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二人の娘

唯は、与えられた部屋で、欠けた月を見上げていた。凜は、唯の前の椅子に座って、テキストを読んでいる。

ここへ来てから、何もかもが慌ただしかった。

あれから、凜と共に確かに何かの、見えない壁を見付けた。それはほんのりと光っていて、膜のようでもあるし、しかし決して向こう側には突き抜けないものだった。

「結界…」凜が、呟くように言った。「これが、父さんの言ってた結界じゃない?決して人には分からないし見えないけど、神には光の力のように見える、って。」

唯は、頷いた。

「でも、どうやって中に居る王様に知ってもらえばいいの?」

凜は、首をかしげた。

「分からないわ…叫んでみる?」

すると、上から甲冑姿の男が二人、飛んできて浮いた。凜と唯は固まった…と、飛んでる!

すると、男二人は凜と唯を見て、頷き合ったかと思うと、一人が降りてきて側に浮いた。縮こまる唯を背後に回して、凜が震えながらそのものすごく美しい顔立ちの男の前に出ると、男は言った。

「見えておるな。主らは神か。」

凜は、震える声で、それでも決然と顔を上げて言った。

「はい。父が神です。この、手紙を持って行けと言われました。」

凜は、まだ震えている手で父から渡された手紙を差し出した。その男は、それを受け取ると中身をサッと見て、閉じた。あれで読んだの?!

唯が驚いていると、男は頷いた。

「知章様の姪に当たられる方々か。して、根付けは?」

本当に読んでる、と驚きながらも、凜は根付けも差し出す。男は、背後に浮かぶもう一人に合図した。

「我らは、月の宮の軍神。我は李心と申す。ご案内しよう。まずは王がご判断されるゆえ。」

そうして、凜と、唯は、結界の中にある小さな部屋へ連れて行かれ、そこで重臣だと言う男と面談し、王の蒼と対面し、やっと月の宮へと入る事を許された。

そして、それからはまた慌ただしかった。人の世から来た他の神や半神と呼ばれる自分達と同じ人と神との混血の者達と、共に神の世を学ぶ事を余儀なくされたのだった。

唯がボーッと思い返していると、凜がテキストを閉じた。

「…まだ始めだけど、いろいろ分かって来たわね。私達は、半神で、他の半神達と同じ。でも、違うのは、皆は母が神なのに、私達は父が神なのよ。お父さんは、私達の父親だと言わずに神の世に戻っていたら、罪は露見しなかったのに、私達と共に残った。そして、こうして手紙にして自分の罪を公にした。だから、戻れないんだわ。」

唯は、悲しげに下を向いた。

「もう、死ぬつもりだったから…私達だけでも、戻そうと、その時に不自由しないように出生を明らかにしてくれようとしたんだわ。父さんは、皇子だったから…。」

そんな地位を捨ててまで、父は母を愛したのだ。そして、娘のために残り、神世も捨てた…。

凜は、涙ぐんだが、キッと顔を上げると、言った。

「死なせないわ。母さんはもう20年以上前に死んだのよ。私達を産めば死ぬって、知っていたはず。父さんには、神として幸せになる権利があるわ。神世ではまだ、25歳ほどだって王がおっしゃっていたもの…私、知章様にお会いしたら、父さんの事を精一杯頼むつもりよ。」

唯は、頷いた。そう。父さんには、幸せになってもらいたい。毎日空ばかり眺めて、何も楽しい事などしていない父さんなんだもの…。

見上げると、月はとてもはっきり見えた。ここは、人の世に居た時より月に近い気がする…だから、月の宮というのかな。

すると、目の前にいきなり青銀の髪に金茶の瞳の、とても美しい男が浮いた。

「よお。」

「~~!!」

凜と唯は、仰天して窓から飛びすさりながら、声にならない叫び声を上げた。その男は、慌てて言った。

「驚かせてすまないが、叫ぶな!オレは月、十六夜だ。」と、側に放り出されたテキストを拾うと、パラパラめくって指差した。「ほら!ここに書いてあるだろうが!青銀の髪に金茶の目だ。」

凜がおそるおそるテキストを受け取ると、そのページを見た。確かにそう説明書きと、写真が載っている。

「確かに…でも、月は二人じゃないの?ここに、維月という女のひとも載ってるわ。」

十六夜は、腰に手を当てた。

「確かにそうだが、維月は龍の宮に単身赴任中だ。対だからって縄で繋いどく訳にゃいかねぇだろうが。宴には帰って来るから、紹介するよ。」

月が単身赴任?

唯は思ったが、十六夜の話し方には親近感が持てた。そう、人のようなのだ。

「それで、月が私達に何の用なの?」

十六夜は、頷いた。

「どうしてるかと思ってな。まだここに来て数日で、落ち着かねぇだろう?人が神になるのは大変だからな。」

凜が、答えた。

「父の事が気になるの。神世では禁忌だって…母が、人だったから。」

十六夜は、顔をしかめた。

「ああ、それは維心が決めた事だからな。維心は知ってるか?」

凜は頷いた。

「龍王様ね。」

十六夜は、また頷いた。

「そうだ。人が神の子供を産んだら、例外なく死ぬ。だから、神の男と人の女の婚姻は原則禁じてるんだよ。ただ、例外もある。」

唯が、驚いた顔をした。

「え、結婚しても罰しられない事があるの?」

十六夜は、唯を見た。

「ああ。まず一つは、結婚しても絶対に子供を作らないこと。」

凜が落胆した顔をした。

「それではだめだわ。私達が居る事が知られてしまっているもの。」

十六夜は続けた。

「もう一つは、これはこれまでを見てて許されてることなんだが、相手が不治の病で、余命が幾ばくもない事を知った上で作った子であること。オレの知ってる限り、これで出来た場合は神の男は罰しれてねぇ。表立っては許すとは言われてねぇが、これなら例外みたいだ。」

凜と唯は、顔を見合わせた。

「…母さんが病気だったなんて、聞いた事があったかしら。」

凜が言うのに、唯は首を振った。

「父さんは、母さんが死んだ時の事は、あまり話してくれなかったから…。」

十六夜は、ため息をついた。

「そうか。なら直接聞くよりねぇな。ま、輝章の様子は見て来るつもりだったし、ついでに聞いて来るか。どっちにしても、維心がどう判断するかだからな。まだ希望はある。」

凜が、十六夜を見て訊ねた。

「なぜ龍王様なの?父の王は、知章様なんでしょう?知章様が判断するのじゃないの?」

十六夜は、首を振った。

「そうか、まだそこまで習ってないな。維心は神の王を統べてる王なんだ。誰も維心には逆らえない。その維心の禁じていることをしたんだから、兄貴の知章だって罰しられる可能性があるんだ。」

二人は、同時に口を押さえた。

「ええ?!知章様まで?!」

十六夜は、深刻な顔をして頷いた。

「維心一人で神の世を押さえ付けてるからな。逆らうヤツは、許す訳にはいかないんだと。だが、維心だってそんなこたぁしたかねぇんだ。だから、何かそうならないための材料を見つけて出せば、それにかこつけてお咎め無しに出来るだろうが。オレは、それを探して来るよ。」と、十六夜は入って来た窓から外へ出た。「お前達は、しっかり勉強してな。泣いても笑っても、神なんだから仕方がねぇ。神になるしかねぇんだからな。」

そして、十六夜は言いたいことだけ言うと、飛び立って行った。

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