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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『準備』その2

 数分後。


「おーい。できたぞ」


 気がつくと、白い骨組みのアーチの目の前で、タンクトップと短パンの大男とオレンジ色のアロハシャツと短パンの人物が堂々と腕を組んでいた。


「えっ。てるやん早くない?」

「そうか? 普通に組み立てただけだぞ」


 さも当たり前のように答える。

 隣に立っている耕ちゃんをチラッと覗き見る。


「手際が良かったな」


 淡々と言っているようだが、耕ちゃんはいつもより瞳を大きくしている。

 やはり私だけが驚いているというわけではなかった。とはいえ早く出来たことには変わらない。おかげで早めにバルーン作りにとりかかれる。


「てるやんありがとう!」

「おう。んで次は何をすればいいんだ?」

「じゃあ、この風船を膨らまして、二人に回して」


 テーブルでせっせっとバルーンをこねる二人の横にある箱を指差す。


「おう。わかった」

「うむ」


 ぐるぐると腕を回しながら進むてるやんと、不思議そうにてるやんを伺う耕ちゃんだった。


「それでは私もやりますか」


 一通り指示だしが終わったので、私も作業に移る。

 後輩二人が作ってくれた丸く出来上がったバルーンを手に取った。

 そして同じ色のバルーンを二つ持ち、結び目の部分を軽く伸ばして、柔らかくする。そしてその互いの結び目を結んで二つのバルーンを繋げる。これは後でアーチに引っつけるためにする必要な作業である。

 黙々と風船を二つを結んでいくという作業。はっきりいって地味である。ジャグリングと比べるとまた然り。

 正直、ジャグリングを大学祭の舞台でやりたかったという気持ちはやはりある。特に私はまだきちんと人前でやれていない。だから本当は演技したい。駄々をこねるのも本当はよくないけど……。

 いけない。いけない。余計なことを考えてる。

 私は軽く頭を振って、再度バルーンをつけ始めたのであった。


 気がつくと私の隣に大量に積まれた風船の山ができていた。


「部長終わりました!」


 そしていつの間にかこねる役になっていた後輩二人が、額に汗を滲ませながらも、すっきりとした表情だった。


「お疲れ! じゃあ10分休憩。水分補給しっかりとね」

「はい」

「はいっす」


 二人は自分の置いている荷物の場所に歩いていった。


「おう。俺らも休憩か。まだまだ全然動けるぞ」

「おいおい。オモリを運んだときの疲れの分はどこいった?」

「あー。あれはあれだ。もう回復した」

「早いな」


 両腕の力瘤を何故か見せるてるやんに、ツッコミをいれる耕ちゃん。

 この二人がヘトヘトになるのはあまり想像できない。とはいえまだ暑さが残るこの時期に油断はならない。


「一旦休憩して水分補給して、大丈夫だと思っても、突然疲れがどっとくるかもれないし」

「んあー。それならわかった」

「そうする」


 二人は飲み物を買いに歩いていった。

 私も一休憩しよう。

 隅に置いている自分の鞄から、水筒を取り出しくるくるとふたを開ける。そしてお茶を一口飲む。


「カスミン。休憩?」


 アーヤはペットボトルのジュースを二つ両手に持っていた。


「そうね。そっちも?」

「数分前くらいからとってる」

「順調?」

「まあ。だいたいは。作るものは作ったからあとは貼り付けるだけ。そっちは?」

「こっちも素材は作り終わったから、あとはつけるだけ」

「それはよかった。とりあえず夜遅くになることは無さそうね」


 私の隣に来て壁にもたれかかるアーヤ。

 そして一つのペットボトルの蓋を開けて、口をつける。


「そういえば、アーヤはなんで二つ持っているの?」

「んっ。あー。これ、予備!」

「あー」


 普通の理由だった。


「それよりもカスミン。気にならない?」

「ん?」


 アーヤが見ている方向に私は視線をやる。

 私たちの一つ隣にあるスペースなのだが、今現在誰もいないのである。

 因みにそのもう一つ隣は、どこの部活かサークルかはわからないが、何人かが服を畳み、前のスペースに並べている。古服を売るのだろう。


「えっと。隣ってどこだっけ?」

「えっ。そっち?」

「そっち? って違うの?」

「いやまあ。それもあるんだけど、ここら辺に人が来るとは思えないんだよね。やっぱり」

「ああ」


 アーヤの言葉を聞いて納得し、周りを確認する。

 私たちの今いる場所は、少し湿気混じるような薄暗い場所である。

 今は学祭前とあってフリーマーケットでいくつかの団体がブルーシートを敷いて色々物を置いて人がいるものの、元々はあまり人がいない場所である。

 それもそのはず、この建物は大学のメインの通りから離れた所にある。

 愛称は旧棟。

 ひと昔前はよく使われていたのだけど、新しくこれに変わる建物が出来たとかでほとんど使われなくなった。

 屋台があるメイン通りからも離れており、近くに舞台やステージがあるわけでもない。

 そしてしかも地下一階。スタンプラリーでもない限り望んで来るところとは思えない。


「んー。来るのかな?」

「来なかったら作戦を立てるしかない」

「えっ。どんな?」

「それは状況を見てから判断する。というか、カスミンも考えてよね」

「あっ。はい」


 アーヤの言う通りだ。私も少しは知恵を出さないと、とはいえすぐにパッとは出てこない。

 それよりも、隣がなんなのかが気になってしまった。


「隣ってどこなんだろう?」

「ああ。隣ね。ちょっと待って」


 アーヤは鞄から冊子を取り出す。

 そしてフリーマーケットの見取り図を確認する。

 

「あった。ボードゲームサークル」

「え、それ面白そう」


 楽しそうなサークルではある。

 人生ゲームとかモノポリーとかダイヤモンドゲームとかクワルトとか、そういった類いのやつかな。遊んでみたい気もする。


「カスミン。シフト空いたら遊びに行く気満々でしょ」

「えっ。ばれた?」

「顔に書いてる」

「えー」


 私のバカヤロー。


「でもここは創部一年目みたい。人数少ないのかな。こういうのって教室一室借りて、体験型にすると思っていたんだけど」

「そ、そういうものなの?」


 教室借りてとか、そういった事情はあんまりわからないが、体験型なら体験しに行きたい。

 ひとりでにボートゲームに興味を示している私とは別に、アーヤはじっと空いたスペースを見つめる。

 何か嫌な予感でもするのだろうか。単にまだ来てないだけというのもあり得る。


「今はいいか。あんまり気にしてて、こっちの準備に支障を来したらいけないし」


 アーヤは視線を戻して、壁にもたれるのを止めて、ペットボトルのキャップを閉める。


「そうだね」


 まだまだやることはある。アーヤの言う通り気にしすぎてはいけない。

 私も壁から離れて、水筒のキャップを閉めた。

 するとタイミングよく、てるやんと耕ちゃんが戻ってきた。リナと健三君もバックに飲み物をしまっている様子だった。

 丁度良さそうだ。


「じゃあ、私はぼちぼち続きをするよ」

「わかった」


 私はアーヤに伝えてみんなの方に向かった。

 

 アーチ作り後半。

 黄色同士のバルーンの繋ぎ目と水色同士繋げ合わせたバルーンの繋ぎ目が十字になるように置くと、水色と黄色の四枚の花みたいなのを作る。

 そしてこれを、てるやんと耕ちゃんが作ったアーチ骨に繋ぎ目を絡めるようにして引っ付ける。これをアーチの端から一セットずつ積み上げていく形で作っていくのである。

 リナと健三君二人に、黄色と水色の四枚花を作ってもらい、それを私は背の低い部分に着けていき、高い箇所は耕ちゃんとてるやんに着けてもらった。

 そして反対側の部分まで全部つけて完成したと思ったら、一セット足りずに、隙間が空いてしまった。

 なので予備をまた膨らまして一セット作り、最後の隙間に装着したのであった。

 そして完成したのである。

 アーチ上に並ぶ黄色と水色のバルーン達。作っていた時はわからなかったけど、完成すると想像より大きく見える。


「おう。出来たな」

「うむ」

「できるっと何か感動するっす」

「難しそうに思えたけど、案外できるもんですね」


 各々完成したアーチを見て驚く。自分達で作って自分達で驚くのも変な話ではあるけど。それほど大きかった。


「おお。これは大きいでござるな」

「思ったより大きいね」

「すごいですね」

「うへー」

「これ。作ったんですか!?」

「でかーい!」


 装飾組と顧問が、一度作業を止めて完成したアーチを見て驚いていた。


「俺たちが」

「作った」


 てるやんと耕ちゃんが、腕を組んで仁王立ちする。


「ちょっと私たちも作ったんですよ」

「先輩! ズルっす!」


 リナと健三君が横から抗議しながら、横に並ぼうとする姿がちょっと可愛らしく思える。


「案外早くできたんだね」


 さっと横に立つアーヤ。


「そうだね。そっちは?」

「あとちょっとだね」


 アーヤの移した視線の先には壁につけられたバルーンの華などの装飾が、湿気じみたこの空間を彩っていた。


「インパクトはあるよね」

「それは間違いないと思うよ」

「案外何とかなるんじゃない」

「だといいんだけどね」


 完成したアーチを眺めながら、私たちは明日の大学祭が良くなることを願ったのであった。

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