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次の変動

凜は、鷹の宮で不安げに空を見上げていた。

何が起こっているのか、箔翔も玖伊も誰も話してはくれないが、箔翔の結界が揺らいだかと思うと消失し、そしてすぐに、凜には馴染みのある波動を持つ結界がそれにとって変わった。しかし、箔翔の結界とは違ってとても薄いように思えた。その馴染みのある波動は、月の宮の結界と受ける感じが似ているからだと思った。

じっと庭を見ていると、安芸の声が言った。

「気になるか。」

凜は、驚いて振り返った。凜が自分の気持ちを打ち明けてからは、安芸は全く話し掛けてこなくなっていたからだ。何をするにも避けているようで、自ずと安芸への直接の世話は、他の侍女に任せきりになってしまっていた。安芸が嫌がるだろうからだ。

凜は、久しぶりに間近で聞く安芸の声に、頷いた。

「はい。何やら月の宮の結界に似て、それでいてとても弱いものであるような気が致します。箔翔様は、どうかなさったのでしょうか。」

安芸は、凜に歩み寄った。

「主には話さねばならぬ。地が変調をきたしておるようで、神は軒並み力を失っておるのだ。」

「え?!」凜は、驚いて口を押さえた。だが、自分の気はしっかりとまだある。そして、これはもしや…。「でも、安芸様の気が戻っておりまするわ!」

安芸は、頷いた。

「わかるのだの。主は、力を失わない方の神だったのだ。」と、空を見上げた。「神世の、力のある神は皆、この状態の時には力を無くす。ゆえに我の気の拘束はとれ、こうして元の気に戻る。箔翔殿は力を失う方の神。なので、地がああして他の宮と共に結界を張っておるのだ。だが、あれでは守っておるうちには入らぬが。」

凜は、ただ驚いて視線をさ迷わせた。そういえば確かに、碧黎様の気。だから月の結界と似ていると思ったのだわ。でも、碧黎様の力はこんなに弱いものではないのに。

「…碧黎様は、それほどにお具合を悪くされておるのですね。」

安芸は、凜を見た。

「凜、主は次に箔翔の結界が消え、地の結界が張られたのを見たなら地下へと隠れるのだ。ここは、恐らく大変な騒ぎになろう。主は本来なら、月の宮で安んじておるはずなのだ。巻き込まれることはない。」

凜は、驚いて安芸の真剣な目を見上げた。

「何か起こるとおっしゃるのですか?」

安芸は、首を縦にも横にも振らなかった。しかし、言った。

「全てが終われば、主にも分かる。だが、どうなるのか我にも分からぬのだ。我は、西の地でも力はある方であるが、他の三人の王と拮抗しておる。本当に、まだ分からぬ。主は、この上何にも煩わされてはならぬのだ。」

凜は、首を振った。

「何かをなさろうと思うておられるのなら、私も!安芸様、ご迷惑であることは百も承知でございまするが、私は安芸様に利用されるのなら本望でございまするわ。他の何も、望みませぬ。何かのお役目で死ねと命じられるなら、死にまするわ。己でも呆れるほどに、父のことよりも安芸様のことが案じられてならぬのです!」

安芸は、ぐっと詰まった。これほどに真っ直ぐに、想いをぶつけられたのは初めてなのだ。だが、しばらく手を握って震えながら真っ直ぐな凜の視線を受けていた後、すっと横を向いた。そして、言った。

「…ならぬ。我らは相容れぬ。分かっておろうが。主は己の命を守るのだ。勝手に命を懸けられては、迷惑ぞ。悔しければ、その命永らえて己の父を救うてみよ。」

安芸は、そう言うと、凜の答えを待たずに振り切るようにそこを離れた。生きて、あの地へ戻れたのなら。我が、また穏やかにあの地で王として許されている地を治められたなら。誰に阻まれようとも、凜を連れて帰り、己の結界の中で守るだろう。だが、自分が今からしようとしていることは、命の保障もないのだ。同じ力を持つ神と、その軍神を相手にたった一人で立ち向かわねばならない。相手は殺しに掛かるだろう。だが、自分は生かして捕らえようというのだ。いくら腕を上げたとはいえ、恐らく厳しい戦いになる…。

安芸は、こみ上げて来る涙を、抑えることだけに集中していた。


翠明は、龍王の居間で、最近のこちらの世の動きなどを教わっていた。先ほどから気が再び元に戻り、自分の気が月に抑えられ、龍王の気が復活したのを知った。そうして、突然に気が戻ったり消えたりとする状況に、龍王もどうしようもないと、全てを地に委ねて、ただ待っているだけのようだった。

上の空の翠明に、維心がため息をついた。

「…無理よな。このような状況で、集中せよという方が無理であったのだ。部屋へ戻るか?」

翠明は、首を振った。

「すまぬ。我が他のことに気を取られておるから。維心殿…しかし、地は何と言っておる?まだ原因はつかめぬか。」

維心は、困ったようにため息をつくと、頷いた。

「未だ何も。地も困っておるのだろうの。前回の大きな変動の時も、己ではどうしようもないようだった。我ら、あれをなんとかするのにかなり苦労をしたのだ。そのうちに、我らも調査をせねばならぬやもしれぬな。」

翠明は、身を乗り出した。

「ならば、すぐに!」維心がびっくりしていると、翠明は続けた。「このままではならぬ。本来は、何も起こってはならぬのだ。何かが起ころうとしておるのなら、それを未然に防がねば、また不幸になる者が出る。起こってからでは遅い。」

自分達が公青の宮へと侵攻したように。

翠明は、そう思っていた。維心は、じっと翠明を見ていたが、微かに微笑んだ。

「成長したの。ここへ来た時とは、受ける感じも違う。よう短期間でここまで己で悟ったことよ。」と、背後の奥の間の入り口の方をちらと見た。「…我が妃も、間違ってはおらなんだようぞ。少し労ろうてやらねばならぬやもな。」

翠明は、それでも厳しい顔をした。

「呑気なことを言うて!主は考えなしの神ではなかろう!主という神に、どれほどの命の未来が懸かっていると思うておるのだ。主は、たった一人でこちらの全ての神を背負っておるのだろうが!」

維心は、真面目な顔になると、頷いた。

「その通りよ。龍王とはそういったもの。知っておったら誰もこの地位に就きたいなどとは思わぬな。そんな重いものを、主は背負いたいと思うか。」

翠明は、迷わず首を振った。

「我はその器ではない。主のその強大な気は、そのためのものであろうが。今は羨むこともないわ。そんな大層な地位、我には重過ぎる。そこそこの気で、そこそこの王であったなら我は満足よ。」

維心は、満足げに頷いた。

「そうよな。我とてそうだ。」翠明が、驚いた顔をしたが、維心は続けた。「主は主のすべきことをせよ。我はもう何も言うまい。」

維心がそう言った途端、再び翠明の耳に、あの喧騒が戻って来た。これは…我の気が戻って来たということ。つまりは、今次の変動が…。

維心は、それを感じたのか、居間の窓の方へと遠く視線を移した。

「来たの。さて、我は丸腰ぞ。刀を呼び出す気もない。主は、どうするのだ。」

翠明は、立ち上がった。そして、腰に下げている刀を引き抜く。ここで、立ち合いをするために与えられた刀だった。

「維心殿…。」

維心は、翠明を見据えて頷いた。

「やるが良い。」

翠明は、刀を振り上げた。

「維心様!?」

維月の声が聞こえる。

そして、翠明の刀は振り下ろされた。


安芸は、箔翔の居間で倒れた箔翔の前に立っていた。次の変動がいつ来るのか分からなかったので、側に居るべきだと思った安芸は、その瞬間を箔翔の前で向かえたのだ。

倒れた箔翔に背を向けると、安芸は西の地へ向けて念を放った。

《甲斐!鷹の王は倒したぞ。この先はどうするつもりか!》

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