山田なりの恩返し
「アニキッ!」
「離せよ、お前とは・・・もう終わりなんだよ・・・」
ー ナニ〜?ケンカ??
ー カワイソ〜
あれから暫く後で分かったことだか、最初のステータスの割り振り数値・・・
最初の分配の割合によってその後の各ステータスの上昇がされるようだった。
つまり最初にチュートリアルで推奨されていた値をあえて弄ってしまうと
初心者にはどうしようもない結末が待っているということが、どうしようもない段階で判明してしまったのだ。
そんなことがあってもアニキは役立たずの僕を見捨てなかった。
むしろそれまでよりも親身になって、僕と冒険をしてくれた。
途方に暮れていた僕を救ってくれたアニキ・・・
命の危険に襲われた時に颯爽と救い出してくれた逞しいアニキの姿。
そんなアニキに惹かれて僕は・・・
「・・・本当にいいのか?」
「うん、いいよ僕、アキニトナラ・・・」
「ああ、可愛いぜ、山田・・・」
父さん、母さん。
今夜僕は・・・大人の階段を登るよ。
「ハァハァ・・・ようやくお前が俺のものになr・・・」
そこで固まってしまうアニキ。
ここまでされて焦らされるなんて恥ずかしいよ・・・
「ねえ、アニキちょっと恥ずかs「イ゛ェア゛ア゛アァァアァァァァァァァァァアアアアアア゛?!」・・・んだけど」
アニキは僕のセクシーな部分を見て固まってしまっている。
羞恥プレイなのだろうか?
ドキドキするよぉ・・・
「おまおまおまおまおまおま」
「ちょっとどうしたんだよ、アニキ」
これ以上焦らされると僕、もう・・・
「お前・・・男の娘だったのか?」
・・・何を言っているのだろうこの人は?
「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ、僕アニキとなら・・・」
「いや大丈夫じゃねえだろ?!」
「僕、分かったんだ・・・愛さえあればたとえ性別なんて関係ないことなんだって!」
「あるわッ!
少なくとも俺には全然問題あるわッ!」
すると、僕はベットに突き飛ばされた時よりも遙かに乱暴な手つきでベットから突き落とされる?
・・・アニキ?
アニキはベットに腰掛けたまま、顔に手を当てて塞ぎ込んでしまう。
「ねえ、どうしたんだよ、アニ」
「触るんじゃねえ」
聞いたこともない冷たい声に僕は堪らず後ずさる。
「・・・お前、ずっと俺を騙していたんだな。」
え?
「畜生、始めての恋だったのに・・・
俺の純情を弄びやがって!」
聞いたこともない・・・冷たい声が・・・
コレは・・・僕に向けられているのか?
その冷たい瞳は・・・僕に向けられているのか?
「もう、終わりだよ。
俺とお前はな・・・
じゃあな。」
え?
なんで着替える?
なぜ僕を置いて部屋を出て行こうとするの?
今までずっと一緒だったのに、嘘だよね?
ベットのシーツで一先ず体を覆い隠してアニキを追いかける。
「アニキッ!」
「離せよ、お前とは・・・もう終わりなんだよ・・・」
僕には目もくれずそう背中を向けられ、僕は前に進むことも声を投げかけることもできなかった。
こうして僕たちの1年近く続いた交際は唐突に幕を下ろしたのであった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁんー!
アニキー!!」
「あー、はいはい。
それはまぁ・・・大変だったわね。」
あれから僕は、まるで世界の終わりだという表情で、街中でシーツ一枚で佇んでいるところを、見るに見かねた通行人Aさんに拾われて、
宿でまともな格好に着替えさせてもらい
どこかのバーで酒を飲ませてくれている。
感謝すべきことなんだろうけど、そんな素直な気持ちになれるはずもく、かわりに
「アニキとの関係を、大変だったの一言で片付けられるなんて・・・なんて薄情な人なんだ。」
「知らないわよそんなこと。
というより貴方、そんなナリして男だったなんて。
なんてモノ見せてくれたのよ!
あんなモノ見せられた責任はどー取ってくれるのよ、えぇ?」
あんなものとは酷い言われようだ。
でも肝心なところで役に立たなかったのだからその通りなのかもしれない・・・
ああ、助けてくれた人にこんな冷たい言葉を吐いてしまうなんて・・・
僕はなんてひどいやつなんだろう。
だけどそんな気分なんだ、どうしようもない。
責任だかなんだか知らないけど、僕はもうダメなんだよ・・・
「はぁ・・・」
「まぁ、貴方がその・・・アニキさん?とは
ふかーい関係であることは分かったんだけど、貴方はアレなの?
『ホ』で始まって『モ』で終わる感じのヒトなの?
それともその少女趣味な格好はオネエか何かなの?
同性愛には私は理解ある方だけど実際的には、ねぇ」
「失礼な、僕は純粋にアニキが好きになってしまっただけであって、
男気溢れるアニキはたまたま男だっただけじゃないか?
人を好きになるのに理由が必要ないように好きになった人物が男だったことになにが理由が必要なのか?
そこに何か問題があるのか?
それに、この服はアニキが似合うって言ってくれて買ってくれた服だぞ、バカにするな。」
「いや、それは別に個人の自由だとは思うわよ?
その服装も似合ってるし、本当に女の子だったら問題はなかったわね。
けどね、そのアニキさんはそうとは限らないんじゃないの?
というか話聞く限り実際それで逃げられたようなものなんじゃ?」
なん・・・だと・・・?
「まぁ私はその手の事に多少は理解はあるつもりだけど、じゃあ実際に同性愛して下さいと言われても、
それこそ貴方の言うように好きになったのが同性だったって訳でもないのにやってくださいで済ませられる問題じゃないでしょう?」
「僕とアニキは愛し合っていた。
それがたまたま男であっただけじゃないか?
愛さえあれば関係ないじゃないか?
男同士でもいいじゃないか!」
「貴方はそうでもアニキさんはそうじゃなかったからこうなったんじゃないの?」
「チクショー!
何故なんだ?!アニキーッ!!」
嗚呼、アニキ
カッコいいアニキ
逞しい上腕二頭筋
美しく割れたシックスパック
硬いアニキの筋肉
それを輝かす大粒の汗
あの頼れるアニキの姿を思い浮かべると今でも胸が締め付けられるように苦しいんだ。
でも何故だろう?
何かとんでもない勘違いを僕はしているんじゃないかという気がするのは?
ああ、アニキ
僕のアニキ、うぅ。
「まぁ貴方の趣味趣向には口を出さないけど自殺するとか面倒ごとだけは起こさないでよね。
最近ただでさえその手の面倒ごとが多いんだから。」
「自殺なんかするもんか
いつか絶対アニキを振り向かせらせるようになってやる!
ところでその面倒事って一体なに?」
「あら?知らない?」
「知らない」
「ふーん・・・」
すると、何やらこちらを値踏みするような視線を向ける女性
あ、やんのか、コラ?
「まぁ大した話じゃないんだけどね、最近噂になってるじゃない?自爆テロ」
「え、何すかそれ、食べ物の名前すか?」
「おいこら、さすがにそのとぼけ方はねーだろ。」
「冗談ですよ。
あれですよね、街で人の集まっている場所で
爆弾?が複数箇所、同時多発的に爆発する事件が最近度々発生してるとかなんとか。
・・・アニキがあの時、『俺がぜってーまもってやる』って言ってたのにぃぃぃ!」
「あのー、その話はまた別の機会にしてもらっても構わない?」
「あ、すいません」
最初こそ落ち着いていたものの、最近は現実に帰りたいホームシックな奴らが増え始めて、そいつらの暴動的なアレでちょっとした治安問題にまで発展している。
むしろゲームの世界に馴染んで生活できる人間が殆どだと思ったのにね。
なんでも僕のようにステ振りを間違えたどうしようもない人間をはじめ、思ってたようにゲームでうまくいかなかった人間達が駄々をコネて暴れ回っているとかなんとか。
僕はアニキのおかげで随分と充実した生活が出来ていたので今日まで一切不満を感じていなかったのだが・・・
アニキ・・・どうして。
「私たちが作って来た街で馴染めなかった奴らが好き勝手に暴れまくって、挙句の果てには無関係の人たちまで巻き込んでこの世界から消えていくのよ。
ある道具を使ってね。」
ある道具?
すると彼女はコートのポケットから小さな何かを取り出し、カウンターのテーブルに置く。
「この指輪は最近影でコソコソ物を売り捌いているバイヤー達が取引している『滅びのお守り』って言うアイテムよ。
効果は『身代わりの護符』とは正反対
HPが0になったら死亡を防いでくれる『身代わり』の逆で、周りにいるものを『道連れ』にする碌でもない代物。
敵も仲間もこの世界からまとめて消し去る負の保険。
事故にしろ事件にしろ問題か絶えなかったからすぐさま『ギルド』で回収、製造を禁止した代物よ。」
テーブルに置かれたソレは禍々しい感じのする黒っぽいお札で、なんとなくアイテムの解析をしてウインドウから説明を見る。
するとそこに書かれていたものは・・・
『滅びのお守り』
このお守りの装備者のHPが0になった時、効果発動
周囲50mの範囲を無に帰す。
一部大型モンスターには
深刻なダメージを与える。
このスキルで与えた攻撃では
経験値が取得されない。
効果発動後、このお守りは破壊される。
あれっ、どっかで見たような・・・
「私たちギルドはこのお守りが市場に流通していないかを監視、同時に作成できる能力を持つ人間に警告、そして・・・このアイテムの能力をスキルで所持している人間を捜索しているの。」
え?
「見つけ次第捕縛、じゃなかった
能力の開示を要求して、場合によっては対象の保護を行うつもりよ。」
「あの、いま捕ばk」
「保護よ」
「・・・」
「と、言うわけなので、貴方も何か情報を掴んだら是非ともギルド職員である私、ミリーに連絡ちょうだいね!」
やだ、この人なんか怖い・・・
「ちなみに貴方のステータス内容ってどんな感じのなの?
ああ、任意だけどこのご時世だし、ギルド命令だから諦めてね。
なんなら此処のお勘定、お願いしてもいいのよ?」
ギルド
それはこのデスゲームになった世界でいち早く発足された統治機構。
いわば現実で言うところの警察のような役割を持っており、従わない場合はブラックリスト入りしてギルドが管理しているゲームの様々なシステムやギルドに加入しているプレイヤーのコミュニティーが使えなくなり、有り体に言うとこのゲームが詰みゲーに、
ゲーム内生活もとい社会生活がほぼ不可能状態まで追い詰められてしまうのだ。
つまり此処でギルドに目をつけられると厄介な事に・・・
おとなしく開示しとかないと後から秘密裏に監視の目がつきまとったり、加入サービスで地味に足止めされ、職質されたり・・・
タチが悪い奴らなのだ。
だったら開示すれば良いのだ。
従順な奴には彼らは何もしてこない。
何不自由なく普通に生活できるだろう。
だが、僕がスキルを公開するという事は・・・
なんとなく、嫌な予感がしてきた。
『滅びのお守り』
周囲50mの範囲を無に・・・
・・・のHPが0になった時、効果発動
そういえば・・・
すっかり忘れてたけど僕のステータス欄の下の方には・・・
『自爆魔法』
使用者が任意で発動、
ないし死亡した際に発動する攻撃魔法。
※この魔法を発動すると使用者は死亡する。
このスキルは発動時、使用者のHPを0にする。
使用者のHPが0になった時、
周囲50mの範囲を無に帰す。
一部大型モンスターには
深刻なダメージを与える。
このスキルで与えた攻撃では
経験値が取得されない。
爆弾が眠っていたのだった。