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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭2日目!』その1

 真っ暗だった……。


 話が見えないって。

 僕だってわかっていない。

 全くどうしてこうなった。何が起こった。

 ぎちぎちに絞められた体、全身に力を込めてもどう動かすこともできない、口を動かそうにもなにかで塞がれ、目の回りは何かで覆われ、何もできない。

 直前の記憶を掘り起こす。確か僕はあの人とご飯を食べていたよな……。



 二日目朝。


 朝早くに控え室に集まった。

 全員遅れずに揃っていた。

 みんな気合が入っていると思ったが、若干名どんよりとした空気が流れていた。さらに黒い靄がかかっているように見える。何故だ。


「うう。スマホを見ると、絶望が」

「言うなでござる。言うなでござる。拙者たちがいるから大丈夫でござる」

「すまん。今回ばかりはかなりへこんだ」

「ずーん」


 てるやん先輩は頭を抱え、エリ先輩はスマホを裏返して目を背け、耕次先輩は首を曲げ、大介はうなだれて、淀んだ空気の中で悲しんでいた。


「あはは。心配しないで、私もあまりいないかったし」


 部長がホワイトボートの横で虚空を眺め、力なく立ち尽くしている。

 意外だ。


「あれ。どうしたんすっか?」


 カメケンが周りの空気の重さに、困惑しながら眺めている。


「大方、『来てほしい!』と頼める友人がいなかったんじゃない? でも大介は私がいるから!」

「あんたはデリカシーないの? そこは『私たち変わり者だから気が合わない』とか少しぼかさないと」

「リナも大概酷いっすよ」


 隣で容赦なき言葉を放つ一年女性陣に対し、半笑いのカメケン。それと同時に変な悪寒を背中から感じる。

 エリ先輩あたりがものすごい邪気を放っている気がする。振り返ったらヤバそうなので見ないでおこう。

 リナはいつも通りの毒舌だが、あの激昂は何だったんだろう。


「あんたたち、マッキーが言ったこともう覚えていないの?」


 教壇の上で、呆れた表情のアヤメ先輩。


「いや。夏休みとこの一ヶ月で友達増えるかって!」

「そうでござる!」

「いかんせん。難しい」


 特にてるやん先輩とエリ先輩が顔の全筋肉を使って必死に訴えかけていた。本当に必死だな。


「僕はその、なんというか……」

「大ちゃんは、私がいるから大丈夫だよ!」


 メグのフォローに、ぷくっと頬を膨らまして睨み返す大介。

 今のはまあ……。メグが悪いな。

 各々言い分は分かる。夏休みも挟んでいるから難しいはずだ。普通なら……ね。


 僕の心中は……。察して欲しい。


「まあ。みんなこのクラブが大好きなんだよ」


 部屋の横壁にいた顧問が気の利いた発言をすると、みんな目を丸くする。そして……。


「姉御おおお! たまには良いこというじゃないか!」

「ほんと久し振りに聞いたでござる」

「ほんと目から水が」

「そ、そうですね」

「え。そんな大げさに、いやまあ。そうかな」


 四人がウオンウオンと涙ながら泣くのに対し、まんざらでもない表情で腕を組む顧問であった。

 

 なんだこれ。


 そんな茶番劇があったのも束の間、二日目の作戦内容が言い渡された。


 初めに店番の三人をてるやん先輩と耕次先輩と大介にし、そしてエリ先輩と僕とカメケンとメグとリナはバルーンのコーデをしてキャンパスを練り歩く形である。

 そして店番と練り歩き組は昨日と変わらずシフトで交代し、練り歩き時に適度に休憩をとりつつ行う。

 カスミン部長とアヤメ副部長は、別行動で旧棟内の他のサークルを回る。

 この二人が今回の要になるらしい。


『今回パンフレットに書かれなかったのは私たちだけじゃない』


 そう。パンフレットに載っていなかったのは、旧棟に入っている全てのブースだった。

 その人たちの協力を得ることが部長副部長の二人が行うことである。

 聞くだけでもかなり難しそうだな。


「ざっと説明したけど、とりあえず監視されているという認識はしっかり頭に入れておいて、あまり過度な行動をとるとすぐに報告される可能性もあるから」

「わかりました。けど、どこから見張られているんですか?」


 メグがちょっと凹んだ顔をしながら聞く。


「まあ。そこらへんだろうね。部統会は結構な人数いるらしいし」

「え、そうなんですか?」

「例えるなら、そこらへんの通行人とか、役員とか、屋台もあるかもしれない」


 そんなにいるのか。書記の金橋先輩だけだと思っていた。いやじゃあ昨日あれも監視されていたのか。でも視線は感じて、いや待てよ。昨日スルーしたけど、前の金橋先輩の視線に気づかなかったぞ僕。となると……。

 うっかりしていた。自分の顔が赤くなっていく。


「ムムム。アヤメ先輩、敢えて脅かしていません?」

「いや。わりと本当だと思うよ。ね。エリ?」

「そうでござるね」


 エリ先輩は目元を赤くしたまま微笑みながら答える。大体のことは察している目である。

 この人も時より人間ではないと思ってしまう。

 背筋がゾッとするようなメグの表情に遠い目で眺める僕である。


「なんとかなるって!」


 カスミン部長の根拠のない自信によるガッツポーズ。さっき誘える友人が少なくて意気消沈していたのに。いやそれこそ無理にでも元気を繕っているのかもしれない。


「……仕方ないですね。やるしかないんですよね」

「心配しないで私が全力でサポートするから」


 リナがメグにポンと肩に手を置く。


「リナどうしたの? なんか怖い」

「なんか怖いってナニ?」


 昨日のままのブラック部分が出ているリナ。本当に大丈夫なのか。


「おう。とりあえず勢いでやればいいんだな」

「やるしかないな」

「やります」


 目元が腫れている三人の男たちは、もう自棄になっている。


「カゲル。大丈夫なのか」

「大丈夫じゃない? なんか前も割と何とかなったし」

「そ、そ、そうなのか?」


 カメケンは初めてだから不安だろう。

 皆が心が定まり切っていないのを見抜いたのか、カスミン部長は教壇の上に派手に上がり、前を向いた。


「このまま部統会の思うままで終わりたくないでしょ!」

「おお! そうだ!」


 彼女の言葉に、てるやん先輩の声を筆頭にみんな頷く。

 確かにあのやり方は許せない。


「だったら勢いでやりましょう!」

『おおおお!』


 凄いやけくそ感がしている部分もある。

 でも、不安があってもそれでも「やるしかない」と、理由は違えどその考えなのは皆一緒だった。


 波乱の二日目が始まったのであった。

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