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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『準備』その1

 大学祭前日。

 キャンパスはどこもかしこも準備で大忙しのようだ。

 通りに集まる屋台の準備。部室から漏れるギター音。スピーカーからなるマイクテスト。フリーマーケットブルーシートを広げ、商品を並べていく人達。


「それ。そっちに置いてくれ」

「ちょっと手伝って」

「ほら、サボらない」


 忙しいそうな声を聞くと明日始まるのかと、少しだけドキドキする。楽しみでもある不安でもある。でもやるしかない。それだけだ。

 そんな学祭前の空気を感じながら、私は歩いていたのであった。


 そして現在地、私たちのオタマジャクシズのフリーマーケットスペースにて。


「はーい。皆さん集まりましたか?」


 パッと振り返ると、わらわらとみんなが狭いスペースに集まっている現状にちょっと笑いそうになる。


「はーい! って俺たちは幼稚園児かーい!」

「ぷっ」


 てるやんのノリツッコミが久しぶりに直撃して、私は本気で吹き出しそうになった。


「ということはカスミンが先生でござるな。でも実際の先生よりも先生らしいのは頷けるでござる」

「ちょっと、聞き捨てならないんだけど」


 腕を組んでひとりでに納得するエリに下からムムムっと迫る日暮顧問。

 外見だけならあながち間違っていないのかもしれない。自分で納得するのも変な話だけど。


「はいはい。茶番はそこらへんにして」


 パンパンと手を叩き、脱線しかけた私たちをすぐに引き戻してくれる相棒であった。


「で、振り分けは決めてるの?」

「もちの、ろんで!」


 と言った後に気づく。私のテンションが少しだけ高いことに。

 けどアーヤは私の反応をスルーした。

 と思ったら、コツンと手の甲で頭を叩かれた。

 数秒ほど反省したあと、ゴホンと咳払いしてから始める。


「ということで、早速アーチ作りチームと装飾チームに別れましょう」


 そして、振り分けメンバーを伝える。


 アーチ作り

 私、てるやん、耕ちゃん、リナ、健三君


 装飾作り

 アーヤ、エリ、メグ、大ちゃん、カゲル


 監視と応援

 日暮顧問


 このような感じになった。

 たぶんバランスはとれていると思う。


「んで俺らはどうするんだ?」


 早速てるやんがアーチの土台となる白い円盤型の物を担いでいる。もうやることわかっているのかな。


「その持っているやつに水をギリギリまで入れてきて、耕ちゃんと一緒に」

「えっ。これ水を入れるのか。回さないのか」

「回すってそれを?」

「皿回しだよ。皿回し、真ん中に棒を突き立てて回すと面白そうだろ」


 想像してみる。案外形になりそうな上に、面白そうである。


「だけど、それは今度ね。ほらさっさと行く」


 パキッと拳を鳴らしてあげる。


「うお。おっかねえなって、うおお」


 気がつくと後ろに立っていた耕ちゃんが、ガシッとてるやんの片腕をつかむ。 


「大丈夫だてるやん。次の機会でやって良いみたいだ。だから行くぞ」

「おうおう。わかったからあんまり引っ張るな耕次」


 耕ちゃんに片腕を引っ張られていくてるやん。そんな見慣れた光景に少しだけほっこりした気分になる。


「部長! 私たちはどうしたらいいですか」


 振り向くと、リナと健三君が並んで立って待っていた。

 律儀に待っている二人に可愛く思いつつ、私は後ろにある箱を持ち上げて目の前に置く。

 中には新聞と人数分のポンプと黄色と水色のラウンドバルーン(普通の丸い風船)とジャグリング用のリングがある。


「この二色のラウンドバルーンを膨らまして、そして膨らましたら、このリングに通る大きさにしたあと、こねて!」

「こねる?」


 二人の頭にはてなマークが出現したようだ。

 私も調べたときは、同じような疑問を抱いたので、その表情はとてもよくわかる。


「まあ。私もするからちょっと見ていて」


 私はポンプとラウンドバルーンを取り出して、ポンプを動かして膨らます。そして風船がゆっくりと膨らんでいく。そして口の部分をつまんだまま、リングの中を丁度通る大きさに調整する。大きさが決まると、バルーンの口を結ぶ。

 そしてここからまた説明。

 できたての風船を片手に持って説明する。


「丸い風船って、普通に膨らますと、ちょっと下の方が伸びて、歪な楕円になるよね」

「本当ですね」

「そうっすね」


 二人とも頷く。


「それを綺麗に丸くするためにこねる」

 

 箱の中から新聞を取り出してこねる。長机に敷いてその上から風船を置く。そしてその上から両手を使ってこねる。例えるならパンかうどん粉をこねるような感じで風船を押し付けてキュッキュッという音をたてながらこねていく。

 しばらくこねてから持ち上げると、それなりに綺麗な球体になったのであった。


「おお!」


 二人とも大きく目を開いて、理解してくれたみたいだった。


「はい。じゃあ片っ端から作っていくよ」

「はい」

「はいっす!」


 ということでバルーンこねる作戦が始まったのであった。

 二人が作り始めてすぐに、オモリに水入れを頼んだ二人がやって来た。軽々と円盤型のオモリを持つ耕ちゃんと、ちょっとだけ身体を傾かせて運ぶてるやんであった。

 近くにオモリを置いて、壁に持たれるてるやん。

 

「ふー。水を入れると案外重いな」

「まあそうだが。てるやんはもう少し力つけた方がいいぞ」

「えええ。そうかな」


 確かに重そうではあるが、まだまだ始まったばかりだぞ、てるやん。


「てるやん。耕ちゃん次はアーチの骨組みを組み立ててくれる?」


 私はアーチキットセットを運び、てるやん達の前に置く。


「うお。なんだこりゃ。どうやってだ?」

「てるやん。お前どこでそんな驚き方を覚えた?」


 片手を上に上げて、もう片腕を肩に当てるてるやん。本当にどこで覚えたんだろ。


「それは置いといて、私も作るのは始めてだから、何とも言えないよ。一応説明書には目を通したけど」

「ああ。説明書あるのか、じゃあ作るわ!」

「えっ!?」


 あっさりと作ることを了承したことに驚きを隠せない私。


「ん。てるやん。マジか?」

「ん。何だ。そんなに疑って。説明書読めば大体作れるだろ。まあ無くても何となくはわかるけどよ」

「お。おう」


 耕ちゃんが半歩だけ後退している。


「まあ。骨組みは組み立てるから、後輩の面倒見とってや」

「え、あ。わかった」


 言われるままに私は二人(主にてるやん)に任せたのであった。

 少しだけ、私はキョトンとしていたのであった。

 正直驚き過ぎて、自分がするべき事が分からなくなりそうだったけど、そうはならなかったから良かった。

 私がこの理由を知るのは結構経ってからであった。

 

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