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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭2日目!』その4

「そしてなんですけど、このまま私たちだけで宣伝しますか? それとも」

「他の団体も呼ぶかか」


 竹光さんと私は向かい合って考え込むと、渕名さんがぬるっと手を挙げた。


「いいんじゃない。その方が面白いし」


 昨日とはうって変わってオフモード全開である。

 その姿にキョトンとしてる間に、アーヤが深いため息を吐く。


「はあー。もう仕方ない。打てる手は打った方がいい。もともとその予定だったし。とりあえず話だけして、ダメだったらダメで、OKなら協力して貰ってで……」


 すると途中でアーヤが言葉を止めて、腕を組んで考え込んだ。


「どうしたの?」

「カスミン。どこで宣伝するつもりなの?」

「それは旧棟前だけど」

「人通りが少ないのに?」

「うっ。じゃあ。メイン通り前」

「あそこって確か指定じゃなかったっけ?」

「じゃあ。どこかの屋台に頼み込むとか?」

「ンンンンンンンン!?」


 ものすごく彫りの深い皺を寄せながら睨み、そして考え込む仕草を両立させた後、深々と溜息をつかれた。

 行き当たりばったりですみません。


「仕方ない。うちの知り合いが近くの屋台でわたあめやってるから頼み込むよ」

「アーヤ。ありがとう!」

「わかったから」


 アーヤが少しだけ、照れてるのを見てから少し考える。


「でも、そうなると人を多くしすぎるのもよくないかな。屋台の範囲も限られてるし」

「そうですね。でもせっかく来て、あの少し寂しい入口だと入ってこないかもしれない。となると……」

「入口と屋台で二手に分けて宣伝しますか」

「そうしましょう」


 そして、竹光さんと渕名さん。私とアーヤは、それぞれ旧棟内の人たちに声をかけていった。加えて私たちはバルーンを配っていった。他団体の人たちは華やかになると言ってくれて概ね喜んでくれた。


 そして旧棟宣伝には五組、協力してくれた。


 ざっと説明すると白い仮面をつけた骨董品を売る二人組。和服を売る女性。本を売る眼鏡の男性。古着を売る語学研究会の人たち。そして前髪の長い占い師の人が協力をしてくれた。


「じゃあ。旧棟前を俺らが宣伝します。そっちは交渉よろしくお願いできますか?」

「了解しました。任せてください」


 竹光さんは、私たちが作ったバルーンを装着までしてくれていた。本当にいい人だ。


「じゃあ。あたしはこっちについていくけどいい? 洋一?」

「いいよ。そっちのほうが面白いんだろ」

「わかってるじゃん! それじゃあよろしくね」


 するとぬるっと私の首に腕をかける渕名さんであった。プライベートスペースがほとんどなくなっている。昨日の今日で気を許すの早い気がする。あとで慣れると思う。たぶん。

 それさておき、竹光さんが出るとなると旧棟前での宣伝はこっちの部活からも一人か二人出さないとね。


「ちょっとてるやん」

「おう。どうした」


 ブースにいたてるやんを私が呼ぶと、歩いてやってきた。


「ちょっと今からメイン通りのほうに宣伝行くから、この人たちと宣伝してて」

「おう。ん?」

「てるやん大先生! 宣伝宣伝!」


 早くも小柄の女性がいつの間にか現れ、紙のボードをみせてアピールしていた。

 準備早いな。 


「それはいいが、ブースはどうする? 二人だと荷が重いぞ」

「一応カメケンを後から呼ぶことにしたから、ちょっと負担になるけどしばらくは二人で回してと伝えてくれる?」

「わかった。それで宣伝? 旧棟前? 普通に声かけるんでいいよな」

「そうそう。ジャグリングはせずに、バルーンやっているとか、他の人もやっているとか言う感じ」


 てるやんはフムと考え込んだ。


「一応聞くが、あの目の前でバルーンを作るのはダメだよな」

「そうだね。できることなら中に誘導してくれるほうがいい。バルーンを身に着けるのは大丈夫だよ」

「おう。分かった」


 かなり無茶な振りに対して素直に従ってくれることに少し目を丸くした。でも彼は彼なりに考えてくれている。なら私も部長としてやらないと。


「じゃあ、お願いね。竹光さんとえっと」

「『東雲しののめ)』」

「ん?」

「『東雲しののめかおる』! 覚えて」


 プイっと視線を逸らされた。でも名前を教えてくれたのは、少しでも協力をしてくれるってことでいいんだよね。

 協力してくれる彼女にもぺこりと頭を下げた。。


「てるやん。東雲さん。お願いします」

「おう。なんかよくわからんけど任せとけ!」

「ン!」


 てるやんのグッドポーズと東雲さんのまんざらでもない顔に少しだけホッとしたのだった。



 私たちはアーヤの友達がいるワタアメの屋台に向かった。

 着くと人が並んでいなかった。店の前には休憩中の看板が立っていた。


「いらっしゃい。ってナカッチじゃん!」


 店番をしていたのは、スポーツ焼けした髪の短い女性、昨日ワタアメをくれた人だった。 


「おはよう。きっちゃん。今休憩中みたいだけど、どうかしたの?」

「それがね。ワタアメの機械が壊れてね。とりあえず予備があるから、それを設置をするまでの間、ちょっと休憩しているの。あれ? お隣さん。昨日買ってくれた! ナカッチの友達?」

「そうそう。私の部活の部長。カスミン」

「どうも。白峰カスミです。覚えてくれてありがとう!」

「そりゃ。わたし可愛い子の顔は絶対に忘れないから」

「か、かわいい!?」


 何故かウインクまでされた。突然思わぬことを言われ、ぼっと顔を赤くする。


「相変わらず面食いね」

「そりゃ。可愛いは正義だから」


 凄いことをさらっと言っている。そういうものなのか。


「へえー面白いことを言うね。名前何て言うの?」


 早くも渕名さんが初対面なのに距離を詰めている。すごい勢いだ。

 すると店番の彼女はまじまじと渕名さんを見つめると、口を大きく開けた。


「え、え、めっちゃ美人な人! 凄すぎて、声を失ったよ! どちら様?」

「ボードゲームサークルの渕名麻美です。よろしく」

「よ、よろしくお願いします! 私、『菊川きくかわひかり』です! ってナカッチ、どういう関係?」


 テンションが上がり過ぎているのか、すごいそわそわしている。本当に可愛い人には目がないんだなと確信した。

 アーヤは少々半笑いでいた。


「実はね。相談があるんだけど……」


 と話し始め、事情を説明していく。でも相手はソフトテニスの団体さん。簡単に許可をしてくれるものだろうか。不安な気持ちで様子をうかがう。


「んー。めっちゃやりたい! でも私の判断では決めきれないから、ちょっと部長を呼んでくる」

「ごめん。ありがとう!」

「美人三人の頼みだもの、すぐに行くよ!」


 ビュンっと風の勢いで走って行った。


「菊川さんって、可愛いもの好きなの?」

「見たまま。でもいい人だよ。面食いを除くと」

「可愛いものが正義って本当に言う人、いるんだ」


 自分の知らないキャラに驚く私と渕名さんであった。

 一頻りして、菊川さんは奥から走ってきた、それも後ろに二三人くらい引き連れて来ていた。


「ちょっと。かわいい子たちってどの子?」

「待って、待って心の準備が」

「これは、頑張るしかないよ」

「みんな張り切りすぎ!」


 ものすごいダッシュでやって来て、私たちの目の前で急停止したのであった。


「きゃー。ちょっと待って本当にかわいい子じゃん」

「びっくりしたよ」

「あー。本当に生きててよかった」

「でしょ。でしょ!」


 テンションの上がり方が、私の想像から逸脱しすぎてどう反応すればいいのかわからなくなった。可愛いと言われるのが慣れていないのもあるけど、ここまで喜ばれるとは到底思わなかった。


「えっと部長さんは?」

「はい。私です。部長の春宮です!」


 背丈は渕名さん並みに高くすらっとした人だった。


「えっと。私たちのサークルと、渕名さんのサークルが旧棟でやっているんですけど、こちらで合同で宣伝しても大丈夫ですか?」

「もちろん。大丈夫ですよ!」


 あっさりと許可を得たのであった。

 あまりにもあっけなく承諾されたので、ふと不安になってアーヤを見ると、アーヤも流石に呆れた顔で眺めていた。


「アーヤ。知ってたの?」

「いやここまでうまくいくとは思わなかった。類は友を呼ぶとはよく言ったよね」

「美人は正義ともよく言ったものだね」 


 予想外の出来事ではあったものの、何とか宣伝場所を確保できたのであった。

 こうなったら、やれるところまでやろうと吹っ切れた気になったのであった。

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