表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/88

戦場4

翠明は、おかしな事に今まであれほど破ろうとしていた、公青の結界に隠れるように、必死でその龍の視界に入らないように身を潜めていた。二頭居たうちの一頭は、どこかへ援軍に出たのか去って行き、気の尋常でなく大きな龍の方が残って、じっと下を見ている。その目がどこを見ていて、何を考えているのか、翠明には分からなかった。

援軍が着いた時には、もしかして領地の結界が破れるかもと期待し、その隙に自分の宮へ逃げ帰り、これからの事を協議せねばと先の事まで考えていた。

それなのに、突然の、龍王の出現。

部下らしき赤いような茶色い龍の気すら、公青より強いように感じた。

そして、話にしか聞いていなかった龍王の、全てをひれ伏せさせるその強大な気を目の当たりにして、翠明は世の中に、どうあっても敵うはずのないものが存在するのを知った。

翠明は、置いて来た臣下達を思った。公青の下、思うようには出来なかったとはいえ、自分の領地の支配は問題なく、財政などにも全く困っていなかった。しかし、王として君臨しているからには、その頂点に立ちたい。誰もが思う事だった。

なので翠明は、時に公青にも抗った。会合でも反対意見をわざと出したりした。公青は面倒そうにするものの、話も聞かないということはなかった。それでも、その座を奪いたいという気持ちは、時にとても強く、反発ばかりしていたのだ。

公青が、東の広大な地へ交流に出て行くと聞いた時も、翠明は反対した。平和な生活が脅かされるというのが、その理由だった。しかし、公青は笑って言った。「井の中の蛙ではならぬのよ。世にはまだ、見たこともない力を持った輩がようけおるのだ。」

あれが、そうなのだ。公青は、一人であれに対峙し、渡り合っていたのだ。

翠明は、またちらと上空を見た。木々の間から、巨大な龍がこちらを探るように、深い青い瞳で見回している。身を潜めても、無駄なのではないだろうか、と、ふと翠明は思った。あの目は、全てを見透しているように思う。ひれ伏すより他に、生き残る術など残されていない…。

「王。」隣で、翠明を庇うように潜んでいる、筆頭軍神の頼光(らいこう)が言った。「このままでは、どちらにしても公青か龍王に、いとも簡単に消されてしまいまするでしょう。我が、兵を引き連れて引き付けまするゆえ、王はその間に、何とか結界の薄くなっておる地下から、結界外へ。」

翠明は、頼光を振り返った。

「ならぬ。あの気を見よ…主らなど恐らくひと睨みされただけで消される。時など稼げぬ…無駄死にするだけぞ。ならば我は、公青と対峙して立ち合って果てる。パッと来ただけの輩に消されるより、余程納得出来るわ。」

すると、あの深い声が、今度は全体にではなく、翠明が居る辺りにだけ聴こえて来た。

《よう分かっておるではないか。》翠明と頼光は揃ってびくっと身を硬くした。回りの軍神達も思わず伏せた。その声は続けた。《本当ならあんな雑魚100万ぐらい、我は塵でも払うかのように滅することが出来た。他の龍など楽しみたいゆえ刀を振りたかったようだが、我は面倒は嫌いでの。こちらの島の軍神を全部消してしもうても良かったが、なるべく残す方向でと思うて、軍も引き連れて来なかったのよ。主も王なら、己のしたことの後始末はつけよ。公青と立ち合いたいのなら、その旨伝えておいてやろうぞ。ここで死にたいのなら、我が指一本で楽に滅してやるがの。》

翠明は、ありったけの気力を振り絞って、立ち上がった。そして、その巨大な龍を見上げると、言った。

「我は、公青と立ち合って己の始末をつける。しかし、他の王はどうか。」

その龍は、視線を東の方へ向けた。

《…生きておれば、曲がりなりにも王なのだから同じように話も聞いてやろうが、どうであろうの。あちらは我が仲間の王に任せておるゆえなあ。主らの気、我が筆頭軍神にも及ばぬのだ。ただの軍神と間違えて、つい()ってしもうたとかあるかもしれぬからの。少なくとも、我にはどれが王なのか気を読んだだけでは判断がつかぬ。》

翠明は、想像はしていたがあまりのことにショックを受けた。自分は、そこそこの力を持つ王だと思っていた…しかし、あちらからはそんな風にしか見えぬのか。

翠明は、龍王への恐れも忘れ、必死に言った。

「安岐は我と同じように結界内であろう。しかしおそらく定佳が外ぞ。ここへ攻め込んだ時、あやつをこっちへやらぬように、我が五万の兵を差し向けた。足止めをくっておるはず!」

龍王は、あからさまに顔をしかめた。

《何を必死になっておる。いずれ討とうと思うておった輩ではないのか。どうなっておろうと良いであろうが。どうせ命あっても主と同じように公青に消されるのであるから。》

しかし、翠明は必死に訴えた。

「確かにそうだった。だが、共に公青の統治を耐えて来た仲なのだ!確かに、こうなって我先にと中央へ向かうことばかり考えて、最近では話すこともなかったが…。」

龍王は、じっと翠明を見ていたが、ため息をついたように見えた。

《複雑なことよな。戦は遊びではないぞ?公青の下で平和ボケしおってからに。だが、我が何某か言う権利はないの。ここは公青の地。全ては公青に従うが良い。我は、ただうぬらを抑えに来ただけよ。》と、首を上げて尻尾を下へと向けた形になった。《話は終わりぞ。後は公青に申すが良い。》

翠明は、ハッとして近くの上を見た。

そこには、公青が軍神達を背に、見慣れぬ甲冑を着て浮いていた。


その少し前、箔翔は、必死にかかって来る軍神達を斬っては捨てを繰り返していた。確かに気は弱く、まるで軍に入りたての新兵を相手にしているかのようだ。だが、それでも技術はあった。ちょこまかと回りを飛び回る軍神達を、何とかしようと気を放ってまとめて消してみたりと、試してはみるが次から次へときりが無かった。

それでも、炎嘉や維心は一人50万も相手にするのだ。

箔翔はそう思って、疲れて来て腕を回すのも重くなりながらも、必死に対峙していた。

しかし、そこに隙が出来た。

「隙あり!」

一人の声でハッと刀をそちらへ振ったが、その後すぐに回りの軍神達が我も我もと箔翔に太刀を向け、箔翔は刀一本では受けきれなくなった。咄嗟に気を放ったが、すぐにまた新しい軍神達が群がって来る。

このままでは、もたない。

箔翔は思った。今のは、危なかった。弱くてもこの数が自分ひとりに掛かって来るのだ。とてもさばき切れない。

再び新手の軍神達が目の前を囲み、箔翔が重い刀を上げようとすると、急に辺りに激しい風が吹き付けた。これが気の圧力だと悟った箔翔が顔を上げるより先に、回りの軍神達は一斉に落ち、残りの軍神は慌てふためいて四方八方へと転がるように飛び始めた。

《何を遊んでおるのだ、箔翔。》炎嘉の声が言った。《確かにいろいろ試してみよとは言うたが、時が掛かって仕方がないわ。維心が焦れておるゆえ、もう終いにして戻るぞ。》

箔翔は、炎嘉が龍身を取るのは初めて見た。やはり、世を二分していただけあって、大きな気。自分にも、父譲りの同じような気があるのに。

「我も」箔翔は、見る間に大きな金色の鷹へと姿を変えた。《王であるのに!》

今まで箔翔の回りをどうにかして討とうとして遠巻きに取り巻いていた軍神達も、本性へと変化したその体から発しられる気に、一目散に逃げ出して行く。箔翔は、目を光らさせて気を発した。

《雑魚共が!思い知るが良いわ!》

炎嘉が慌てて言った。

《こら、皆殺してしもうたらならんと言うに!》

しかし、箔翔の気は必死に逃げる軍神の、いくらかは一瞬にして滅してしまった。後には、何も残らぬほどだった。

それを見た他の軍神達は、目に付いたらならないと思ったようで、我先にと森の中に飛び込んで、木々の隙間を必死に逃れて行くのが分かる。炎嘉は、言った。

《ほんにもう、我を忘れてはならぬ。気が全く違うのであるからな。それに鳥や鷹は、すばしこく動くことが出来よう。あやつらなど、ひとたまりもないのだ。》

箔翔が、ためらいがちに炎嘉を見た。

《…初めてこの姿で気を発したゆえ。加減がわからなんだ。》

炎嘉は、頷いた。

《もう分かったの。とにかくは、維心の所へ。こちらへ来る途中、志心が主を気にしてこちらへ向かおうとしておったゆえ、先に維心の所へ行っておれと申しておいた。あちらへ行っておるはずぞ。》と、ふふんと笑った。《それにしても、箔炎そっくりぞ。どこか赤いような、金色の鷹。懐かしいことよ。王だけが金色なのだぞ?知っておったか。》

箔翔は、炎嘉について飛びながら首を振った。

《知らなんだ。皆あまりこの型にはならぬから。》

炎嘉は、頷いた。

《知っておくが良い。そして、時にその姿で脅して敵を去らせることも覚えよ。本性では気が全開になるゆえ、脅すのに最適なのだ。いちいち個を相手にしておったら時がもったいないぞ?あんな雑魚を。》

箔翔は、頷きながらも、自分の不甲斐なさに恥ずかしいと思っていた。もっと、学ばなければ…。

炎嘉は、それを微笑ましく思いながら見て、横を飛んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ