のけもの山田、崖の上のナウ
α3からα1へ定時連絡。
本日の1930時に街中で途方にくれる少女を保護。
酷く消沈した様子で、その場で蹲り啜り泣いていた事から周りに人だかりが出来始めていて通行に支障も発生。
警戒密度に達した為、その少女を保護することで事態の収拾を図ります。
本日1950時。
ひとまずその危なげな格好から着替えて貰うべく私のコートを貸し出し、
少女を宥めてすぐ近くのホテルの部屋を聞き出した後、事後の格好をどうにかする。
未だ魂が抜けたかのように呆然と動く素振りを見せないことから仕方がなく着替えを手伝うことに。
と言うより私が着替えさせられました。
その最中、重大な問題が発生。
その少女はなんと、少女の姿をした少年だったのです。
お鼻が長い生き物の元気のない姿をまんまと見せつけられました。
本日は厄日であります・・・
そしてその後すぐの、2000時
突然ケタケタと笑い出した少女、
いえ、少年は「マジもう無理・・・リスカしよ・・・」などと呟いて徐に洗面台へと足を運び、剃刀で手首を斬りつけようとしました。
思わず止めに入りましたが、そのまま私に縋り付いて
泣きわめき出したので、オフなのに面倒をこさえたことと、思わず野生動物の姿を目撃してしまった鬱憤からそのまま飲み屋に入った私は悪くないと思います。
2030時
飲み屋に入って適当な物を注文し、少年に一杯奢ったところ、あっという間に酔いが回ったのか
それまでの状態が嘘だったかのようにとても快活に舌を回して、聞いてもいない身の上話などを始めてしまいました。
休日手当出ないですかね?
2100時
こうなったらしこたま飲ませて黙らせようと思いましたが、ボルテージは上がっていく一方。
完全に失敗しましたね。
全く持って厄日です・・・
散々飲ませて宥めたあと、ようやくもって聞きたくもない、素敵なホモセクシャルの世界か幕を下ろしてくれました。
BLは創作の中だけなら面白いですけど、現実の話はちょっと・・・
適当に話をそらして、アブない世界からの脱却を図ります。
何故か仕事の話を振ってしまいました。
今日は少ない休日だったのに、楽しいショッピングが待っていたのに・・・
そんな鬱憤からか、つい思わず「仕事で仕方なく保護してやったんだぜ、勘違いすんなよベイビー」てきなニュアンスが籠ってしまいました。
あんな街中で啜り泣いて、アブないお兄ちゃんに襲われたらどうすんのさ、
とか
結局、そんな偶発的な人だかりが出来てしまうと、最近流行りの自爆テロにはなかなか対応出来ないであろうことを改めて感じたことなどを。
取り敢えずいい塩梅なので、ここいらでお開きにさせてもらって、少年と別れます。
そういえば、何時までも少年では格好が付かないので、一応名前を聞いておこうかしら?
何せ私の週に一度の憩いの時間を奪った仇の名前ですもの。
ついでに仕事の絡みでステータスごと開示プリーズ。
あれ?お腹が痛い??
なんで急に目を回してあたふたしているの?
コイツァ、怪しいですぜ・・・
後に私は、気がつかないフリをしておけばこんな面倒なことにはならなかったのだと、とても後悔することになります。
「ほら、何を隠しているの?ちゃっちゃと吐きなさい。」
やっぱりこうなりますよね〜。
あれから僕は、あの拙い状況を打開すべく、とっさに嘘をつく。
「う、お腹が・・・」
「それはまた、突然ね。」
自慢にならないが、僕は咄嗟に上手い嘘を吐けるほど頭の回転が良い人間ではないのだ。
「まさか、アニキとの子・・・」
「ふーん・・・」
おうふ、この居た堪れない空気で本当にお腹壊しそう・・・。
「まぁ、トイレに行って来なさいな、待っててあげるから。」
間違いなく怪しまれている・・・気がする。
だかお手洗いまで付いてくることはないだろう。
打開策は・・・もういいか、
窓から逃げちゃえ☆彡
そうしてお腹を抱えてトイレに向かうという、分かりやすい芝居を挟みつつ、目的地到着。
「ああ、もう・・・鍵かけすぎなんだよ!」
ホラー映画でパニックに陥った人間のような素振りで落ち着きなくトイレの窓をこじ開ける。
ふっ、これで僕の勝ちだ!
「はぁい、どーも!」
窓の外には先程まで店内でお話ししていたギルドの人。
ちょっと早すぎませんかね?
「ああ、空気が上手い。」
「とうっ!」
「ぶへっ?!」
そしてあっち側から僕を飛び蹴りで突き飛ばしながらダイナミックに入場。
案の定、逃走は失敗に終わるのであった。
「ほら、何を隠しているの?ちゃっちゃと吐きなさい。」
「えーと、隠し財産てきな?」
「もういいわ、ギルドで身柄確保。」
うわーん、アニキ!
捕まっちゃったよう、助けて〜!!
だがもう、アニキは僕の側に居ないのだ。
今日はとてもツイてない一日だったなぁ・・・
彼女はいずこかに連絡を飛ばし、僕はどこからか現れた馬車の荷台の籠に入れられる。
ドナドナと、荷馬車が揺れる。
これから僕は、一体どうなってしまうのだろうか?
「ほら、カツ丼食うか?」
「いらない・・・」
「でぇ〜、おめえさんは、一体どうしてあんな事をしたんだ?」
現在、僕はギルドの取り調べ室のようなところで二人の刑事(?)によって取り調べを受けている。
「そうか、カツ丼は好きじゃないのか・・・」
「・・・」
「報告書には最近話題のテロに関する雑談のあと、ステータスの開示を迫ったら途端に態度を変えたとある。
一体何を知っている?」
「じゃあ牛丼はどうだ?
ここの牛丼は一味違うんだよ。」
「・・・」
「だんまりか・・・だが時間はたっぷりあるんだ、たとえおめえさんの命が尽きるまででもなぁ
調書で一生を終えたくねぇなら、さっさと話した方が身のためだぜ?」
「僕は親子丼が好きでね、特に瓦屋の親子丼には目がないんだよ。」
「・・・」
「・・・いい加減なにか喋りやがれってんだ!!」
ー ドンッ!!
っと机を叩いて丼の器がガシャンと音をたてる。
「まあまあ、そんなに怖い顔しないでも」
「けっ、俺はこいつほど甘くはねえからな!」
取り調べはテンプレのように良い刑事と悪い刑事がいて、良い刑事は頻りに丼物を勧めてくる。
悪い刑事は高圧的に、まるでお前が犯人であるかのように、時には暴力的に振舞ってくる。
これから毎日、彼らの顔を交互に拝み倒して、僕はいわれのない罪を自白してしまうのだろうか?
「さて、まず君があの店で行った無銭飲食の詳細についてだが・・・」
「払う金もねえのに、馬鹿みてねな注文出して、とんでもねぇ詐欺師だな、お前は。」
あるぇ〜、あれ奢りだと思ってたのに、罪状増やされてる?
「あれは奢りと言われたのでそんな話は聞けません。」
「うるせえ、ギルドが黒だといえば白鳥もカラスになっちまうんだよ。」
ひでぇや。
「こらこら、流石にそこまですると僕らが悪者になってしまうよ。」
良い刑事はやれやれといった感じでいう。
「だがなぁ」
悪い刑事はまだまだだと言いたげだ。
「そんな些細なことは置いておいて、話してくれる気にはなってくれたかな?」
「まあ・・・」
「なんだ、そんなにあっさり口を割るのか、張り合いのない。」
この悪い人はサドかな?
「まあそんなに大した話はではないですからね。」
そうして僕はさっとステータスを開示して、その爆弾を投下する。
・・・すると。
「まさかこれほどとは」
「おい、ヤベェんじゃねえか?」
びっくりした
驚愕した。
誰が一番驚いたかって?
もちろん僕だ。
『自爆魔法』
・・・・・使用者のHPが0になった時、
周囲555mの範囲を無に帰す。
一部大型モンスターには
深刻なダメージを与える。
このスキルで与えた攻撃では
経験値が取得されない。
あれっ、ちょっと範囲広がってない?