめきながら、他二人に支えられる。


「天然属性がついているなんて、これはこれでまた尊い」


 今度は春宮さんが卒倒寸前であった。


「あははははははは」


 渕名さんが腹を抱えて笑い出してしまう。


「カスミン。最高! その発想はなかった」


 これは褒めてるの? それとも笑われているの? いや至って真面目だったよ私。

 この状況にアーヤは乾いた笑いをこぼす。


「カスミン。ちなみに防御用の道具は何使うの?」


 防御用の道具、えっとそれはどうしようか。

 ん? ちょっと待って。


「えっと? アヤメさん?」


 目を二回ほど瞬きして見つめると、アーヤはニコッとした表情と笑ってない瞳孔を向けた。

 

「やるんでしょ! さっさと準備する! あとの誘導はなんとかするから!」

「は、はい!」


 いつも迷惑をかけてごめんなさい。と心の中で謝りつつ、対応してくれるアーヤには本当に頭が上がらない。

 

「ナカッチ。これが噂の?」

「むしろ戻ってほっとしたけどね」


 ムムそれは褒めているのかな。と耳を大きくさせつつも、防御用の道具を考えたのだった。


 しばらくしてワタアメの予備の機械が設置された。

 ワタアメ屋が再開したのであった。


「ワタアメやってます。一個百円で売っています!」


 菊川さんたちは、手作りの看板を持って人通りに向かって宣伝し、少しずつお客さんが並びはじめた。

 そしてそのブース内の隅っこで、椅子に座り、向かい合う二人の女性。真ん中のテーブルにはお手製のバルーンソードと、防御用はソフトテニス部さんから借りた調理器具のプラスチック製のボウルがあった。


「ふふ。まさか会って早々にこんな対決するなんてね」


 ノリノリで待ちかまえる春宮さん。


「本当に、私に思いつきに付き合ってくれてありがとうございます」

「面白そうじゃないですか! それに普通にワタアメ売るのを飽きていたんですよ」


 笑いながら話すソフトテニス部長。

 部長が言うセリフとは思えない。

 ん……。私もらしくないこと言っているかも……。 


「二人とも頑張って!」


 横でのんびりと応援する渕名さん。

 でも案外ノリノリで見ている。


「で、負けた人は何かします?」

「じゃあ。春宮さん。花ブレスレッドをつけて下さい」

「それでいいの? だったらあなたにもう一つ付けてもらうよ」


 わしゃわしゃと左手を動かし、にやける顔の春宮さん。

 うっ。絶対に負けたくない。


「さあさあ。並んでいる方はちょっとお暇しているかもしれないので、隣でちょっとした対決を行います! ソフトテニスの部長とオタマジャクシズの部長による、叩いて被ってジャンケンポン対決です!」


 アーヤがメイン通りに出て宣伝すると、ワタアメ屋に並んでいる人から注目し始める。


「こうなったらソフトテニス部の威信にかけて負けない」

「わたしもオタマジャクシズの威信にかけて負けない」


 こうして、謎に始まったソフトテニス部対オタマジャクシズによる叩いて被ってジャンケンポン対決、果たして勝者はどちらに?


 

 私たちは手を構えてにらみ合った。


「叩いて被ってジャンケンポン!」


 私はグー、春宮さんはチョキ。

 瞬時にソードを手に取り、春宮さんの頭にむかってバルーンソードを振り下ろす。

 だがもう目の前にはブラスチックのボウルがあった。

 早い。


「ふふ。私のソフトテニスで培った反射神経に勝てるかな」

「くっ手ごわい」

「おお」


 観客から声が漏れる。

 なんだかんだ見られてる。負けられない。


「んん。叩いて被ってジャンケンポン!」


 今度は私はチョキ、春宮さんはグー。

 すぐにボウルを手に取り、被ろうとした瞬間にもうソードの先が向かってきた。咄嗟に横にソードをボウルで横に払いうと、バルーンの先は私の頭の右隣をかすめた。


「やりますね」

「危なかった」

「おおお」


 思ったより熱くなれそうだ。


「んん。叩いて被ってジャンケンポン!」


 今度は私はパー。春宮さんもパー。

 二人揃って道具に手を出しかけて止まる。


「おおおお」


 少しずつだが歓声が大きくなっているのはわかった。

 絶対に負けない。

 じっとにらみ合い、拳を後ろに引いてに構える。


「んん。叩いて被ってジャンケンポン!」


 私はチョキ、春宮さんはパー。

 さっとバルーンソードを手にとる、同時に春宮さんもボウルに手をかけた。だが、一瞬手に汗が滲んだのかボウルからつるっと手を滑らした。私はその隙を逃さなかった。

 無防備になった頭にバルーンソードの先がポンという軽い音を立てながら直撃したのだった。


「はい! カスミンの勝ち!」


 渕名さんがさっと私のほうに腕を上げた。


「おおおお」


 周りの人から、少ないながらの歓声と、まばらな拍手が聞こえたのであった。

 対戦者の春宮さんは、ガクッと崩れ落ちるようにテーブルに伏せていた。

 負けたけどそんなに悔しかったのかな。

 

「くっ。天然属性の美女に叩かれるのもこれまた良き」


 え。ええええ。

 春宮さんの微妙に満足そうな表情になんとも言葉にしずらい感情が渦巻いたのであった。


「あのバルーンのソードほしい」


 可愛げのある男の子の声が聞こえた。

 振り返るとワタアメの列に並んでいた。男の子が母親の裾を引っぱり、物欲しそうに私の持つソードを見ていた。

 するとアーヤがその男の子にさっと近づき、同じ目線になるようにしゃがんだ。


「あのソード欲しいの?」

「うん!」

「それならね、あそこの道に真っすぐ行ったところの建物でね、これ作っているところあるから、そこでもらえるよ」

「ほんとに。やった!」


 すると男の子は母親にそこに行きたいというアピール視線をウルウルした目で送ると、少し肩を落としつつもさっと男の子の頭を撫でた。


「わかった。ワタアメ買ったらそこに連れて行ったあげるよ」

「やった!」

「よかったね」

「うん」


 アヤメの臨機応変による対応によって、少し兆しが見えた気がした。

 そして本当に頭が上がらないなと、相棒にはただただ脱帽するしかないのであった。

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