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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭1日目!』その3

 メグと耕次先輩と僕の三人は歩いてブースに向かった。

 誰もいないブースの先に、カスミン先輩とエリ先輩と大介が疲れた顔をして立っていた。


「あ。やっと交代?」

「ちょっと長く感じたでござる」

「ふう」


 お客さんが多かったから疲れたというわけではなさそう。


「どうした。何かげっそりとしてるが」


 耕次先輩が、顎に手を当てて訊く。


「まあ。簡単に言うと、この一時間ほとんど来なかったの」

「え」

「ええええ」


 カスミン部長の苦笑いに、隣のメグが目をぱちくりとさせている。


「ほとんどって」

「二人かな。来たの」

「子連れの女性でござる」


 エリ先輩は澄ました顔だが、ほんの少し首を捻る。


「一時間で二人って」

「緊張していたけど来ないと来ないで疲れました」


 憔悴している大介。まあ彼の性格からしたら辛い時間だっただろう。


「でもまだ朝だから、これからたぶん来るよ」


 カスミン部長がにっと笑って元気付けてくれる。


「わかった。とりあえず状況把握した」

「了解しました! 三人以上来させます!」

「できる限り頑張ります」


 具体的に集客の方法の案はないけど。

 でも頑張らないと。そう思いながら、僕らは三人からバルーンエプロンを受け取ったのだった。



 20分後。


「こ、こない」


 耐えきれなくなった僕は、力が抜けるようにぼやいた。


「ごめん。気持ちはわかるけど言葉にしないで、私も萎える」


 右隣のメグにジロッと睨み付けられ、僕は口を固く閉じる。


「ふむ。予想はしていたが、これはこれでな」


 左隣で太い腕を組ませて、口を曲げる耕次先輩。


 この感じでわかるように、オタマジャクシズバルーン配布は、全く客がいない状態であった。

 ヒューっと風が吹いてもおかしくない。そんな感じである。

 他の場所も似たような感じだ。全く人が来ていない感じである。

 ブルーシートの端に座って、暇そうに待っている人や、あくびを漏らす人もいる。

 プラスに、僕らの隣のエリアには未だに誰一人来ていない。だから、余計に静かである。


「……」

「……」

「……」

 

 静かだ。本当に今日は大学祭なのだろうか。


「……」

「……」

「……」


 静かだ。今大学祭だよな。


「……」

「……」

「……」


 静か……。


「ああ。もう! 息がつまりそう!」


 耐えかねたメグが、手を解放し、バンッとテーブルを叩いた。


「もう。なんか話そう!」

「メグさっき萎えるって」

「何か言った?」

「何にもないよ」


 メグは気が立っている。

 少し前はお客さんの対応策だったのに、今度はお客さんが来ないことに。


「で、何話すの?」

「恋話! 私話したんだから、あなた話なさい!」

「ないよ。そんなの?」

「あるでじょ。あの小百合さんとはどうなの?」

「ええ!?」

「ほう。そうなのか?」


 太い首をゆっくりとひねって、僕を見下ろす耕次先輩。


「耕次先輩?」

「ああ。気にするな続けろ。小百合さんとは誰だ?」


 いや。気にするよ。しかもぐいぐいっと訊いてくるよ。

 メグは「ほらさっさと言いなさい」みたいな目をしている。

 どこまで話そうか。

 

「たまたま学部が一緒で、講義が偶然隣に座っただけだよ」

「へえ。夜に二人で頭下げ合っていたのはどうして?」

「そこは説明したはずだよ。たまたま出会って、ボールをぶっ飛ばしてしまって車に潰されて、それで謝っていたんだよ!」

「ほう。運命的な匂いだな」


 さらっと口を挟んだ耕次先輩に全力で振り向く僕。


「耕次先輩って、恋愛話、好きなんですか?」


 メグが僕の横から首を伸ばしながら、ニマニマとしている。

 すると耕次先輩は、眉を何度か動かして、顔を廊下に向ける。


「まあ。続けろ」


 今の流れで続けろと言うのか。

 耕次先輩はフォローしてくれる側だと思ったのに。

 気がつくと完全に包囲された。

 どうしようか。適当に話しても納得しなさそうだし。妥当な落とし所で何とか話を止めたい。


「別にそのあと講義の時に一緒に座って話す仲までになったぐらいですよ」

「ええー。そこから進展はないの?」

「ないよ。進展あったら顔に出てるよ!」

「えええ。でもそれもそうか。カゲル分かりやすいし」

「だな」


 二人はウンウンと首を縦に頷いて納得された。

 だけとなんだろう物凄く凹むんだけど。

 と、僕だけ何とも言えないダメージを負えて話は終了した。


 そしてその後数分、人が来る気配は全くない。


「こなーーい!」


 メグが痺れを切らして叫んだ。


「カゲルなんか面白い話しなさい!」

「無茶ぶりにも程があるよ!」

「こうなんかない? 尾行されたとか。殴られたとか、落とし穴に落とされたとか?」

「僕を被害にあわせたいのかな?」

「いや。てるやん先輩とエリ先輩の近くならあり得るかと思ったんだけど」

「えええ。あっ。うーん」


 ツッコンで叫ぼうと思ったのに、意外と妥当な言葉を聞いて、飲み込んでしまう。

 

 いや。確かにあの二人の近くなら起きそうな気がするけど、殴られてはないし、落とし穴はないよ。上に飛ばされたのはあるけど。


「え? 本当にあったの」

「ないよ! というかわりと苦労してる!」

「えー。でも楽しそうじゃない。一人暮らしに近くに知り合いがいるって」

「隣の芝は青く見えるんだって!」

「実家暮らしは制限が多いから、羨ましい!」


 言葉の通り、メグは悲しみと羨ましいを兼ね合わせた視線を向けてくる。

 いやいや。そんな目線をされても。


「落ちつけメグ、お客が来ないことに苛立つのはわかるけど、そんなに大声出してたら、警戒されて来ないぞ」


 耕次先輩は軽く顎でくいっと他の場所を指す。

 他のブースの人がチラチラとこちらを見ていた。


「あ、すみません」

「す、すみません」


 メグにつられて僕も謝り、正面に向き直る。


「……」

「……」

「……」


 ダメだ。静かすぎる。


「……」

「……」

「……」


 本当に誰も来ない。


「……」

「……」

「……」

「あー。もう遅くなったじゃない!」

「お前が酒飲みすぎなんだよ!」

「なあ。もう別にやんなくても良いんじゃ」

「いや。私達の居所、無くなるのはいや」


 急に聞こえる男女四人の会話。

 僕らはすぐにその声の方を見つめる。

 さっきのメグの声よりも大きい声で、駆け足で向かってくる四人組。

 細めで背の高い男性に、少し小柄だがガッチリとした体格の男性。

 長めの茶髪のスラッとしたモデルみたいな女性に、かなり小柄な不思議な雰囲気をもった女性。

 そんな四人組が真っ直ぐに僕らのブースに大量の荷物を抱えながら向かってきている。

 バルーンを貰いに来た……。というわけではない気がする。

 僕の予想を裏切らず、その四人組は僕らの一つ隣のブルーシートの所で止まった。

 そして荷物から、何やら四角いボードがたくさん出てくる。そしてそれを並べると、ペタんとブルーシートの上に座り込んだ。


「じゃあ。のんびりでもするか!」

「いや! 部活やれよ!」

「でも。こんなところ来ないでしょ」

「おかし。おかし。おかし」


 ツッコミを入れて会話している三人を無視してお菓子の袋開ける女性。

 何ともまあ。キャラが濃い四人組だな。

 ジーッとその四人組を見つめていると、ふとお菓子を食べてる女性と偶然視線が合った。


「……」

「……」


 無言で見つめたあと、会話している三人を無視して立ち上がりテクテクとこっちに向かってきた。

 遂にバルーンを作る時がきたのかと、僕は少し身構えた。

 女性はテクテクと走ってきて、僕の目の前に止まったすると。


「アフロの人はいますか!?」


 その人はバルーンをもらうわけではなかった。

 キラキラとした羨望の眼差しを向けていた。

 その目的の人がいないにも関わらず。

 僕らは突然の展開にただただ驚くことしかできなかった。

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