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嫉妬2

碧黎に連れられた維月が次に出た場所は、十六夜と維月の部屋だった。そこで座っていた十六夜は、苦笑して維月を迎えた。

「維月…お前はもう、維心の気性は知ってるだろうが。」

「十六夜!」

維月は、十六夜の顔を見た途端に今生ここで育った妹の顔になって、十六夜に抱き付いた。十六夜はそれを受け止めて、頭を撫でた。

「困ったヤツだ。親父が行かなかったら蒼が困っただろうが。少しは大人になったと思ってたのに、お前は時々記憶が戻る前の維月に戻っちまうからなあ。」

維月は、下を向いた。

「分かってるわ。いけないと思うのだけど、維心様がすぐに疑うから、意地になってしまって。今回ここに来るのも、維心様が居るのに、月の宴だから十六夜と並ぶ事になるんじゃないかって、なかなかいいと言って下さらなかったの。龍王妃として戻ると約束して、やっと連れて来てもらえたのよ?」

十六夜は、ため息をついた。

「あいつはまだ若い龍なんだよ。お前が大事で仕方ないから、嫉妬だって並じゃねぇのさ。わかってやりな、お前が我慢しなきゃあいつのヤキモチは収まらねぇんだからよ。」

維月は、ちょっと頬を膨らませた。

「十六夜は、ほんとにヤキモチ妬かないのね。維心様とのギャップが激し過ぎて、ためらっちゃう。」

十六夜は笑った。

「そんなこたぁねぇよ。オレだってヤキモチぐらい妬くさ。だが、維心のことは自分で許したことだ。それにな、お前とオレは切り離せねぇのが分かってるからさ。維心には、お前とオレのような決定的な繋がりがない。だから気持ちが分かるってだけだ。」

碧黎が、ふっと息とついた。

「まあ、いくら前世の記憶があるとは言うて、二人とも今生を生きておるわけであるから、どうしてもそれに引きずられるものよ。維月は十六夜と我に守られて何の不安もなく甘やかされて育ち、好きなように生きて来た我がまま娘。十六夜が落ち着いておるのは、今生は維月と二人で育った記憶があって、ずっと側について世話をして来たので今更離れることなどないという確信があるのであるな。だが維心は、今生嘉韻とも戦ねばならなかった。しかも、紙一重で己のものにした。そういった記憶がある上に、同じ神である炎嘉やら志心やら数多の神達にまで狙われて、いつなり神経を尖らせておらねばならぬ。なのでこういうことが起こるのだ。だから維月よ、少なからず主のせいでもあるのだぞ?分かっておるか?」

維月は、そう言われて下を向いた。

「はい、お父様。確かに前世の記憶から客観的に自分を見ても、今生は大変に我がままで、何でも思うようにして育ったと思いまする。なので、時に我が出てしまい、維心様とあのように口論になってしまうのですわ。私も反省致しております。」

碧黎は、頷いた。

「分かっておったら良い。とにかくは、今宵あちらへ言って、維心とよう話すが良いぞ。また離縁だ何だと我らを煩わせるのでない。どうせ主らは離れることは出来ぬのだろうからの。」

維月は、頭を下げた。

「はい、お父様。」

十六夜が満足したように微笑むと、維月を横へ座らせた。

「ところで、お前に月から話してただろう?人世からの帰還者のことだ。」

維月は、急に話題が変わったので、じっと視線を宙へと漂わせた。思い出しているようだ。

「…あの、知章様の姪の子達のこと?」

十六夜は頷いた。

「そうだ。維心は何て言ってた?」

維月は、ため息をついた。

「『だから禁じておるのに、輝章は。知っておったが見てみぬふりをしておったのだ。何でも良いから子をなした世が納得する理由を出せと伝えよ』って。別に怒ってないようだったわ。だって、知っていらしたのよ維心様は。」

十六夜は、頷いた。

「だろうな。その辺の神ならいざ知らず、第二皇子が失踪してたんだからな。維心なら知ってただろう。それでなくても神世には、人には神と伏せて100年ばかし人世で暮らして来るヤツも居るんだ。もちろん子供は作らずにな。相手を見送ってから帰って来るんだ。」

維月は、十六夜を見た。

「知ってるわ。それはそれで、神は寿命が長いのだし、維心様も咎めたりなさらないわ。問題は、神の子供を産んだら人は死ぬからなのよ。」

「分かってる。」十六夜は、真剣な顔で言った。「輝章を連れて来たいんだが、維心の許しがなきゃ無理だ。今日、蒼に呼ばれて知章も来てる。先に知章があの二人が持ってきた書状の中身を確かめて、間違いなく弟の子だと確認しなきゃならないんだと。オレは本人に会って来たから、間違いないのは知ってるが、神世はいろいろ面倒なんでぇ。それから、維心に自分の姪が見つかった報告と、輝章の事に許しを乞うって段取りなんだ。」

維月は、眉を寄せた。

「それ、いつ?」

十六夜が、首をかしげた。

「…宴の後かな。オレもその時に行って維心に、聞いて来た事情を話そうかと思ってるんだが。」

維月は、慌てて首を振った。

「明日の朝にして。」十六夜が、眉を上げる。維月は、もう!と両手を握ってぶんぶん振った。「今最高に機嫌がお悪いのに!普段なら怒らなくても、今は何をおっしゃるかわからないわ!明日までには…私、きちんと仲直りしてご機嫌を整えておくから。」

十六夜は、ぽんと手を叩いた。

「そうだったな!お前のせいなんだし、なるべく機嫌良くさせておいてくれよ、維月。」

維月は、またため息をついた。

「ええ。本当に大人げなかったと思っているから、維心様には本当に謝るつもりよ。あのかたは、素直に謝ればそれ以上うるさく言わないかただから。でも、そろそろあんな風に疑うのはお止めになってほしいわ…一度話し合えば、大抵の事はもうそれ以上蒸し返さないのだけれど、これだけはどうしてもダメ。だから私もつい、言葉を荒げてしまって。」

碧黎が笑った。

「それだけ維心は必死だということぞ。主もそろそろ分かってやらぬか。赤子のようなものよ。十六夜はとうに分かっておるぞ。」

十六夜も、それを聞いて笑った。

「違いねぇ。赤ん坊なんだよ、そういう所は。子育ては得意だろ?適当にあしらいな。前世はうまくやってたぞ?」

維月は、苦笑した。

「十六夜ったら、少し離れるとその間にまたお父様と似て来ちゃって。でも、どちらも同じように好きだから良いけれど。」

碧黎と十六夜は、同じように眉を上げた。そして、十六夜は急に表情を変えた。

「同じようにだって?こら維月、親父は親父だぞ?まさか同じ命なだけって聞いて、親父とも結婚するとか言い出すんじゃないだろうな。親父はダメだ!」

維月は、慌てて言った。

「ち、違うわよ、ただ同じようにって感じただけよ。どちらもとても好きってことよ?」

十六夜は首を振った。

「違う!オレは夫だけど親父は親父だ!」

突然に十六夜が怒り出したので、維月は戸惑って碧黎を見た。碧黎は声を立てて笑った。

「なんぞ。主も維心と同じではないか。我に妬くなど間違っておるぞ?ま、主は我には勝てぬからのう。どれ。」と、維月を引き寄せて、唇を寄せた。「父も試してみるか?維月。主は我と口付けたことも覚えておらぬだろう。我は良いぞ。いつなり主なら受け入れる。」

維月が仰天して碧黎を見上げていると、十六夜が物凄い速さで維月を引っ張って自分の腕に抱いた。

「ダメだ!今は父親でいいって言ってただろう!」

「維月が乞うなら話は別ぞ。だが、まあ良いか。」碧黎は、笑うと離れた。「いつでもどうにでも出来るしの。」

そう言うと、碧黎はその場からパッと消えた。維月が呆然としていると、十六夜は呟くように言った。

「…油断ならねぇ…まだあんなこと言いやがって…。」

維月は、十六夜を見上げた。

「え?まだって?」

十六夜は、ハッとしてぶんぶんと首を振った。

「何でもねぇ。とにかく維月、お前はオレの嫁で、親父の娘だ。分かったな?」

維月は、これ以上ごたごたするのが嫌だったので、急いで頷いた。

十六夜は、深いため息をついた。


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