表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
111/162

『大学祭1日目!』その5

 その頃一方。


 テクテクと賑やかなキャンパスを歩いていく私。


「焼き鳥やってるよ。三本で三百円!」

「ワタあめ一個。二百円!」

「ママ。これ買って」

「はいはい。並ぶからちょっと待ってね」

「ここいこうで」

「ああ。何か面白そう」


 みんなの賑やかな声が耳に入ってくる。大学祭を楽しんでいる雰囲気も伝わる。

 だがそれは右から左に通り過ぎていく。

 テクテク。テクテク……。トボトボ……。

 溢れかえっている人混みの中、賑やかな雰囲気に反して俯き加減に歩いていく。


「ふう」


 やっぱり少しだけ、気が沈んでいる。

 お客さんがあまり来なかったのは、一応予想できていた。けど実際来ないのはつらい。こんなところでクヨクヨしていたらいけないのは分かっている。だけどやっぱり凹む。


「ふう」


 二回目のため息。いけない。ため息は幸せが逃げていくという。必要な時もあるらしいが、このため息はいけないため息だ。

 何か面白いこと見るかおいしいものを食べて、少し心を落ち着かせよう。

 そう考えると、ピタッと足を止めた。


 甘いものでも食べようか。


 私はクルッと振り返り、丁度人のいない、わたあめを売っている女子テニス部の屋台に駆け込んだ。


「わたあめ下さい!」

「はーい。お待ちください」


 スポーツ焼けした女性がさっと竹串を回して、わたを絡めていき、くるっと丸めた。


「二百円になります!」


 彼女の空いている手に小銭を渡すと、もう片方のあまーい香りのするわたあめを受け取った。


「ありがとうございます!」

「いえいえ」


 向こうの女性はちょっとだけ照れたのか、少しだけ顔を赤くしていた。

 私は特に気にもせずに、ふわふわのわたあめを持って小走りで去った。

 人が少なくなった場所で、歩くスピードにしてから、パクっと一口。

 ふわふわのわたが口の中ですっと溶けていき、甘みがそっと喉に通っていく。


「んー。おいしい」


 久しぶりにわたあめを食べたけど、こんなにもおいしかったかな。

 おいしいわたあめをじっと見つめつつも「細かいことは気にしなくてもいいか」と考えるのはやめた。

 そして一口、また一口と食べていく。


「おいしい」


 気が付くと、竹串だけになっていた。

 うーん。もう一本買おうかな。

 ピタッと足を止める。そしてもう一度わたあめを買うために踵を返す。


「あれ。カスミン!?」


 目の前にいたのは、金色に染めた髪に、丈の長い黄緑色の服に、黒い長ズボンの女性。

 こんな奇抜な格好の人知り合いでいたかな。

 五秒ほど硬直したあと、顔の雰囲気から、ピンとくる人物が思いついた。


「ま、マッキー?」

「あたりー。カスミン。一瞬分かんなかったでしょ」

「正直に言うと、雰囲気が変わり過ぎて、戸惑ったよ」

「まあ。それもそうか。俗に言うイメチェンだよ!」

「へえー」


 眼鏡も外しているし、微妙に背が高くなっているし、何かキラキラしている……。ように見える。

 この約二か月半ぐらいでなにがあったのかな。


「ちなみに何でイメチェンしたか訊いていい?」

「ん。まあ。気分だよ」

「そうなの」


 マッキーの顔色は全く変わることはなかった。本当に気分なのかな……。


「カスミン。少し疑っているでしょ」

「そんなことないよ」


 少しだけ目を細めるマッキー。

 うー。また見抜かれているよ。私ってわかりやすいのかな。


「まあいいよ。それでカスミン。今暇? というか。アヤアヤは?」

「暇と言えば暇かな。アーヤはちょっと用があるってどこか行っていてね」


 少し前にアーヤと連絡を取ったのだけど「ちょっと用がある。また終わったら連絡する」と返ってきた。だから今は一人である。


「よかった。私も二時間ほど暇でね。ちょっと一緒に回る人を探していたんだよ」

「いいよ。一緒に回ろう!」

「回ろう回ろう」


 ものすごい勢いで、私の手を掴んできたので、少しだけびくっとする。

 そしてマッキーはさっとバックから、一つの冊子を取り出す。

 大学祭のパンフレットの様だ。


「それで、一緒に行きたいところがあるんだけどいい?」

「え。いいよ」


 パサっとページを開いて、一つの写真を指さす。同じ衣装を着て踊っている姿が映っていた。


 グリーンシャークス……。

 洒落た名前であった。


「屋外ステージでやるダンス部を見に行きたいんだけど、いい?」

「いいよ!」

「ありがとう。何か一人で見に行くのが淋しくて」

「いいよいいよ。私も何か一人で淋しかったし」


 よしっと喜ぶマッキー。

 私も少し元気になった。

 あと、あのままだったら、ひたすらわたあめを食べ続けていたのかもしれない。だからよかった。


「じゃあ。いこう!」

「あ、早いよ!」


 そう言って足早に前に進んでいく。

 私は置いてかれないように追いかけていった。

 

 そして屋外ステージ前に到着する。


「い、いっぱいだね」


 ステージ前にはダンス部を見ようと人でいっぱいだった。

 私たちは早めに来たはずなのに、広場の真ん中ぐらいから先は人で埋め尽くされて進めなかった。

 ステージの幅の右から左の端までびっしり人でいっぱいだった。

 そしてほとんど緑色の服が多い。


「当然。うちの大学での三本の指に入る人気だから」

「へえ」


 二百は超える部活とサークルの中で、上位三団体の人気とは相当だ。


「マッキーは、よくダンス部を見に行くの?」

「いや。これで二回目かな?」

「最近ハマったの?」

「そうだね」


 まだ始まっていないというのに、マッキーはステージをじっと見つめている。

 とても真剣である。

 このダンス部はすごいのかな。それとも面白いのかな。わからない。だけど折角だしきちんと見ておこう。

そう心に決めた瞬間、ステージ上にマイクを持った女性が現れた。


「皆さんお待たせしました。我が大学の人気クラブ。ダンス部『グリーンシャークス』の登場です!」

「わあああ!」


 広場全体が波のような勢いで沸き上がった。

 司会の女性が舞台袖に下がると同時に、ステージの両脇に設置された大きいスピーカーから、ボンッという音と共に、ステージの脇から緑の衣装を来た人達が一斉に現れた。

 そして踊り始めた。


「わあああ!」


 隣にいたマッキーも、両手を上げて歓声を上げた。

 私はその勢いに困惑しつつも、ステージ上に注目する。


「す、ごい」


 なんと言えばいいのか。いやそういう言葉しか出てこない。

 ダンスの一人一人の動きがキレっキレである。人ってあんなにもビシッとした動きをできるのだろうか。

 あっ。飛んで回った。

 凄い。ダンスってこんなにも激しいものだっけ。

 目が離せない。

 一つ一つの動きがしっかりしている。

 あ、凄い。ピッタリ揃って踊っている。こんなにも動きが揃う……。


「……」


 圧倒された。

 想像の遥か上だった。

 全員動きが一体になったときの、迫力が何倍もあった。


「はやとくーん!」


 観客の何人かが、誰かの名前を呼んで手を振っていた。

 中には団扇を持っている人もいた。

 私はすぐにわかった。その人がどの人か。

 全体の中で一際動きの切れ味が違う人物。センターに立つ金髪の男性。

 たぶんそうだろ。


「松林隼人君」


 隣にいるマッキーがじっと見つめながら、名前を溢した。

 マッキーは頬をポッと紅潮させていた。

 あのハイテンションのマッキーとは思えなかった。

 おっと。あんまり見つめない方がいいか。

 私はすぐにステージに注目し、じっと彼らのステージを見続けた。



 そして、自分達との差を、ヒシヒシと感じたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ