終結?
公青は、謁見の間の王座に座っていた。両脇には臣下がずらりと並び、目の前には翠明と安芸、そしてその後ろには軍神達が二人を押さえ込むように気を放って立っていた。安芸は激しく暴れるので、たくさんの軍神が必要だったが、床へ伏せるように押さえ込まれて、今はただ上目遣いに公青を睨んでいる。翠明は、大人しく立っているので、そんなことにはなっていなかったが、それでも公青を睨んでいるのは同じだった。
公青は、そんな二人に息をついて言った。
「して?何か言い分はあるか。」
「追放されたのではないのか!」安芸が、唸るように耳障りな声で叫んだ。「確かに主の気がここから去ったのを我は見ておった!」
公青は、面倒そうに頷いた。
「そうよ。我が龍の王族を正妃に迎えると言うたからの。だがそれも必要なのだと、此度のことでやっと臣下達も気付いたようであるから。我を追放すると決めたのは重臣と軍神の一部。民の大半は関与しておらぬ。よって我は、皆を守るのと引き換えに、それらを罰するつもりでおるし、それらもそれを納得した上でここに座っておる。我が宮の内政に関して主らにとやかく言われる筋合いはないし、戻るのにわざわざ主らに断る必要もない。それより、我が戻ることを予測せずに性急に事を進めた己の愚かさを恥じるが良いわ。我は生きておるのだからの。何かあれば戻ることは予測出来たのではないのか。大事を起こすのなら、もう少し考えて動くが良い。我が出てから一年など、早すぎるわ。我なら10年はこの宮を小突きながら様子を見たぞ。気だけでなく、頭も弱いわ。」
安芸は、激昂して暴れた。
「何を!?一度宮を出た王などに、そのようなことを言われる筋合いなどないわ!!」
公青は、息をついて軽く手首を返した。すると、安芸はぐっと口を塞がれ、唸るように声を絞り出している。
「ん~~!!んん~!!」
公青は、呆れたように言った。
「もう良い。黙っておれ。」と、翠明を見た。「主は我と立ち合いたいのであったの。」
翠明は、安芸とは違って落ち着いていた。
「そうだ。我も闘神であるから。戦って散ることを望む。」
公青は、頷いた。
「分かった。主の願いは叶えてやろうぞ。」
翠明は、しかし身を乗り出した。
「我が責任を取る。我が一族は、そのままに残して欲しい。」
公青が、それには眉を寄せた。
「…難しいの。宮は王に殉じるもの。我はこの島を戦国にしとうないからな。」
翠明は、必死だった。
「我を処刑したことにせねば良いではないか!戦死したのなら、あれらもこちらを恨む筋ではない。我が侵攻して参って、死んだのであるから。」
公青は、じっと翠明を睨んで黙った。すると、聞き覚えのある深く低い声が割り込んだ。
「干渉と言われるやもしれぬが、黙っておれぬの。」
公青が、振り返る。翠明は、入って来た男の気を見て、息を飲んだ。これは、あの龍王の気。この、端正な顔の男が、あの龍王だというのか。
「維心殿。処理は終わったようであるの。」
公青が言うと、維心は頷いた。
「炎嘉も直に参る。それより」と、翠明を見た。「我があちらの地を平定した時、我に抗った宮は王諸共女子供に至るまで皆殺しにした。末代まで遺恨を残し、次の世代へ戦の種を残さぬためだ。その犠牲の上に、あちらの太平は成っておる。こちらが、あちらより優れておる所などない。神は皆同じよ。抗った宮は根絶やしにする。それが、王の王たる者の務めぞ。」
公青にも、分かっていた。自分の曽祖父の代に、この地は完全にこの宮の下に平定されたと聞いている。歴史書を読んでいると、そこには今維心が言ったのと同じことが書かれてあった。非情でなければ務まらぬと、その書には記されていた。公青は、それを頭に入れて置きながら、そんな決断をする必要がなかったため、これまで悩むこともなかったのだ。
維心は、続けた。
「一族を失う覚悟もなく攻め入ったか。それとも、王が一族を背負っておることすら忘れておったのか。王がした決断の結果を、なす術なく受けるのが己に仕えておる民達ぞ。主が攻め入って捕らえられたこの時に、主らの宮、一族の運命は決したのだ。必ず勝てる戦でなければ、軽々しくするものではない。それは、他の宮への見せしめにもなるからの。反対に、ここで公青が甘い顔をすれば、また我も我もと攻め入って来るやもしれぬ。戦は遊びではない。主と主の民は、それをその命でもって他に知らしめるのであるの。太平を考えたら、何でもない犠牲ぞ。」
あれだけ暴れていた、安芸も呆けたように維心を見上げてそれを聞いている。翠明は、うなだれた。どうあっても、助からぬのか。
「…しかし、ここには定佳が居らぬようだが。」
公青が、頷いた。
「あやつは主の兵と戦っておっただけ。我が宮へ侵攻してはいなかった。我が問いただす書状を送りつけてやると、あれは翠明との戦いであったと言うておったわ。何でも、我の援護をと思うて出たら、主に阻まれたと言うておったぞ?」
それが、作り話であることは、公青にも分かっているようだった。しかし、定佳を足止めしたのは、確かに翠明の軍神だった。状況だけ見れば、そう見えなくもない。なので、定佳はそう言い切ったのだ。
翠明は、先を何も考えていなかった自分を呪った。これで、一族は全て消されてしまうのだ。戦など、知らぬで来た。小競り合いなどはしょっちゅうだったが、自分が生まれた時には、既に太平の世だった。まさか、こんなことになるなんて…。本当の戦が、どれほど非情なものなのか、やっと知った。
「…まあ、時期は考えようぞ。主もどうせ逃れられぬのだ。大人しくしておれ。安芸は…」公青が言って安芸を見ると、安芸はまだ呆然としていた。どうやら、根絶やしというのがかなりのショックだったらしい。「連れて行け。これも戦をするには、まだ子供であったのであるの。何の覚悟もなく来おってからに。馬鹿者どもが。」
翠明は、うなだれたまま軍神達に連れられてそこを出て行った。安芸も、先ほどまでの騒がしさはどこへ行ったのか、ただ呆然と呆けたまま連れられて歩いて行く。そこへ、炎嘉が入って来た。
「して?我らが宮ごと消して参ろうか?何、維心なら一瞬よ。気を一気に放出すれば事足りる。全て一瞬にして無に帰すのだ。」
そこに居た、臣下軍神達が身震いした。公青は、苦笑した。
「そうなれば頼むやもしれぬが、我はまだ決断しておらぬからの。」
炎嘉は、驚いたように公青を見、次に維心を見た。そしてまた公青を見ると、言った。
「何を言うておる。まさか無罪放免ではないであろうの。主の軍神が1万ほど死んでおるのだぞ。それに、他人の宮に侵攻しておいて負けて、では去らばでは、誰が納得するのだ。その程度で済むのかと、ホラ吹きの定佳がまた出て参るやもしれぬぞ?甘い顔をしてはならぬわ。」
公青は、うんざりしたように息をついた。
「分かっておる。だが、我は月の宮に助けられた経緯があるしな。我とて侵攻したのに、あれで済んだのだからの。簡単に滅する決心がつかぬ。」
炎嘉が、呆れたように公青と維心を見て言った。
「何ぞほんにもう、だから月の宮などに長く居るのがいかんのだ!すっかり蒼に毒されおって、月の変な浄化のせいではないのか。維心、主からも言うてやらぬか。」
維心は、炎嘉を見た。
「言うたわ。だが、結局は公青が決めること。これ以上我は干渉せぬ。」と、歩き出した。「我は去ぬ。軍は残そうぞ。龍軍の三千はここへ来させる。義心が居るゆえ、何かあればあれに言えば事足りる。我でなくとも何でも始末しよるわ。翠明とて技術云々より気すら義心に敵わぬではないか。あれでは我も王として見る気にもならぬの。もし生かすつもりなら、もっと教育せねばならぬぞ、公青。何か考えよ。」
維心はそう言うと、さっさと出て行く。炎嘉がそれを追いかけた。
「こら、維心!いくらなんでも生かすとは何ぞ?維心!」
そうして、二人は出て行った。臣下軍神達は、それを呆然と見送っている。公青はため息をついて、表情を変えた。
「…では、先に宮の方を正さねばなるまいて。」それを聞いた相良を始めとする臣下達が、身を固くした。公青は、続けた。「我が呼ぶ者、前へ。」
相良は、ためらう皆を後ろに、真っ先に前に出た。まだ呼ばれてはいなかったが、自分が何より推し進めたこと。
公青は、一人一人名を呼び始めた。




