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本の魔術師  作者: 桐生紅牙
プロローグ
1/6

第1話

 俺は本を読むことが好きだ。

 幼い頃に両親が事故死し、親戚中をたらい回しにされていた俺には、本を読むことが一番の楽しみだった。

 友達も普通に出来てはいたが、転校を繰り返す俺には、長く付き合う友達などいない。

 親戚達は両親が残した財産が目当てで、俺になど興味はなく、財産を奪い取ってからは、多少の罪悪感からか俺の面倒は見るが、厄介者として俺の事を扱う。

 成長するに従い、俺は人が嫌いになっていった。


 俺が本を好きになったのは、人が嫌いな事も一つの理由だが、それは小さな理由だ。

 他にも小さな理由は色々とはあるが、本が好きな一番の理由は、純粋に知らない事を知る事が楽しいからだ。

 俺は時間があれば、種類やジャンルに関係なく、様々な本を読み漁った。

 本を読んでいる時間は、今の俺にとって、何よりも幸福な時間になっている。


 しかし、そんな俺の幸福な時間を邪魔する奴が最近現れた。

 天野楓あまのかえで

 クラスメイトの一人なのだが、最近やたらと話しかけて来るようになった。

 しかも厄介な事に、天野は世間で言うところの美少女であり、そんな美少女が熱心に俺に話しかけるものだから、周囲は面白くない。

 特に、普段から一緒にいる四人は俺の事を良く思っていない思う。

 久遠光くどうひかる近藤武こんどうたける藤野詩織ふじのしおり川原千佳かわはらちかの四人だ。

 近藤と藤野は特に何も言ってこないが、態度からうかがえるし、久遠と川原はなにかと俺に文句を言ってくる。

 天野も合わせて五人とも迷惑で、俺に関わって欲しくないのだが、天野に邪魔だと言っても、しつこく話しかけて来るので、改善されていない。


「天城君、ちょっと待って!」


 また来た。

 今は学校が終わり、帰り道の途中なのだが、後ろから天野の声が聞こえてくる。

 無視したいが、久遠達が一緒にいれば、後で余計に面倒な事に成りそうなので後ろを見れば、天野が俺の方に走って来る。

 天野の後ろには、久遠達の姿があるので、俺の判断は正しかったようだ。

 俺は交差点を渡った所で立ち止まり、天野を待つことにした。

 俺と天野の間には交差点があり、現在は赤信号で天野は止まっている。

 信号が青に代わり、天野がこちらに渡って来ようとする。

 俺はこの後の面倒事を考えて頭を振ったとき、視界の隅にトラックが映った。

 何となくそのままトラックに視線を向ける。

 そろそろ減速しなければ、交差点に突っ込んでしまうのに、減速する気配がない。

 信号無視か。

 俺はそう思って視線を元に戻したとき、愕然とした。


 天野がそのまま、交差点を渡ろうとしているのだ。


 このままでは、天野にトラックが衝突するだろう。

 俺は声を上げる。


「天野、左からトラックが突っ込んで来るぞ!」


「えっ」


 天野は俺の声を聞いて、左を向いたが動こうとしない。

 いや、驚いて動けないだけだ。

 それを確認した俺は、いつの間にか天野に向かって走り出していた。

 普段の俺からは考えられないが、両親の事があったからかもしれない。

 周囲の景色が遅くなっている。

 俺の手が天野に届く頃には、トラックが直ぐそこまで来ていた。

 俺は走ってきた勢いをそのままに、天野を突き飛ばす。

 天野は驚いた様子で俺の事を見ている。

 少し離れた場所から、久遠や近藤の叫び声、藤野と川原の悲鳴が聞こえてくる。


「天城君」


 天野のが俺の名前を呼んだのを聞いた所で、凄まじい衝撃と共に俺の意識はなくなった。


 天城空あまぎそら

 享年18才、交通事故により死亡


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