11/9 いいオークの日に寄せて
「ふざけるな!!」
捕虜としての矜持。多勢に無勢、ついに敵に囚われてしまった私は、それでも、村一番の戦士らしく敵を睨めつけた。奴らはニヤニヤ笑いながら、腕を捩じり上げられ、動けなくなった私を取り囲み、じりじりと近づいてくる。それも、半裸でだ。
「貴様らのような下等民族と、せ、せ、せ、性交渉などするわけがないだろうが!!」
「残念だったなァ、もう遅いィ!その体にたっぷりとお返しをさせてもらうよォ!!」
冗談ではない。村には必ず帰ってくると将来を誓い合った伴侶がいる。子供もいる。それを、よりによってこんなおぞましい見た目の、こんな・・・
「嫌だ!!したくない!!貴様らとなどと!!」
気づけば涙が頬を伝っていた。
「え?何を?」
「え?」
「え?」
戦場に似つかわしくない、間の抜けた空気が流れる。
「この後・・・レ・・・イプされる・・・のでは・・・?」
「するわけないだろァ!普通に殺すわァ!!とんだ絶倫かよおめぇはよォ!!」
その言い草に言い返したくなるが、グッとこらえる。
どちらにしても運命はさほど変わらないか。純潔を守ったまま死ねるなら、きっと伴侶も許してくれるだろう。私は、これまでの人生を振り返っていた。
平和なこの村に、あの半裸の下等民族の一人がやってきたのが3ヶ月ほど前のことだ。旅の途中で行き倒れていたのを、哀れにおもったある家族が助け出したのだ。
あの異形を助けると言う行為には頭が下がるが、それを許したことは私含め暢気な判断だったと今では思う。目覚めた瞬間、奴は雄叫びをあげ、家族に襲い掛かったのだ。
挙句、子供まで設けたらしい。異形との子を!
怒り狂い、奴を殺そうとした私を、村の皆は必死で止め、そしてこう言った。
「あんなでも、生まれてくる子供にとっては親なんだ!どうか命だけは!」と。
奴を幽閉して9ヶ月経った頃、また似た奴らがこの辺を嗅ぎ回っているという情報が入った。
そして、奴を探しに来たのだろう、この集団を迎え撃つために村から飛び出して、このザマだ。
◇◇◇
「・・・ちょっと待てェ、あたしらは、仲間を探しに来たんだよ」
「ッ!!残念だったな!!そいつなら今頃牢の中だよ!!さぁ殺すがいい!!」
「死んでいないんだなァ!?」
「私は殺そうとしたがな!腐っても親だからな!!」
「お前ェなんと下衆なことをォ!」
「下衆!?下衆というセリフをよりによって貴様らが使うのか!!村一番の、まだ小さな美男子を犯したやつの仲間の貴様らがか!?」
「え?」
「腐れ外道の姫騎士共め!私たちのオークの村をめちゃくちゃにしやがって!絶対に殺してやる!」
「え、ちょっと待って」
「なんだ!?さっさと殺せ!だが無駄だ!私が死んだとてオークの誇り高き戦士たちはへぶぅ」
「待てっつってんだろ」
ビンタ一閃。私はひるんでしまった。
「あたしらは仲間がオークに捕まったと思って助けに来たんだよ、慰み者にしてると思ってな」
「慰み者・・・?」
突飛な発言を30秒ほど考えて、私はシャウトせずにはいられなかった。
「全体的に無理だろ!お前逆に考えてみろよ!お前らスライムみて欲情するか!?しねえだろ!!
こっちも一緒だわ!!腹に肉は全くない!肌の色は緑じゃなくて気持ち悪い!鼻も・・・なんか高くて怖い!
無理だろ普通に!ゲテモノすぎんだろ!!」
姫騎士たちはなにやらヒソヒソ話し合っている。
「いやまあ確かにそうだよね・・・」
「・・・と思う・・・じゃない?・・・」
「・・・でも・・・だったから・・・B専・・・と思う・・・」
「絶対・・・だって・・・B専・・・」
「B専・・・だよ・・・」
そして、バツが悪そうに私に向き直った。
「色々済まなかった。本人に会わせて欲しい」
結果から言うと、内面を見るタイプの二人が惹かれあったというだけの話だった。美男子も同郷の女の子は全くタイプではなかったらしい。もったいないとは思うが、本人の意思には逆らえない。二人は恋に落ちただけで、私と姫騎士たちがわかっていないだけだったのだ。だから村人たちは激昂した私を止めたのだろう。雄叫びをあげたのも、殺されると思ってびっくりしただけだったそうだ。
こうして、私たちの村と、姫騎士たちの治める国は姉妹都市となった。
だが彼の国の来訪者がいくら増えても、姫騎士たちの防御力の低い衣装(びきにあーまー、というらしい)にはいつまでも慣れないな、と私は思うのだった。
オークさんサイドからして普通に女騎士みたら「うわぁ、きも」って思うんじゃないかっていうのを無理やり肉付けしたらこうなった。超たのしい。
叙述トリックじゃないけど、逆だと思って読んでましたみたいなのをやろうと思ったけど、最近そういうの多いから「いつもの」感出てしまってる。でも超楽しい。