表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
112/162

『大学祭1日目!』その6

「よかったね!」

「そ、そうね」


 私たちはダンスを見終えて屋台の通りを歩いていく。

 満面の笑顔で歩くマッキーに対し、私は少々浮かない気分であった。


「あれ? どうした? 元気ない?」

「いや。そんなことない。むしろ凄くて感動した」

「そうでしょ! ここのダンス部凄いんだよ!」


 まるで自分の部活のように話すマッキー。

 本当に好きなんだ。


「センターの人、好きなの?」


 素直に訊いてみた。

 するとマッキーはさっきみたいに頬を赤くする。

 そして「うん」と小さく頷いた。

 色々と彼女の状態を納得する私。

 正直、それが訊けたから満足だけど。

 こういうときってあんまり深くは訊かない方がいいのかな。いやでも少しは訊きたいかな。


「いつ頃から?」

「うん。後期始まる前に」

「そうなんだ」


 真っ赤に照れるその顔で、チラッと見つめてくるマッキー。

 私はその表情から目が離れなかった。


「訊かないの?」

「何を?」

「いや。ふつー。これ以上のこと訊きたがるよね」


 ああ。それはそうだよね。

 でもね……。


「正直気になるよ。だけどマッキーの顔を見てると、そんな質問は野暮なのかな。と思って」

「えっ。そんな顔してた?」


 パッと頬に手を当てて確認するマッキー。可愛らしい。


「だから……。影ながら応援してるよ」

「うー。恥ずかしい」


 口を襟に埋めるように縮こまるマッキー。

 いつもだと想像つかないくらい、反応が可愛らしくなっている。

 頑張って欲しいな。

 私はマッキーの姿を見つめながら歩いていった。

 しばらく歩いていると屋台の通りを過ぎ、人が少なくなっていた。辺りを見回すと中央棟の裏側に来ていた。

 見とれていたとはいえ、ちょっとうっかりした。


「で、このあとどうする?」

「え、このあと?」


 マッキーも気がついたのか、パッと顔を上げて状況を確認する。そして左腕を前に出して時間を確認した。


「えっ。もうこんな時間!?」


 ぐわっと瞳が広がり、すっと顔色が元に戻った。


「一緒に昼御飯も食べようと思ったのに、ごめんカスミン。ちょっと時間になったから戻るよ!」

「あ、うん。大丈夫だよ」


 マッキーは荷物を持ち直し、カッカッと走っていく。

 だけど一旦急停止して振り返る。


「バルーンは行くから!」

「わかった。待ってる!」


 律儀に叫んで手を振ってくれた。

 私も大きく手を振った。

 そして、またマッキーは背を向けて走っていった。

 いつものマッキーに戻ったけど、彼女の後ろ姿は少し楽しそうに見えた。

 そんな姿に、私は少し羨ましく思えた。



 再び一人になった私は、とりあえずアーヤに連絡を取る。

 だけど全く反応がない。

 どうしたものだろうか。

 心配ではある。だがアーヤのことだから何かしらの用事をやっているはず、そう思っていたい。

 連絡がくるまで待っておこう。

 で、次はどうしようか。

 シフトまであと二時間、みんな上手くやっているのだろうか。それとも人は来ているのだろうか。

 一旦戻ってみようか。折角の休憩時間だけど、昼御飯だけ買って戻ろうか。

 そう考えて歩き始めて、ピタッと足を止める。

 ダンス部の演技が頭を過った。

 そして、もうひとつ。ダンス部の演技を見て、自分達がまだまだ未熟なことを痛感した。

 あんなにもみんなを沸き立たせる演技。そして惹き付けさせる程の実力。

 私もあんな演技をやりたい。


「練習しよう」


 気がつくとそう呟いていた。


「……」


 いやいやいや。そもそもどこですればいい。というか、バルーンもあるのに、部長だけ別のことやるのも、どうだろうか。

 でもジャグリングの練習をしたいという気持ちが、あのダンス部の演技を見て、湧いてきた気持ちをどうしようか。

 ダメダメ。あんまりすると、バルーンの方に影響が出てしまう。だから、今は……。


「ふう……」


 あまり吐いてはいけないため息だ。


 スカートの裾をぎゅっと握りしめた。

 そして、私はゆっくりと歩き始めた。




 

 場所は変わり、カフェテリアに一人で座り、サイダーを飲む人物がいた。


 カフェテリア。今日は大学祭、いつもよりも増して人が多い。家族連れや、友達同士等、ワイワイとしている中、一人でいる僕。

 僕は腕時計を確認する。

 12時50分。

 柿沢さんに指定された場所に待ち始めて5分経過した。

 早い話ものすごく緊張している。

 一緒に回ろうって、言われたけど、冷静に考えて……。

 

 デ……。


 いやいやいやいやいや。

 いけないことを考えている。

 そんなことはない。そんなことはない。

 ひたすら否定し続ける。

 これはあれだ。今まで人と関わることが少なかったから舞い上がっているだけだ。だから落ち着くんだ。

 大きく息を吸い込み、そして大きく息を吐いた。

 それに、僕の好きな人は、小百合さんだし……。


 何を言っているんだ。


 全力で首を横に振る

 僕の精神は混乱状態に陥っているようだった。


「数谷さん」


 呼ばれる名前にハッと立ち上がった。

 振り返ると朝に見た衣装の柿沢さんがいた。

 だけど何か雰囲気が違うことに気がつく。

 何が変わったかははっきりとはわからない。でも何だろうか。何となく。


「朝と比べて、前髪の雰囲気が変わりました?」


 特に深い理由はなく、ただ素直に思ったことを言った。

 いや、言ってしまった。間違ってしまったらどうしようか。気に障ったらどうしようか。

 気にしつつ顔を伺う。


「そ、そうか」


 柿沢さんは前髪の先を指で摘まみ、その上少しだけ頬を赤くした。

 その反応を見て、どっちなんだろうと思いながら、彼女の顔をじっと見つめてしまった。

 今度は僕の目線に気がつき、パッと視線を外した。


「……」

「……」


 ヤバい。無言になった。

 どうしようか。


「とりあえず、どこか屋台でも回りますか?」

「……そ、そうだな」


 いつもより格好は派手なのに、いつもより覇気が少ない声で答えた。

 本当に大丈夫なのかな。と不安に思いつつも、僕は柿沢さんの少し前に進んで立ち止まる。

 すると柿沢さんも顔を合わせることはないが、僕の横に並んだ。

 彼女の意思表示はわかったので、このまま歩いていくことにした。


「ミックスジュースやってまーす」

「こちら記念品を販売しております」

「こちらで漫才やりますので、来てください!」

「あなたの運勢教えてあげましょう!」

「……」

「……」


 多種多様の掛け声が飛ぶ中、顔を合わせず全くの無言で歩く僕と柿沢さん。本当にいる世界が違うのではないか、そう錯覚するくらいである。

 どうしようか。何が食べたいのか。

 何が好きなのか、全くわからない。

 でもとりあえず食べ物系で、えーと、今日朝行ったところにしようか。


「や、焼きそばでも食べますか」


 近くの野球部の焼きそばを軽く指さしてみる。


「あー。それもいいんだが、その隣のたこ焼きも食べたいと思うんだが」


 柿沢さんが指差したのは、毛筆で「合気道たこ焼き」と力強く書かれた看板が目立つ屋台だった。

 なるほど、たこ焼きは食べてないし、立ってもまだ食べやすい。


「わかりました、たこ焼きにしましょう」

「ああ」


 柿沢さんの言葉が、尻すぼみしたように聞こえた。

 気になって表情を伺うと、彼女は少し慌てて二回ほど縦に頷いた。

 とりあえず大丈夫みたいだ。 

 僕が先に列の最後尾に並ぶと、横にすっと立って並んだ。

 そして暫く待つ。


「……」

「……」


 本当に会話が進まない。

 何を話せばいいんだ。


「数谷さん」

「あっ。はい」


 気がつくと彼女はプルプル震えながら、僕に目を合わせていた。

 これはどういう意味だ。

 何かまずいことでもしていたのだろうか。

 それはないと思いたい。


「数谷さんは、その……。誰か好きな人はいるのか?」

「えっ?」


 顔を真っ赤にしてまでの質問に、僕は目が点になったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ