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龍の宮

「何ぞ?」

碧黎は、パッと龍の宮の王の居間へと現れた。そこには維月のほかに、維心と十六夜が居て、何やら深刻そうな顔をしてこちらを見ている。しかし、維月は碧黎を見てパッと表情を変えると、駆け寄って来た。

「お父様!」

碧黎は、久しぶりに見る維月に手を差し出して抱きとめた。

「おお…おお維月よ。久しく我を呼ばずで。何と心地よい気ぞ。やはり主が一番よな。」

維月は、碧黎に持ち上げられたまま、じっと碧黎の目を見つめた。

「それならばお父様、二番も三番も居るということでございまするか?」

十六夜も、維心も固唾を飲んでそれを聞いている。碧黎は、首を振った。

「何を言うておるのだ。我には主だけぞ。」

十六夜がホッとしたような、がっくりしているような、変な雰囲気で肩の力を抜いたのを見て、維心が言った。

「それは我の台詞ぞ。父親の主が言うとややこしいではないか。」

碧黎は、維心をちらと見た。

「いつなり言うておるの、維心。我は主に許してやっておるのだぞ。」

維心は、ぐっと黙った。十六夜が、言った。

「オレが呼んでもすぐには来ないのに、何で維月だったらすぐなんだよ。用があるから呼んでるってのに。」

碧黎は、十六夜を見て手を振った。

「主より維月の方が非力であるから。呼んでおるのにすぐに来ずで何かあったら何とする。」と、維月を下へと降ろした。「して?何用か、維月。」

維月は、頷いた。

「十六夜が先ほどこちらへ参って、お父様に聞きたいことがあるのだと申したのですわ。なので、では三人で聞こうかと十六夜が呼んだのに、お父様がいらっしゃらないからお前が呼べと言われて、それで私が呼びましたの。」

碧黎は、ため息をついて十六夜を見た。

「ほんのさっきまで月の宮に居ったくせに、なぜにあちらで聞かぬか。」

十六夜は、碧黎を睨んだ。

「親父が女と庭を歩いてたからじゃねぇかよ。」

碧黎は、目を丸くした。維月は、維心が手を差し出しているのを見て、そちらへ戻って十六夜と維心の間に座る。

それを見て、碧黎も側の椅子へと腰掛けた。

「何やら悪い事をしておるように聴こえるの。女とは、あの…ええっと、西の島から来た女か?」

十六夜は、慎重に頷いた。

「そうだ。それについて聞きたいんだが、親父はあの女とどれぐらい話してる?」

碧黎は、何のことか分からないようだったが、首をかしげて記憶を辿った。

「…二年は経っておらぬかの。それぐらい前に、我が庭で月を見上げておったら、話し掛けてきおった。それが最初であったの。ええっと、名…名…」碧黎は、ぐっと眉を寄せた。「何であったかの。あまり世に関係のない神の名を覚える習慣がないゆえ。」

維月が、目をまんまるにして口元を袖で隠して驚いている。十六夜は、ため息をついた。

「そうか…やっぱり、その程度か。」

維心が、十六夜と視線を合わせて頷いている。

「まあ、そうなるであろうよ。碧黎を責めるわけには行かぬな。」

碧黎は、ますます眉を寄せて二人を見た。

「何の話ぞ?あの女が何か?」

十六夜は、首を振った。

「いいや。別にいいんだ。蒼が、今日返す段取りをした。近いうちに公青が迎えを寄越すだろう。」

碧黎は、訳が分からないながら、頷いた。

「そうか。客間が常埋まっておるのも考え物であるしな。良いのではないか?あまり面倒を抱えるのは我も感心せぬから。」

それを聞いて、維月と維心、そして十六夜が顔を見合わせる。碧黎は、その分からないながら居づらい雰囲気を感じ取って、立ち上がった。

「では、我は()ぬ。」と、維月を見た。「維月、来週帰って来るのだろう?」

維月は、急いで頷いた。

「はい、里帰り致しまするわ。」

碧黎はそれを確認して、満足げに頷いた。

「では、待っておる。此度はこれで。ではの、維心、十六夜。」

碧黎は、パッと消えた。十六夜は、急に無くなった碧黎の気配に、肩の力を抜いた。

「ああ…やばかった。」

維月は、頷いた。

「ええ。結蘭は、あのまま放って置いたらきっとお父様に気持ちを告げておったのでは?」

十六夜は、寸でのところで碧黎をこちらへ呼べたことに、ホッとしていた。

「恐らくな。お前も見ていたろう、結蘭の気の変化を。」

維月は、さっき十六夜と共に龍の宮の王の居間に座りながら、月を見上げて見ていた様子を思い出して、身震いした。

「ええ。あそこでお父様に何か言って、良い返事が返っていたとは、さっきのご様子からも到底思えないわ。名前すら覚えていらっしゃらないなんて。きっと、本人はそんな風に思うておらぬでしょう。」

維心が、横で維月の肩を抱きながらため息をついた。

「困ったことよ。姿を現さぬほうが良いのやもしれぬぞ。地であるのだし、本体に戻っておれば良いのに。」

十六夜が、それを聞いて維心を睨んだ。

「維心、それを親父の前で言うんじゃねぇぞ。維月を月へ戻して返さないとか言い出すからな。あっちが本体なんだし。」維心が身を硬くする。十六夜は続けた。「ところで維月、蒼のあの様子だと来週まで結蘭は居ないとは思うんだが、しかしまだわからねぇ。公青にだって都合があるだろう。結蘭が素直にハイそうですかと帰るとも思えないしな。だから、来週はお前、親父にべったりついて結蘭を近づけるな。お前が側に居たら、退屈しねぇから絶対親父は他の女と話すとか、そんな気にもならねぇはずだしな。」

維月は、真面目に頷いた。

「わかった。」

維心が、また深いため息をついた。

「素直に帰ってくれておるのを祈るわ。碧黎についておって、あれが維月を妃になどと言い出したならどうした良いのだ。そっちのほうが面倒ぞ。」

十六夜は、維心を見た。

「あのなあ、オレだって大概心配だが、結蘭が次にこっぴどく振られっちまったら、今度こそ立ち直れねぇぞ!死んだらどうするんでぇ。親父はそんなことにはこっぽっちも感心がねぇから、本当にコテンパンに振るぞ。賭けたっていい。」

維心は、渋々頷いた。

「わかっておるわ。だからこうして協力しておるではないか。」

十六夜は、頷いてずいと維心に寄った。

「じゃあ、協力ついでに維月を明日にでも連れて帰らせろ。よく考えたら来週なんて言ってたら、いつ結蘭が親父に近付いて言いやがるかわからねぇだろうが。」

維心は、慌てたように言った。

「明日っ?!早いわ、我に心の準備が…」

「何の準備が要るんだよ。毎日一緒だろうが。とにかく、明日だ!今日はオレが見張ってるから。」と、月を見上げた。「じゃあな。早く行かなきゃ、何が起こるかわかったもんじゃねぇ。」

十六夜は、光に戻った。維心は庭のほうへと流れるその光を追った。

「十六夜!こら、せめて明後日にせよ!」

《うるさい!》十六夜の声が言った。《とにかく、明日だ!あんまり無理を言いやがったら、結界を強くして追って来れなくするぞ!》

維心は、ぐっと黙った。十六夜は、光になって空へと打ち上がって行く。維月が、茫然とそれを見上げている維心に歩み寄って、その手を握った。

「維心様、いつもの里帰りでございまするから。すぐに追って来てくださいませ。さすればそんなに離れておらずで済みまするから。ね?」

維心は、情けない顔で維月を振り返った。

「分かっておるが…離れると思うと、我はつらい。」

維月は、苦笑した。一週間ほどで月の宮へ来るから、すぐに会うのに。

「まあ維心様…そんなに側に居ったら、私に見飽きてしまわれまするわ。一週間ほどでございまするでしょう?月の宮でお待ちしておりますから。」

維心は、頷きながら維月を抱きしめた。

「主を見飽きるなどありえぬ。奥へ参ろう。明日から一週間も会えぬなど…ああ、気が重いことよ。」

維月は、黙って維心に従いながら、思っていた。維心はいつまで経っても維月をそれは深く強く愛してくれる。本当に飽きることがないのかしら…。

確かに維月が維心に飽きることなど考えられないので、維心も同じ気持ちなのかも、と勝手に納得していたのだった。

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