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寄り道

作者: 穴沢喇叭

はじめまして。今回が初の投稿になります。お見苦しいところもあるかと思いますが、是非読んでいただけるとありがたいです。よろしくおねがいします。

 外があんまりに寒かったもんで、滅多に入らない喫茶店に入ってみることにした。


 木々は赤や黄色に染まり、はらはらと落ちるくらいに、寒い季節になっている。庭の先々に植わっているモミジやら銀杏やらが、そこら一体に鮮やかな絨毯を敷き詰め始めた。

 手は少し外に出すだけで赤くなってしまう。こちらの赤は他の赤とは違って赤紫色で、痛々しい。僕は早々に袖のなかに引っ込めた。


 僕の日課に、散歩がある。高校に入学してからは、通学路と家を行ったり来たりだけでマンネリで、じゃあ地元の風景を見て少し癒されてみようか、というのが建前で、本当は勉強を放棄してのんびりしているだけだったりするのであった。

 最近はそこらじゅう赤や黄色に色づいて、もっぱらモミジ狩りのようなことをやっている。地元はそんなにモミジが植わっているわけでもなく、むしろ銀杏の方が多い。詳しく言えばモミジや銀杏より桜などの他の落葉樹ばかりなのでモミジ狩りではないから、紅葉狩りとしておこう。漢字は便利である。


 さて、お気に入りの散歩コースはこうだ。まず家からでる。靴はそんなにこだわっていないが、最近は足が疲れることも考慮して、歩きやすいスニーカーがお気に入りである。というか選択肢がない。僕の持っている靴はこれのみだ。通学の時もこれなので、そろそろ洗わないと何やら香ってくるかも知れなかった。


 家を出ると、まずスーパーに向かって歩く。近所にあるのはごくありふれた地域密着型の普通のスーパーである。本当に何の変哲もない。ないったらない。ありゃしない。別にスーパーをディスりたいわけではないが、もう少し品物を数多く揃えてほしいなあというだけである。お隣の市は少し人口が多いのだが、そこのスーパーと比べると非常に品揃えが薄いのだ。それに更新が遅い。まあ、ローカルだから仕方のないことなんだけど。たまに売れ残った2作前のヒーローものの玩具菓子が恐ろしい値段で売っていたりする。

 ここで何をするのかと言うと、暖かい飲み物を調達するのだ。自販機で買うより、20円ほど安く仕入れられる。僕にとって20円は死活問題である。いつもの、ごくありふれたペットボトル紅茶を買い、今度は公園に向かって歩き始めるのだ。


 まあいつもならここまでは順調な流れだったんだが、今日はあいにく売り切れてしまっているというか、それなら他のものを買えば良かったんだけれど、お茶にはこだわりの強い僕は他の微糖やミルクティーは甘すぎて嫌だったので、それならせっかく出てきたんだから喫茶店に行こうと、いまはあるいているのだ。

 正規のコースとしては、ここから公園にいくと、いい感じで、こう、赤や黄色の紅葉が見られるわけなのだ。当たり前であるが他の軒先や庭先よりも公園の方が植わっている木々も多い。ちょうどひときわ大きいモミジの下にベンチがおいてあって、買ってきたお茶を飲みつつ、じっくりと回りを見回しながら物思いに更けるのである。


 さて、いまは古い喫茶店の前に立っている。いつ見ても、やっているのか怪しいほどの植物の繁りようであるが、意外と繁盛しているのだ、買い物帰りのおばさんたちのものであろう自転車が10台ほどとまっていた。実際この店は繁盛している。そこそこ値段はするのだが美味しいコーヒーやランチに定評があり、僕もお金を出してくれる人 (親とかそういう方々である)につれられてしばしば来る店である。だが、一人で来たのは今回がはじめてであった。

 出てきた人と入れ替わりに中にはいると、いい感じにノリのよいJAZZといい香りにみちていた。この扉を開けた瞬間が、なんとなく大人になったような気がして好きである。喫茶店のすみっこの、二人がけの席に座る。小振りのまん丸なテーブルに、メニューと手拭きがたてられている。テーブルと椅子はどちらも足が長くて、これは背の低い僕への挑戦状であると見受けられた。細くしなった猫足。いかにもおしゃれな喫茶店のものといった印象である。よくみると火星人にも見えなくもない。


 さて。本題である。そういえば僕は今思い出した。そういえばとか言っているが、僕は最初からそれが目当てで来たのかもしれない。この店は、あの子がいるのである。あの子、というのは同級生にたいして失礼な代名詞かもしれないが、僕の幼馴染みである。そういえばここへバイトに通っているなあと、ふと思い出したのだ。ご近所に住んでいる。というか僕の家の隣である。お互い高校に入ってから帰る時間もバラバラだし、連絡もそこまでとっていない。朝話せるかもと期待した自分であるが、あの子の方が一時間出発が早いのであった。

 ここで主張したいのは、女の子だということである。そう、女の子。男子校にかよう僕にとって日常生活ではほとんど接点のない存在である、女の子だ。僕と彼女は、小学校の六年間、同じクラスであった。といっても田舎の小学校だから、1クラスしかないので当たり前なのだが。それで、大分仲良かったのだ。

 さらに特筆すべきは、彼女の身長である。145センチ。小柄な僕よりも15センチも低いのだ。その体から有り余るほどの活発さを兼ね備え、僕は彼女によく振り回された。中学はさすがに同じクラスではなかったが、帰りの時も遊ぶときもよく一緒だった。今思うと、ちょっと一緒すぎて男女としてはおかしいんじゃないかと思う。それぐらい、仲が良かった。

 修学旅行の時も同じ班で、

「うちの班は全部歩きます」

 と二日間すべて宿から徒歩で京都を見回った。まあ伏見稲荷から三十三間堂はいい、二条城から渡月橋ってちょっと何があった。まあその代わり交通費が浮いてお土産がたくさん買えた。いい思い出である。

 彼女がバイトかぁ。さぞかし振り回しているんだろうなぁ。


 彼女は見つけやすかった。運よくシフトの時に入店したようで、彼女はテコテコと歩いている。ほかのウェイターやウェイトレスと頭1つ違う彼女は、食器を片している。彼女がこちらに向かってあるいてくる瞬間、僕は耐えきれなくなったのか声をかけた。

「や、やぁ」

 彼女は振り向くと、最初不思議な顔をしていたが、またさらに不思議な顔をして、急いで食器を片しにいった。僕はちょっと気まずくなった。奥の方にいっておどおどしたかと思うと、こちらを見たり目をキョロキョロしたりしている。あれ、僕まずかったかなあ。

 しばらくして彼女はマスターに何か言うと、僕の方に寄ってきた。なんかこう、ペンギンみたいな歩き方だった。

「久しぶり」

 僕がそういうと、回りを気にしながら、外で話さないかと提案をしてきた。僕、そんなにまずかったのだろうか。


 外に出るなり、僕は喫茶店の裏のスペースに案内された。確かにここなら人目につかないだろうが、やっぱり僕はそれほど彼女にとってまずいことをしたのだろう。反省しよう。

「た、たかし、だよね」

「おう、たかしだぜ」

「ほんとうに?」

「なんだよ、まあ、髪のびてるから、疑うのも無理ないかも、しれないけれど」

 彼女との距離が近い。もう一度言う。彼女との距離が近い。なんだこの状況。なんで僕、こんな狭いところで彼女とくっつきそうなぐらいの位置でこそこそ話してるの。そんなに変わってないとか思ってたけど、なんだか目は大きくて顔はととのっているし、まあかわいい方だなっていうか、ちょっと待て、僕が知っているこいつはこんなに、その、かわいくなかった。いや、かわいかったけれど、かわいさの質が違った。ちょっと目にしてない間に、大人になったとか、そういうやつだろうか。やけに輝いて見える気がする。僕はおもわず、顔を背けた。

「か、かわりないか、その、その後は」

「え、えと、何が」

「いや、学校、とか」

「そうだけど......」

「わ、悪いな、なんだか迷惑かけちまったみたいで」

「え、あ、ぜ、全然、そんなことない、むしろ、ありがとう、ていうか......ちょっとびっくりした」

「そ、そうか、悪かったな」

「どうしたの、急に出てきたり、して」

「ま、まあ、久しぶりに顔でも見ようかな、なんて」

 彼女はちょっと顔が赤かった。たぶんそれは気温のせいで、けして僕がここにいるからとかじゃないんだろうけれど、そうであってほしいな、なんて僕も心の中にいた。やっぱり、かわいい。こいつは、かわいいのだ。

「学校は、今も頑張ってる。成績も変わらない」

「そうか、お前らしいや」

 こいつ、けっこう勉強できるんだよなあ。国語バカな俺と違って、彼女はオールラウンダーなのだ。

「バイト服、お前じゃブカブカすぎて、袖引きずってるかと思ったら、案外そうでもなくでがっかりしたわ」

「ば......ばか、あたしもちょっとは大きくなったんだ、あんたが見ない間に」

「それほどおおきくはったたたたたたたたたた」

 足を思いっきり踏まれた。良かった。いつもの彼女である。彼女ははっとなって、踏むのをやめた。

「ご、ごめん、つい」

「え、あ、おう、なんだ、元気だと思ったのに、そうでもないんだな」

「......元気、じゃない。元気じゃないけど、ちょっと元気になった」

 なんだそりゃ。

「かわらないな、たかし」

「まあ、どうこう変わる訳じゃないだろうし」

「ほんとにびっくりした。びっくり、びっくりだ、まったく......もう、もう、もう!」

 ぎゅううと、僕は抱きつかれていた。僕はただただビックリして、背筋に電気が走って、それから目がぐるぐる回って体が芯から火照った。

「お、おい、なんだよ、ちょっと、気持ち悪いな」

「気持ち悪いとか平気で言いやがったこいつ、たかしはほんとにばかなんだから、なんでこんな急に出てきたりしたんだ、まったくもう」

「ちょ、よじれる、よじれますって、内蔵が死ぬ、息が、おい、はなせって」

「やだ、絶対放さない、はなしてやるもんか、はなさんぞ」

 僕はどうやら本当にまずいことをしてしまったようで、彼女は僕の体にぎゅうぎゅう顔を押し付けて肩を震わせていた。ちょっと、彼女はオーバーリアクションである。僕は大分恥ずかしかった。恥ずかしいったらありゃしなかった。それから、僕ってけっこうこいつから好印象に見られていたんだな、と思った。ちょっとうれしい。よっしゃ。頭撫でちゃえ。えいえい。面白いなあ。わんわん泣き出した。どうやら頭がスイッチのようだ。僕は面白がって、頭を撫でまくった。面白かったけど、やっぱり僕の立ち位置を改めて実感して、ちょっと胸が熱くなった。でも、僕は泣かなかった。泣いたら、ちょっと情けないなと思ったのだ。

 そんな感じで、僕は彼女が泣き止むまで、頭を撫で撫でさせていただいた。


「たかしはずるい。頭はさわらせないつもりだったのに。はじめてを奪いやがった」

「まあ、調子に乗って撫でたのは悪かったが、その言い方だとちょっと語弊がある気がするんだが」

「うるさい。でもあたしもたかしの体を使ったから、それでチャラ」

「今のもちょっとおかしい気がする」

「うるさい。こんなに私を濡らしておいて、間違いを指摘できる立場じゃない」

「わかった、お前わざとだろ、そうだな」

 うふふと、そういうネタをさらりと言えるぐらいに復活した彼女は、僕のとなりで体育座りをしていた。

「良かった。もう会えないかと思ってた」

「大袈裟だなお前は」

「それ、やめろ」

「え?」

「お前って言うの、やめろ。名前で呼べ」

「な、なんでだよ」

「あたしが名前で読んでやってるのに、代名詞使いやがって、生意気なんだよ」

「生意気って、お前な」

「お前って言うな。あたしはユリだ。ユリと呼べ」

「ユ、ユリ」

「違う、ユリさまと呼べ」

「お前は僕をどうしたいんだ」

 ユリはすっくと立ち上がると、僕の方を睨み付けた。ちょっとアングル的に、スカートをはいているユリは僕にとって刺激が強かった。僕はちらりと一瞬覗いてしまったそれから離れるように、顔をそらした。

「みたろ」

「み、みてません」

「いいや、みたろ。今日はちょっと調子に乗って黒いのはいてきちゃったから、目についちゃったろ」

「いや、白だったぞ」

「てめえ、やっぱみただろ」

「はいみましたすみませんかんべんしてください」

 こほん、と彼女は咳をひとつすると、息をゆっくり吸った。

「こっちを向け。ぱんつのことは許してやる。あたしもちょっとぬかった。あたしがしたいのは、ぱんつのはなしじゃない。もっと崇高な話だ」

「わかった、聞いてやろう、」

「たかしとあたしは、ずっとこういう距離だった。友達より上だけど、そういう仲じゃない。親友とは違うし、親友だったら顔が赤くなったりしない。あたしも高校に入ってから、頭がいいなりにずっと考えていた」

 いい台詞なのに頭がいいなりにという文句が耳に入ってしまった。それはそれとして、顔が赤くなるというのが耳につく。やはり、彼女もそう思ってたんだろうか。

「結論から言う。あたしは、たかしが好きだ」

「......」

「だから言う。たかしがこんなことになってから、あたしは本当に辛かった。死のうかとも考えた。でも、今日たかしが来た。ビックリした。びっくりしたけど、やっぱりたかしだった。だから、今さらかもしれないけど、遅いかもしれないけど、受け取ってほしい」

「......」

「たかし、あたしと付き合え」

「......」

 言葉はでなかった。僕は、感極まってしまったのかもしれない。すっくと立つと、彼女の方を真剣に向いた。恥ずかしかった。

「わかった。僕も、ユリが好きだ。付き合ってやるったたたたたたたたたた」

 足を踏まれた。思いっきり踏まれた。それから、またぎゅうと抱きつかれた。

「あたしから言わせるなんて、たかしはずるい。あたしは、はいだけ言うつもりだった」

「よくできました。頭、撫でてやろうか」

「調子に乗るな。それよりも、こっちの方がいい」

 彼女は手を離すと、赤くなった顔をごしごしこすって、目を閉じた。それから、きっと僕をにらむと。


 次の瞬間には、唇と唇が、当たっていた。



 しばらくそうして、時間が過ぎた。数秒だったろうけど、数分にも、数時間にも感じられるような、そんな時間だった。彼女はゆっくり顔をはなすと、うふふと笑った。僕の唇には、たしかに、ユリのふわふわとした感触が残っていた。

「ありがとう。付き合うって、いってくれて」

「あ、ああ、いや、僕の方が、ありがたい」

 うふふと、彼女は笑った。

「これぐらいにしといてやろう。舌までいれたら、ドーテイには刺激が強すぎるからな。ぱんつで顔を赤くしてたたかしは何をしてくるかわかったものじゃない」

「お前な、せっかくいい感じの雰囲気をぶち壊すようなこと言うんじゃねえよ」

「うるさいドーテイ」

「やめろそれはほんとにやめろ」

 こんな145センチの可愛らしい女の子がそんなふしだらなこというんじゃありません。

「たかし、このあと、どうするんだ」

「このあとって」

「出てこれてるってことは、今は、ちょっと大変なんでしょ」

 たしかに、僕が出てこれる......こういう、人にみえるかたちで出てこれてしまうというのは、やっぱり良くないのかもしれない。まだ全員の人に見られてしまうほど状態は悪くないけど、ちょっと安定してないんだろうな。

「また、あんなことになったり、する?」

「わからない。この前はたしかに、僕がこうなるくらい、酷かった。僕もミスった。ユリにも、悪いことをしたし」

「それは、今のでチャラにしてやる。あたしだけじゃない。みんな悲しんでいた。だから、たかしはあとでちゃんとみんなに謝るべきだ」

「そうする」

「たかし、無茶をしても、私は許す。でも、今みたいになったら......今度こそ本当に死んだら、あたしは許さない。まだキスだけなのに、それであきらめたら、あたしはたかしをゆるさない」

「わかった。僕は死なない。お前のはじめてをもらうまで、僕はしななったたたたたたたたたたた」

 足の甲がつき抜けるかと思うくらい、強く踏まれた。

「へんたい。へんたいへんたい。調子に乗るな」

 たしかに、今のは言っておいて後悔した。僕はそんな、エロキャラじゃないのだ。

「あたしが力になれることは、なんでもする」

なんでも、してくれるのか。

「そこ、なんでもに反応してにやにやしだすんじゃない」

......ちぇ。

「だから、がんばってこい」

 ユリは、にっとわらうと、小指を出してきた。

「約束。ちゃんと帰ってきたら、あたしも、がんばってあげなくもない」

 ちょっと何を頑張ってくれるか期待して、僕は小指をぎゅっと結んだ。

「おう。いってくるぜ」


 僕は喫茶店をあとにすると、目的地に向かった。散歩どころじゃない。解決しにいかなきゃ。僕の魂を、命を返してもらいに。


 僕はこの町のヒーロー。最終回を越えて、みんなの平和は、僕が守る。

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