第2話
ふと目を開けると、視界が真っ白に染まっている。
ここは何処だろうか。
俺は帰り道で事故に遭ったはずだが。
トラックの大きさや速度から考えても、即死だと思われるし。
「ここは生と死の狭間、普通であれば留まる事の出来ない場所さ」
急に、聞いたことのない声が、俺の疑問の答えを教えてくれた。
俺は咄嗟に、声の聞こえてきた方を向こうとしたが、あることに気づいた。
体がないのだ。
これはどういう事だ?
いや、俺は死んでいるのなら、体がないのは当たり前ではないか。
さっきの声も、生と死の狭間と言っていたし。
「その通り。君は死んで、今は魂だけの存在になっている」
またさっきと同じ声が答えた。
俺は再度、声が聞こえてきた方を見れば、人形の何かが立っていた。
何故、人形の何かと言うかと言えば、かろうじて人の形をしている事は分かるのだか、それ以外がよく分からないのだ。
それにしても、この状況は何だ?
死んだことなど、もちろん無いので分からないが、普通でないことは明らかだろう。
人形も、普通では無いと言っていたし。
「理解力や分析力が高いのは良いことだけれど、それにしても君は落ち着いているね。普通なら、慌てふためいてもおかしくないのに」
そうだ、何故俺は死んだり、こんな状況になっているのに落ち着いているんだろうか。
「まぁ、僕から聞いておいてなんだけど、僕が話をしやすいように、落ち着かせているだけだけどね」
それなら聞くなと言おうとしたが、またひとつある事に気付いた。
俺はさっきから声を出していない。
というよりも、声を出すことが出来ない。
「当たり前じゃないか、君には口が無いんだから」
クスクスと笑う声が聞こえてくる。
確かに体が無いと言うことは、口も無いということだ。
しかし、それなら何故さっきから、会話が成立しているのだろうか。
考えていることでも読んでいるのか?
「大成功。僕は君の考えを読んでいる。それより、そろそろ本題に入ろうか天城空君」
どうやら、俺は大変な事になるようだ。
「まずは僕の自己紹介をしておこうか。僕は※※※※※。君のいた世界も合わせて、幾つかの世界の神を束ねる者だ」
名前の部分が何と言っているか分からないが、神を束ねる者というのは、どういう意味だ?
「いい着眼点だ。簡単に説明すると、まず、それぞれの世界を管理している神が複数いて、次に、その内の幾つかの世界の神達を僕が管理する。そして僕より上位の神が、僕や僕と同じ神達を管理する。まぁ、会社みたいな物と思ってくれればいい。それと、僕の名前が分からないのは、君と僕とでは存在としての差がありすぎるからだね」
確かに会社のようだ。
それにしても、どうしてそんな存在が俺と話しているのか。
何かあったとしても、俺の居た世界の神が出てくる位のものではないのか?
「まず、何故君がここで話しているかと言うと、君が普通の魂ではなくなり、元の世界に転生すると不都合が生じるからだ」
俺の魂が普通ではない?
それに不都合がある?
「そうなんだ。まず、君が普通の魂ではなくなった理由だが、君の世界の神の一人が君の魂を弄って遊んでいたからだ」
弄って遊んでいた?
「そう、違う言い方をすれば、運命の改変だね。君が事故で死んだ事も、その影響だ」
そんなことが許されるのか?
「許されないよ。だから、その神は僕が既に消滅させた」
そうなのか……それじゃあ、続きを頼む。
「うん、そして君の魂なんだけど、弄られた結果、元の世界には異質で大きすぎる魂になってしまったんだ」
それが、転生するのに不都合な事か。
「そう言う事。元の世界に転生すると、最悪の場合は世界中で天変地異が起こる。だから君には、元の世界とは別の世界に転生して貰うことになる」
俺の魂に合った世界ということか。
「やっぱり理解力が高いね。そして、そこで僕が君と話している理由になるんだけど、一つ目は、上位の神として下位の神が起こした事の説明。二つ目は、君が転生する世界が僕の管理する神の世界だから。三つ目は君への補填をする為だ」
一つ目と二つ目は分かったが、俺への補填?
「君がこれから転生する世界は、君が本で読んだ事のあるような剣と魔法の世界だ。今までとは、全く違う世界と言ってもいい。だから、君には何かしらの補填をする事になっている」
どんな補填何だ?
「それは、今から決めていくんだ。君の希望を含めてね」
「まずは君の希望を聞こうか」
俺の希望か…………これから行く世界には本が有るか?
「本は有るけれど、元の世界ほどは無いよ。本は貴重品で、買うにはそれなりのお金が必要かな」
そうか、なら元の世界の本を持って行ける様にしてくれないか。
「いいよ。君は本が好きな様だから、本を入れる書架に、君の世界の全ての本を入れて贈ろう」
人形から俺に向かって、光が飛んでくる。
光は俺に当たると吸収された。
「本が読めないと困るだろうから、どんな言語も読める様にしておいたから」
それはありがたいな。
本があっても、読めなければ意味が無いからな。
「他に何か希望が有るかい?」
これと言って思い浮かばないが…………。
そういえば、転生すると俺の記憶はどうなる?
それと、性別などは?
「記憶は、弄られた影響で消すことが出来ないから残る。性別については希望がなければそのままだよ」
そうか。
性別はそのままで頼む。
後は健康な体が貰えれば、俺としては十分だ。
「そうかい?君は余り欲が無いね。それだけだと足りないから、残りは僕が決めるけどいいかい?」
ああ、頼んだ。
「これで、準備は出来た。最後に天城空君、君には申し訳ない事をしたね。次の世界で君が幸せになることを祈っているよ」
これで終わりか。
そういえば、神を相手に随分と失礼な話し方をしていたな。
最後くらい、敬語を使っておこう。
ありがとうございます。
「そんなこと気にしなくても良いのに。それじゃあ、お別れだ天城空君」
次の瞬間、俺は光に包まれて、再び意識を失った。