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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭前夜』

 アーチが完成したみたいだ。

 僕は出来たアーチをまじまじと見つめる。

 端的に感想を言うとスゴい。

 子供みたいな感想だが、正直一言目はそれしか出てこない。単純にアーチが大きいというのも理由である。

 アーチ組の人達を、僕は少し羨ましいと思ってしまった。


「さてと、じゃあこっちも仕上げよう」


 アヤメ先輩はパンパンと手を叩いた。

 僕たち装飾班は作ったバルーンの素材を壁やテーブルに飾り始めた。僕と大介は「オタマジャクシズ」という文字を脚立を使って壁の上の方を飾り付ける。


「んー。カゲルもう少し上」

「大ちゃん。もう少し下」

「あと二度ほど右に傾けるでござる」


 アヤメ先輩と、メグはアドバイスは分かりやすいけど、エリ先輩。角度二度ってわかるか。


「エリ先輩わからないです」

「う、腕が重くなってきた」

「大介。あとちょっとだから頑張れ」

「わ、わかった」

「だいちゃーん。ファイト!」


 メグの派手な応援に、さっと顔を隠す大介。

 恥ずかしがっているのか、鬱陶しいのかはわからないけど。


「カゲルっ」

「何だ大介」

「早く終わらせよう。腕も精神も色々辛い」


 プルプルした腕と、悲しそうな顔を見せる大介。

 とりあえず長引いたら危なそうであった。


「わかった。早めにやろう」


 大介の精神を察し、僕らはさっきの倍のスピードて装飾作業を進めたのであった。

 そして無事に文字を貼り付け終え、他の装飾も終わらしたのであった。

 あとは片付けという時だった。


「あれー。君は確か。ジャグなんとかの人」


 誰だろうと振り向くと、そこそこ距離の離れたところから、少しだけ駆け足でやってくる人が一人。

 お団子頭が特徴の女性。


「か、金橋さん?」

「おー。覚えてくれていたのか」


 僕の目の前で止まると、後ろのブースに気がついたのか、じっとオタマジャクシズの面々とバルーンの装飾を見渡す。


「ねえ。君の所の部活ってこんなメルヘンチックだったけ?」

「えっと。これはまあ……」


 何と言えば良いのだろうか。普通に事情を言えば良いのだろうか。相手は部統会の書記だったよな。事情を知らないとは思えない。だからと言ってあまり言うわけにもいかないし。


「ジャグリングにも色々あるんです。僕が見せたボール以外にも色々」

「へえー。奥が深そう!」


 ふむふむと頷く金橋さん。

 本当に知らないにも思える。ジャグリングがわからなかったから案外そうなのかもしれない。

 ただあんまりこの話題に触れたくないから、話を逸らす。


「それで、金橋さんは何故ここにいるんですか?」

「そうなんだよ。聞いてくれたまえ。副会長が私は書記なのに『人が足りんから見回りにいけ』とか言われて。人使い荒いんだよ」

「そ、そうなんですか」


 部統会って大変なんだな。それもそうか。部活全体の管理をしないといけない。それにこの大学は部活とサークルの数多いし。


「おっと。こんなところで長話してるの見つかったら怒られる! それじゃあまたね」

「あ、はい。また」


 金橋さんは腕時計を確認するとクルッと反転して駆け足で去っていた。

 忙しいというか、なんというか、掴み所がわからない人だな。

 まあ。気にすることもないか。

 僕は片付けのために振り返る。


「カーゲール?」

「アヤメ先輩とエリ先輩?」


 ニコニコとした笑みと、その後ろに沸き立つ変なオーラを両立させて仁王立ちする二人の先輩。ブルッと背筋が寒くなる。


「カゲルー。君って人は本当に女たらしでござるね」


 気持ち悪い笑みのエリ先輩。


「こともあろうと私達の敵の部統会と関係を持つなんて」


 アヤメ先輩は笑っているより怒っているよね。


「違います違います。これはほぼ向こうから一方的に関わってきただけで、僕はほとんど巻き込まれただけです。それに尾行されてましたし」

「知ってるでござる」


 エリ先輩はにっこりと笑う。と同時にアヤメ先輩が怪訝そうにエリ先輩を見る。


「エリ知ってるの? なんで?」

「カゲルが白状したでござる」

「白状って言い方がひどいですって!」

「だってそうでござる。さっきの人とあんなことやこんなことや……」

「誤解を招くので止めてください」


 何て言うことを言い出すんだこの人。

 恐る恐るアヤメ先輩の表情を伺うと……。


「とりあえず準備終わったら詳しくお話を聞かせてくれる? エリのボケは置いといて」


 元の表情に戻っていた。


「は、は、はい」

「うよ。バレたでござるか」


 冷静になったアヤメ先輩とお茶目に舌を出すエリ先輩である。

 本当にこの二人には毎回肝を冷やす。


「カゲル。お前苦労してんだな」


 ポンと肩を叩かれ、哀れみの視線を注ぐ同期の隣人。


「カメケンすまん。改めて言われると、余計に悲しくなる」

「お、おう」


 本当に巻き込まれ体質だと思う。これがフラグにならなければいいんだけど……。

 想像したらいかんな。

 今は目の前のことに集中しよう。明日のバルーン配布と、柿沢さんとキャンパス内を回る。この二つをしっかりとこなさないといけない。だから今はそれ以外のことを考えない。そうしよう。

 一抹の不安を押し込めて、僕は片付けのために戻っていった。


 そして夜。


「とりあえず状況だけ聞いておきたい」

「えっと、わかりましたけど、ごはん食べながらでいいですか?」

「それはいいよ」

「アーヤはちょっとピリピリしすぎだよ。それだと答えられないなら落ち着いて」

「カスミンッッ。わかった」

「今。ものすごく言葉を飲み込んだね」


 苦い顔をするアヤメ先輩と、なだめるカスミン先輩。そして頼んでついてきてもらったカメケンと四人で、近くのファミレスに来ていた。


「俺本当に来てよかったんすか?」

「いいよいいよ全然。今日は奢るから」

「え。本当っすか。でもそれは」

「後輩は先輩に奢られていいんだよ。そしてその分を後輩が出来たときに奢るんだよ!」

「は、はい。わかったっす」


 カスミン先輩の言葉に、ビシッと背筋を伸ばしてからペコリと頭を下げるカメケン。

 なるほど。後輩が出来たら奢るか。ヤバいな。どこかでバイトを始めた方がいいのかな。

 目の前のハンバーグを見つめつつ今後の事を考える。


「それで、本題なんだけど」

「は、はい」

「あの書記とは何かあったの?」

「まあ。端的に言うと尾行されてました」

「……」

「えっ。そうなのか!?」


 隣いたカメケンがぎょっと目を丸くして、ポテトを口の前で止める。

 対して正面の二人は、落ち着いている。


「他に何かされた?」

「質問はされましたね。ジャグリングがどんなのとか。戦闘集団がいるとかいないとか」

「戦闘集団……」

「頭痛い」

「そんな噂になっているっすか!」


 カスミン先輩は頭を抱える。カメケンの驚きがオーバーになる。

 それでもアヤメ先輩は話を続ける。


「で他には?」

「他には。特にはないですね」

「そうなの?」

「はい。尾行されたとき一回話しただけです。それ以降は特にはないですね」

「ふーん」


 アヤメ先輩は腕を組み考え込む。


「本当に何もされてない?」

「されてないです」


 心配してくれるカスミン先輩。


「うーん。まあ。今はスルーしていいか」

「えっ。いいの?」


 アヤメ先輩の早い妥協に、カスミン先輩は瞳を二度ぱちくりとさせる。

 僕とカメケンは一瞬目を合わせる。


「これ以上懸念材料を増やしたくはないのだけど、今日の感じ、あの書記は見回りに来ただけの場合が高い。まあ私達の偵察って言う場合もあるけど、直接攻撃することはないとは思う。むしろ……」

『むしろ?』


 三人の声がハモり注目が集まる。


「まあ。気にしないで。あとは私達が何とかしておく」

「えっ。そこまで言って言わないの?」


 カスミン先輩の意見は最もだ。僕とカメケンも同じこと思った。


「ごめん。私が変に臭わせたのは悪い。でも、あなたたちは明日の大学祭に集中してて欲しい」


 それもそうか。本番でミスをしたくはない。正直不安過ぎてならない。


「でも何か手伝えることはないっすか?」


 カメケンは少しだけ身を乗り出す。すぐに言える姿は凄いと思ってしまう。


「気持ちだけは受け取っておく。でもこういうのは先輩に任せて欲しい」


 アヤメ先輩の言葉に何か反論しようと口を動かそうとするカメケン。だが言葉がでない。


「それなら健三君はバルーン作るの精一杯頑張って。それが私達の手伝いになるから」


 カスミン先輩は必死そうな彼をなだめるよう見つめる。

 うまく言い回したとも思う。でも彼はそう簡単に納得するのだろうか。


「わかったっす!」


 納得したのか。

 ゆっくり後ろに下がり椅子に腰かけたカメケンである。本当にそんな簡単に納得するのか、不安になって様子を伺うがさっきの様な必死な顔は消えていた。


「本当に大丈夫ですか? 自分の心配をした方がいいのはわかりますけど」


 やはり二人が部統会関係で何か隠しているのは間違いない。厚かましいかもしれないけど。


「不安を誘ったのは悪かった。でも明日のことに集中していて」

「心配しないで。ここはドンと先輩に任せて」


 アヤメ先輩の説得力と自信満々に言うカスミン先輩。

 二人の先輩の表情を見ると、ここは素直に自分のことに専念する方が良いと思った。力不足の自分は目の前のことに集中する。それで言いはず。


「わかりました。バルーンの方に集中します」


 目立った反応は見えなかったものの、二人が安堵するのはわかった。


「じゃあ。冷めない内に食べますか!」


 カスミン先輩がパンと手を叩く。


「はい」

「はいっす」

「そうね」


 全員揃って、並べられた料理に手をつけたのだった。



 そして帰宅し、就寝前。


 布団の上で転がり暗い天井をぼんやりと眺める。

 明日の不安。初めてのバルーン配布に柿沢さんとの大学祭回り。やっぱり不安だらけだ。

 というか本当は小百合さんと回りたかったけど、小百合さんが柿沢さんを押したんだよな。その柿沢さんも僕に対して少なからず気はあるんだろうな。とはいえどうしろと。んー。わからん。小百合さんが違うとは言ったけど。

 うん。わからん。

 そのときに考えよう。今はバルーンが優先だ。それが上手くいくよう頑張ろう。

 僕は天井に向かって決意し、眠りについたのだった。

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