山田祭り
「おおっと、良いのかね?
僕に危害を加えると言うことはこの町に住む、僕とは何の関係もない善良な市民達が死んでしまうことになるんだぞ?」
「っく、なんと卑劣な!!」
ヴァーチャルリアリティーがごく当たり前に普及し、その技術が使われたゲームが数多く市場を賑わす遠い未来に、
デスゲームに巻き込まれた山田くんは自分の命を、それに付随するスキルを武器にその殺伐とした世界を生き抜くためあがいておったそうな。
「分かったら次から僕の食べるサラダからはトマトを抜いておくことだ。」
「くぅ〜〜、次こそは絶対に食べさせてやるんだから!」
そう言って山田の前から姿を消す謎の女。
彼女は一体何者なのか?
そもそもこの状態は一体何なのか?
なぜ山田くんは何処かの民家のダイニングキッチンで食事を振舞われているのか?
デスゲームはどしたのか?
嗚呼、そんな事も有りましたなぁ。
とあるVRゲームが、ある日突然デスゲームになってしまった。
最初は半信半疑であったが、実際にゲームで死んだ人間は少なくともこの世界では二度と帰らぬ人となった事は案外早いうちに分かった。
ましてや戦いで傷つくという行為は心にも体にも痛みを伴った。
そんな世界に人々はゲームの死を軽視する事が出来ずに、それぞれが生き残りをかけて、あるいは無事に帰還する手がかりを求めて、
この世界での一歩を踏み出していくのであった。
一方、僕はと言うと・・・
『自爆魔法』
使用者が任意で発動、
ないし死亡した際に発動する攻撃魔法。
※この魔法を発動すると使用者は死亡する。
このスキルは発動時、使用者のHPを0にする。
使用者のHPが0になった時、
周囲50mの範囲を無に帰す。
一部大型モンスターには
深刻なダメージを与える。
このスキルで与えた攻撃では
経験値が取得されない。
Lv :---
攻撃力 :---
冷却時間:24h
「どうしよう、こんなスキルで・・・」
夏休み、嬉々としてプレイを開始したゲームはデスゲームになってしまった。
それは良い。
いやいや、本当は全然良くないんだろうけど、VRでデスゲームはもはやお約束ですからね・・・。
気持ちの上では
「ついに来てしまったか、俺の時代が」
的な軽いノリでおりますが、ハイ。
まあ予てよりの散々懸念されてきた問題なのでVRなどやる人間は重々その事も認識している筈。
リスクを冒してこその冒険である。
なのでデスゲーム、バッチコイではないが、日頃の妄想が現実になっただけなのでいたって冷静なのである。
気持ちの上ではまずまず。
ゲーム開始初日と言うのも下手な格差が付いていないのは幸い。
恨めしい不幸と言えばサービス開始の特典スキルが使いようがないゴミスキルに変貌を遂げた事とか・・・。
不味い。
僕にとっては非常に宜しくない事なのだ。
先ずこのキャラクター自体リセット前提の捨てキャラである。
いやさ、初回特典自体はプロダクナンバーさえあれば
キャラ作成時に何度でも配布してくれるらしいので、
暫くゲームのようすを見て情報が出揃ってから特典の厳選をしようかなと。
所謂リセットマラソンですよ、奥さん。
初回特典なぞゲームを進めたら普通に取れるスキルを開始時点で持っていて少しスタートダッシュが速くなる程度のものが殆どだが中にはアイテムで代用出来る程度のスキルが、
最も此方は初回特典以外ではスキルとして取得されないものもあるため
レアリティも高く、ユニークスキルとも言われているようだ。
アイテムで代用出来る程度でもコレクターとしては是非とも取ってしまいたいものでしてね。
わざわざそのアイテムを消費しなくても自分は同じ事が出来る優越感。
そのために初日のチュートリアルの苦行を繰り返す愚行を行うと言うのだ。
笑うが良い。
その時間をキャラクターを育てるのに使ったほうが有意義の筈なのに些細な事にこだわるから彼女も出来んのだ。
いや、彼女出来ないのは関係ないだろう・・・
まあとにかく、廃スペック厨の廃人志向である僕は暫くはスキルの検証の為冒険はお休みして、ゲームの仕様解明の為、つまらん算数のお勉強、
つまるところステ振りやらスキルポイントでのダメージ計算式やらテーブルなどの確認のためステ振りを極端にしているのである。
つまり何が言いたいのかと言うと・・・
「攻撃当たらなさすぎオワタ・・・」
この世界はゲームである。
プレイヤーのステータスの数値は自らの行動に密接に関連している。
「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」
スカ
「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」
スカ
「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」
スカ
「目標をセンターに入れ・・・うわああああああああ!!」
スカ
別に僕は元の世界では百発百中の射出だったわけでも、確実にストライクをもぎ取る期待のエースだったわけでもない。
だがしかし、わずか数十センチ離れたゴミ箱にゴミを投げ入れられないほど耄碌していたわけでもない。
ましてやそれがまっすぐものを投げたつもりが真後ろに飛んで行きました
などという器用な真似は狙ってなくても出来ない!
「ふええ、攻撃が当たらないよぉ・・・」
基本的にこのゲームのステ振りは
メインとサブの二つを振り分けておけば良いらしい。
僕の魔法使いは魔法攻撃力に関係するINTを
魔法の精度や制御に関するDEXを
僕は魔法攻撃力にステ振りした。
だがその他一切には入れてません(半ギレ)
その結果がこのザマなんDA☆
HAHAHA-!
ゲームによっては極振り推奨ですがこのゲームではオススメしません。
よかったら参考にしてね☆彡
「こうなったらアレしかない!」
魔法使いは紙装甲。
後方支援が仕事。
そんな魔法使いが戦線に立ち、戦う。
高火力を武器にして・・・
リスキーだが、それがロマンである。
ましてやここはデスゲーム。
紙装甲で前線に立つことは死にに行くようなものだ。
だが俺はこのゲーム初めてのバトルメイジとして金字塔を打ち建てる!!
喰らえや、藁人形
見せてやるよ、俺の100パーセントォォォォォ!
ーペシッ
ひゅう〜〜〜(風の音)
おめでとうございまーす!
役立たず確定でぇ〜す!!
はい死んだ。
僕はこれにて終了。
初期魔法、ファイアーボールの適正距離、30m
それ以上でも以下でも距離減衰発生。
中でもごく至近距離では魔法が四散して威力皆無。
命中率補正はステータス依存。
どれだけ狙いを絞ろうが適当に花火を打ち上げようが明後日の方向目指して飛んできます。
以上、検証の結果でした。
次の検証のためには新しいスキルがステータスで挑みましょう。
このほかの攻撃スキル、未所持
新しいステータス、わしに死ねというのじゃな?
なので僕はこれにて終了です。
何せ練習用の的ですら倒せないからね。
レベル上げなんて出来るわけがない。
周りを見てごらん。
それは剣で
あるいは弓矢で
はたまた僕と同じ魔法で
いとも簡単に僕の宿敵はなぎ倒されていくのさ。
本当に、どうしようもない。
「おいおい、あんた。
さっきから出鱈目な方向に火の玉飛ばしてるが
当たらないなら他所でやってくれないか?
気が散って仕方がないよ。」
「あ、すいません。
あと、こんな不躾なお願いで悪いのですが僕のレベル上げを手伝ってもらえないでしょうか?
命中率補正付けてなくて・・・」
マッチョな人に怒られた。
なんか強そうだし兄貴っぽいこの人ならあるいは・・・
「そいつは酔狂なことで。
それで、アンタは見返りに何を用意してくれるんだい?
まさかタダなんてケチくさいことはいわないよな?」
「もちろん、僕のステ振りさえちゃんと割り振れればその後は僕が貴方のサポートをしてコツコツかえしていきますから。」
そう言うとアニキは暫く難しそうな顔で考え込んだのち・・・
「仕方ねえ、手伝ってやるよ。
だがしがし、ちゃんと後からきっちりと働いた分はかえしてもらうぜ。」
そうして僕のレベリングのため、地獄のような日々が始まった。
僕は自分を囮にしてモンスターを引きつけた。
その隙にアニキが切る。
なんだかんだで一番これが効率が良く、安全だった。
ある時、僕の身に危険が迫ると・・・
「大丈夫だ、俺がシッカリ守ってやんよ!」
アニキの逞しさに思わず胸がときめいた。
そしてついに・・・
「やったぁぁぁぁあ!
ついにレベルがあがったぁぁぁあ!!」
「おめでとう、これでお前も一人前に戦えるようになるな。」
「ありがとうアニキ!」
「よせっ、照れるじゃねえか」
つい興奮のあまり僕とアニキは熱い抱擁を交わした。
俺のために的をボコにして、トドメを残しておいてくれたアニキ。
なんだかんだでここまで付き合ってくれたアニキに無限の感謝を!
おかげでアニキよりもレベルが早く上がったが、次は俺がアニキを支える番だ。
そうして僕はステ振りをすべく、ステータス画面を開くと・・・
「イ゛ェアアアアアアアアアアアア?!」
なぜかIntに全振りしてある僕のステータス画面が出てきたのであった。