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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『私と私の相方』 その1

 真っ暗の部屋の中で、一つだけ灯りが仄かに光っている。

 机に向かい、課題の最後の問題に対して額にシャーペンを当てて考える。

 私白峰カスミは、絶賛課題と奮闘中である。


「あっ!」


 パッと答えが閃き、ペンを走らせた。


 全て書き終わると、机の上にコトンとペンを置き、大きく腕を上に伸ばして背伸びする。

 フッと力を抜いて、椅子に全体重を預けた。


 机の奥の壁にあるカレンダーをジッと見つめる。

 五月一日の欄に赤いバツ印があった。

 ペン立ての赤いペンを取り出し、五月二日にもバツ印を書いていく。

 ペンを元あった場所に戻すと、フーとため息を吐く。


(今日も一日が終わる)


 この瞬間がいつも嫌になる。


 だったらしなくてもいいじゃないかと、どこからか囁いてくるが、それはできない。



 一日は大事だ。



 今日という日を大事にしないのは時間を無駄にするのと同じだと思っている。

 そのことを忘れないためにも、印をつけなくてはならなかった。


 椅子から立ち上がり、冷蔵庫から茶色の小瓶を一本取り出す。

 蓋を開けて飲む。

 味は何とも言えないが、元気にはなれる。


「いつ見てもビックリする。よくそれを飲めるね」


 隣の襖がいつの間にか開き、部屋から光が差し込む。髪を下ろしジャージ姿のアヤメが小さなアクビをしていた。


「何か元気になれるし。アーヤは一口でアウトだったけ」

「ほんっとにあの味は無理」


 真顔で否定した。


 確かに納得はできる。


 私は慣れてきたから、今は特に何も感じないけど、初めて飲む人には癖がある味だと思う。


 実際にあの三人に試したら大惨事だったし、耕ちゃんに至ってはよく分からない化学反応が起きてしまったから、私以外の人に飲ませることはやめておくことにする。


「ちなみにあと何箱だっけ?」


 私はテーブルの横にある積み上がった箱を目で数えた。


「あと六箱ぐらいかな」


 返ってきた表情は苦笑いだ。


「大変なものを押し付けられたね。カスミンが大荷物を背負って、その箱を荷台で押しながら、私の前で現れたときは、オプション付きのホームレスかと思ったよ。どんな状況?」

「ごめんね。あの時はお金も住む場所がなくて」

「全額授業費無償で大学入れたのに、それ以外のお金を川に落としたと聞いたときは、どれほどのドジっ子かと思ったら……」


 やれやれとアーヤは嘆く。


 あの時の私は、色々悲惨だったのは今でも覚えている。ホテルに二週間泊まれる資金が入っていた財布を、自動販売機でジュースを買う時に手から滑らせた。落ちた場所がまさか川だったとは……。

 途方に暮れていたら、たまたま通りかかったアーヤが助けてくれた。

 アーヤにはもの凄く感謝している。

 微笑ましく見つめると、プイッとアーヤは目を逸らす。


「あの時はありがとうね。助けてくれて」

「八割以上、カスミンにせがまれたけど」

「うっ」


「私も丁度誰かいないかなと思っていたところだし。とりあえずそれは置いといて、カスミンは明日の一年生歓迎会までの時間は空いている?」


 突然の質問に、慌てて頭の中で予定を整理する。


「えーと。そのー。空いてないこともないけどー」


 本当は今後の部活の方針について一人で考えるつもりだったけど、アーヤの誘いにはのってあげたい気持ちが出て、ついつい曖昧な返事をしてしまう。


「それなら、服買いに行かない?」

「服?」

「そう。カスミンはもっとお洒落しなきゃ。いつまでも全く同じ青と白のワンピースだけなんて、彼氏できないよ」

「彼氏って、私はまだそんなこと……」


 アーヤの口からそんな言葉が飛び出てくると思わなかった。顔がちょっと熱くなる。


 彼氏なんて考えたこともなかった。


 正直私は部活が楽しいから、恋愛感情など求めなくても十分だと思っている。


「そういうアーヤだっていないよね?」


 核心を突かれたアーヤは若干唸る。


「そうだけど、もう少しファッションに気にかけた方が良いってこと」

「でも服買うお金なんてそんなにないし」

「それなら私が貸すから! 親友として、カスミンの服のバリエーションの少なさは見過ごせない」

「うう。アーヤがそこまで言うなら」


 結局折れた。


「じゃあ明日正午には出発するね」


 アーヤは二ッと笑いかける。

 アーヤの提案は間違ってないし、ファッションに無頓着だったことは確かだし……。

 仕方ない、いつかは必要かもしれない。


「明日買ったのは、夜の歓迎会に着ていくよ」

「なんで?」

「なんでって、歓迎会ぐらいちょっと綺麗なので行くべき」

「う。うん」


 本当にアーヤは手を抜かない。そこいつもが驚かせられるし、少し怖い。


「じゃあ私は寝るね」

「おやすみ」

「おやすみ」


 襖の音を立てながら閉め、アーヤは部屋に戻った。


 本当に面倒が良い相方。たまにおせっかい過ぎると感じる時もあるけど、今の私がいるのはアーヤのおかげ。


 アーヤの提案により少し明日は忙しくなりそう。でも何もない一日よりはいいと思う。

 新しい予定が入ったら、元の予定を少し前倒しでしないといけない。

 私は引き出しから、一つの紙を取り出し机の上に置く。これは私の夢の第一歩となるもの。

 改めて出してきたA4の紙を見つめ、思わずニヤリと頬を緩ませる。


「カスミン。顔気持ち悪い」


 私は驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになる。ギリギリで堪え、転倒を間逃れる。


「ノックしてよ!」

「あーごめんごめん。やっぱカスミン面白い。おやすみ」


 バタンと音を立てて閉まった。

 アーヤは隙がない。とは一年間の共同生活で導き出された答え。


 私は彼女の寝息が聞こえるまで、何度も襖に目を向けたのだった。


家の近くのセミが大合唱中。

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