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屈辱

維心は、粗方片付いた地上を見て、するすると姿を元に戻した。そして、言った。

「退屈ぞ。居るだけで良いなど甲冑など要らなんだの。」

炎嘉も、姿を戻して言った。

「まあ戦に来たのだからの。一応形だけはな。」と、箔翔と志心を見た。「主らはもう良いぞ。後は我らが宮に降りて、見届けて参るわ。」

志心は、白虎の形のまま答えた。

《ならばあちらの警戒はどうする。》

炎嘉は、頷いた。

「もう良いわ。だが、念のため待つように言うてくれ。主はあちらであやつらの事を管理しておいてくれたら良い。」と、箔翔を見た。「主は帰って良いぞ。後で宮に経過を伝えさせるゆえの。」

箔翔は、戸惑って言った。

《だが、我もあちらで待った方が良いのでは。志心殿の宮ででも。》

維心が、首を振った。

「良い。志心だけで十分よ。主は慣れぬだろうが。己で判断出来るなら、樹藤の島にでもと言う所であるが、いくら力はあっても判断のつかぬ者は要らぬ。」

箔翔は、ショックを受けた顔をした。炎嘉が、苦笑した。

「確かにその通りであるが、主は何でもはっきり言い過ぎるのだ。仕方がないではないか、初陣なのだから。」と、箔翔を見た。「箔翔、一人になれぬ主は、ここでは危険でしかないのだ。主がどこまで出来るか見るのに、わざと志心と同じように場を振り分けたが、危なかったであろう?なので維心はこう言うておるのだ。普通初陣は、父王と共に筆頭軍神がぴったり横について出るものだが、それがなかったからの。今回は特殊だったのだ。精進して、次に備えたら良い。」

箔翔は、頷いたが答えもせずに踵を返して飛び去って行った。志心が、ため息をついた。

《全く、少しは言い方を考えぬか。箔翔がひねくれてしもうたらどうするのだ。戦国ではないのだから、経験がないのはしようが無かろう。》と、踵を返した。《では、我は行く。》

志心も、一瞬にして飛び去った。それを見送って、炎嘉は言った。

「維心…変わらぬの、そういう所は。今生は少しましになったかと思うておったのに。」

維心は、ふんと体を宮の方へ向けた。

「知らぬ。戦は遊びではない。王を押さえられたら、軍は終わりぞ。初めてだからと誰も遠慮などせぬ。甘いわ。」

そして、公青の宮へと振り返りもせず降りて行く。炎嘉はため息をついて、空を見上げた。

「維月…あやつは少しも変わらぬぞ?咎めぬのか。」

維月は、月から答えた。

《あれも維心様なりの優しさなのですわ、炎嘉様。炎嘉様が一番ご存知であられるかと思いますのに。》

十六夜も言った。

《あいつは戦場ってのを一番知ってるんじゃねぇのか。確かに箔翔は上から見てて、ひやひやしたもんな。気は箔炎譲りだが、どうしたらいいのか分かってない上に、技術もまだ維明程でもないのによ。王なんだから、しっかりしろって言ってるんだよ、あいつは。》

炎嘉は、それでもまたため息をついた。

「まあ、分かっておるがの。父と戦場にも立てなんだあやつに、いきなりそれは酷というものぞ。」そして、公青の宮を見た。「もっと我が見てやるべきやもな。維心は子ばかり多くて子育てには全くであるから。」

そう言い置くと、維心を追って降りて行った。維月はため息をついた。

《困ったこと。あれでも気遣っている方なのに。どうでも良ければ、維心様はむしろ何もおっしゃらないわ。》

十六夜が、苦笑したようだった。

《確かにな。今生は良くなったと思ってた炎嘉には、以前の維心に戻ったようで面白くないんじゃねぇか。》

維月は言った。

《そうそう神も人も変われるものではないわ。まして戦場でしょう…前世の記憶の方が濃く出ているはずだもの。私には、分かるんだけどな。》

十六夜は笑った。

《まあ維心に言わせれば、お前さえ分かってたらいいんじゃねぇのか。》

すると、甲斐と他の軍神達に取り巻かれた一団が、同じように公青の宮へと降りて行くのが見えた。中心には、数人の軍神達に気でがんじがらめにされた神が、それでも暴れながら運ばれている。十六夜は、真面目な声で言った。

《恐らくあれは安芸だ。》

維月が、安堵したように言った。

《良かったわ。生きておったのね。》

しかし、十六夜の声は険しいままだった。

《どうだろうな。どうやらあいつはかなり激しい気性らしい。あんなになっても、まだ抗ってやがる。公青は、どうするつもりなんだろうな。》

維月は黙った。このままにするわけにも行かず、さりとて殺してしまっては遺恨を残して、戦がまた起こるかもしれない…。

維心が、自分に逆らう宮の全てを根絶やしにした前世のことを、維月は思い出していた。


箔翔は、鷹の姿のまま自分の軍神達の所まで一直線に飛び、軍神達を仰天させた後、帰ると一言言って、するすると人型に戻ると、さっさとそのまま鷹の宮の方へと飛び去って行ってしまった。軍神達は驚いて、慌てて樹籐に王の命なのでと言い置くと、必死にそれを追って飛んだ…箔翔は、箔炎譲りの気を持っているので、飛ぶのは鷹の誰よりも早いのだ。

鷹の宮では、箔翔が一人で戻って来たのを見た玖伊が、びっくりして言った。

「お、王?軍神達は…あの、西はどうなったのでございましょう?」

「知らぬ!!」

箔翔は怒鳴ると、一直線に自分の居間の方へと去って行く。玖伊は訳が分からず、おろおろとまだ何も飛んで来ない空と、去って行く不機嫌な箔翔を代わる代わる見ていたが、そのうちに、筆頭軍神の佐紀の姿が見えて来た。

「おお玖伊!王は?」

玖伊は、佐紀に駆け寄った。

「それが、大変に不機嫌なご様子で、奥へ入ってしまわれた。いったい、西では何があったのだ。」

佐紀は、首を振った。

「それが、分からぬのだ。我らは樹籐様の宮を守るように言われておったのだが、急に王が金色の鷹の姿で戻られたかと思うと、帰ると言われて先に戻ってしまわれた。我らは樹籐様に急いでご挨拶申して、こうして王を追って参ったのだが…。」

玖伊は、息をついた。

「何があったのか分からぬが、今はお話するのは無理であろう。明日、夜が明けて落ち着かれたら状況をお聞きしようぞ。して、主から見て戦況はどうであったか。」

佐紀は、歩き出しながら言った。

「数だけはかなりのものであったが、皆雑魚であった。我ら龍白虎鷹の連合軍で9千しかおらなんだので、最初は大丈夫かと思うたものであったが、あれなら龍王お一人でも事足りたであろうの。遠めに気を探っても、どれが王であるかようわからなんだぐらいぞ。」

玖伊は、驚いたような顔をした。

「何との。公青様が統治されておったはずよ。公青様は、炎嘉様ほども気がお強いからの。」と、考え込むような顔をした。「して、ならば戦況が悪かったわけでも無さそうな。何があったのかの。」

佐紀は、首をひねった。

「わからぬ。ただ、戦は終結しておった。援軍が着き、結界内を掃除しておるのも感じ取れたしな。志心様にも、前線に近いので宮の方へお帰りになられたようであるし、今残っておられるのは維心様と炎嘉様のみ。我が王だけが、帰されたというわけでもあるまいに。」

玖伊は、ため息をついて、首を振った。

「もう良い。とにかくは、皆休むように申せ。また王の命があるまで、主らは休むが良いぞ。」

佐紀は、頷いた。

「では、そのように。皆を宿舎へ帰して、我も少し休む。」

そうして、佐紀は去って行った。

玖伊は、箔翔の不機嫌には最近慣れて来ていたものの、どうしたものかと考え込んだのだった。


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