知らないおっさん(血涙)
その日、僕はとてもセクシーな夢を見ていた。
林檎に硬くて丈夫そうな黒光りする大刀を突き立てたところで目が覚めた。
おかげさまでヨーグルトを危うく下着にぶちまけるところだった。
そんな朝の出来事だった。
何処かもんもんとしたものを抱えた目覚めだった。
その両手に抱き込んでいたものはよく見たら知らないおっさんだった。
大刀は瞬く間になまくらになった。
そうしてたまらず飛び退いて地面を這いつくばって気がついた。
そこはとても硬い地面の上だった。
正確に言うなら紅色のレンガが敷き詰められた広々とした何処か。
そして周りには同じように上半身を起こして起床直後のような人々多数。
断じて発泡麦茶パーチーで酔っ払って揃って仲良くお外で潰れていたわけではない。
そもそも酒を公然と嗜める年齢ではないのだ。
てないと今頃青色の制服を纏った怖いお兄さん達に?
「君、こんな所で何しているの?
何歳?
お酒臭いしちょっと署まで一緒に来てもらえるかな?」
などと脅されアーンなことや
そ、そんなッ!恥ずかしい事を
させられた挙句に保護者や教師の永遠とも呼べる言葉攻めを頂戴するに違いない!!
まあそもそも酒なんぞ飲んどらんのでそんな事態にはなりはせんのだがしかし・・・
青い空
輝く太陽の下
みんなのポカーンな顔が並んでる
ひびーきわたーる怒声
お祭り騒ぎの始まりだ!
そんな最中に突如降り注ぐ大きな声
「世界をみんな大好きなデスゲームに変えちゃったから頑張って生き残ってね☆彡」
えっ、ナニソレドウイウコト??
それを聞いたガタイの良いお兄さんは
「ゔぉぉぉい!どないなってんのや!!ワレ、責任者出せや」
それを聞いたお隣の誰かさんは・・・
「フヒヒ・・・これはもしかしてデスゲームに
チート能力で
ハーレム?
無双??
フヒ、ふひはひひはひはひえっびひひひひぃー」
ふええ、何この人怖いよぉ
四方からはたくさんの人の喧騒が
後方から女性のいやーんな悲鳴が
それを聞いた僕の分身は・・・
思わず後ろを振り返った。
するとそこでは先ほどのおっさんが甲高い声でいやーんと叫んだ
それを聞いて僕の半身はピクリともしなくなった。
周りは大盛り上がりで暴動が発生中。
てんやわんやで何やかんやありまして悶着、膠着、のち各々が落ち着きを取り戻すことに帰着。
ひとまず僕もその落ち着きのない殺伐とした空間から一刻も離れることにしたのがついさっきまでのこと。
現在僕は何処かしれぬ街並みに紛れるように、家々の間でコソコソしている。
「ふう・・・」
別に怪しいことをしているわけではない。
ただしばらく群衆に混ざって派手に走り回ってしまうこととなったので
先ほどようやく抜け出してこれたのだ。
進むも止まるもおしくらまんじゅうの混乱の中でようやく息がつけるようになった瞬間が今です。
そうした暴動の最中、聞きかじった情報によるとこの世界はゲームの中だそうな。
そこは新発売、発売翌日のゲームの中。
僕も徹夜して並んで買い、そのまま次の日の朝までやりこんだ所まで思い出した。
丸一日チュートリアルをやっていた所までね;;
思えば長い戦いだった。
あそこにはたくさんの戦友がいて、ともに手を取り合いながら
やたらと長い前置きを消化させられたのSA☆
俺たちの冒険はこれからだという瞬間を迎えて
その後の記憶はなく、気がつけばこの有様なんDA☆
チュートリアルまではゲームだったのだろうか?
まあそもそも今がデスゲームだという実感もわかないわけだが。
とにかくこのVRMMORPGがテンプレのようにデスゲームになってしまったらしいので、頑張って生き残ってみようと思ふ。
そうして意識を切り替え、まずは基本であるステータスの確認から行う。
チュートリアル中は講習的なことを行って基本的な世界観を抑えた後、実際の体の動きを調整してやる最適化作業に1日の殆どを取られるので
ステータスの確認などといった項目がシステムメニューになかったのだ。
よって今からが初のステータス確認。
チュートリアルで就職はすませた。
後はステータスを確認してポイントを割り振ったらこれで今日から僕も魔法使い。
そうそう、通常のスキルとは別に初回ロットの特典としてスキルチケットが配分さており、通常とは別に職業に見合ったスキルをランダムて配布するらしい。
そしてそのチケットでしか手に入らないユニークなスキルもあるらしい。
あれですか?お約束のチート能力が出ちゃいますかぁ?
まあゲームを進めていくうちにアイテムで代用できるレベルの能力程度のもので抑えられているようだが。
でも序盤で、ましてやこんな状況下でば一枚でも多くのカードが欲しい所だ。
カモ〜ン、なんか強そうな能力!
期待を胸に抱いていざ己の深淵を暴かんとシステムメニューからステータス画面を確認して。
「たのむッ!イケメンになっててくれぇぇー!」
まあイケメンは無理でもMP消費量軽減とか増加とか強力な攻撃スキルとかだったらいいなあ。
バッシプ系統は地味に強いのでありがたい。
スキルは序盤に役立つ程度のレベルかもしれないのん?
まあ成長するスキルかもしらんし。
期待に胸が膨らむ瞬間。
恐る恐る開いたステータス画面を確認して・・・
「イ゛ェアアアアアアアアアアアア?!」
当然ながらチートっぽい能力が都合よく追加されているはずなどなかった。
だがしがし、なるほど確かにこれはユニークかも知れない。
状況が違っていればチート能力として覚醒したかもしれない。
だがしがし、このデスゲームになった世界で、少なくない希望を託した特典のスキルは・・・
『自爆魔法』
使用者が任意で発動、ないし死亡した際に発動する攻撃魔法。
※この魔法を発動すると使用者は死亡する。
死ぬことが許されないこの世界で全く意味をなさないゴミスキルだったのです!