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戦場3

炎嘉が、嬉しげに言った。

「おお、久しぶりに暴れようぞ。数が多いゆえ、好きにして良いぞ、箔翔。いろいろ試してみると良い。気だけで戦ってみても良いし、刀を交えてみても良いし、一気に数十騎と戦ってみたり、己の気がどれぐらい広がるか試すなら、そら、塊で居る軍神に向かって思いっきり気を放ってみよ。さすれば面白いほど落ちて参るから。」

箔翔が、戦場をそんな風に使うなど、と思って戸惑っていると、維心が言った。

「まあこんな場でなければいろいろ試せぬからの。己の軍神を殺してしもうてはならぬしな。戦場で敵はどうせみんな殺すのであるから、この機会にいろいろ試すが良い。我は戦場でほとんどを学んだからの。」

志心が、二人を見た。

「昔はそうであったわな。実戦で学んだのは我も同じ。」と、志心は降り始めた。「では我はあっちの我が宮に近い方を掃除して参るゆえ、箔翔はそっちの樹籐の宮に近い方を頼む。」

箔翔は、驚いて志心を見た。

「一人で参られるか?」

志心は、同じように驚いた顔をした。

「何と?そっちはたかが10万ほどぞ?こっちもそう。あっちの多い方は維心と炎嘉に任せようかと思うて。」

炎嘉が笑って言った。

「50万ずつだぞ、維心。主はすぐに焦れて一気に滅しよるからのう。我にも残せ。」

維心は、ふんとそちらへ向かって飛んだ。

「ちんたらするのは性に合わぬ。まあ雑魚は撤退させるつもりで脅してやろうぞ。」

炎嘉は、慌ててそれを追った。

「こら、それがいかんのだ!」

それを見送ってから、志心が言った。

「軍神を連れて参るか?確かに初陣で一人は心もとないか。それとも、我とこっちをやってから、あっちへ向かっても良いがの。」

箔翔は、首を振った。

「いや。一人で参る。」

そう言うと、箔翔はそちらへ向けて飛んで行った。志心は気になったが、とにかくは自分の方だと南西の結界外へと向かった。


維心が振り分けられた側の領地結界外へ到着すると、驚くほどの数の軍神が一心不乱に結界を攻撃していた。その顔からは、悲壮感が漂っている。維心は、フッと笑った。

「これはこれは…馬鹿者共が。なぜに公青を恐れるのならこのようなことを。戻るとは思わなんだのか。」

炎嘉が追い付いて来て、それを見下ろした。

「そんなものよ。神の王は己が天下を獲る事しか考えておらぬ。まさかと思うたのではないか。我とて公青のように戻る判断はせなんだであろうし、自業自得とある程度殺されるまで放って置いたであろうからの。いくら己の一族でも、許す事など出来ぬわ。」

維心は、頷いた。

「ではやるかの。塵を払うようなものよ。」

維心が手を上げると、月から声がした。

《お待ち下さい!》維心はビックリして空を見た。その声は続けた。《どうか、追い払うだけに。軍神達は王の命に従っておるだけですわ!今はただ、自分の王を助けたいだけなのですから!》

維心は、眉を寄せた。

「維月、また甘い事を。戦なのだぞ?殺しに来ておるのだ。弱い者には己の分を弁えるよう、思い知らさねばならぬ。数で我には勝てぬとの。」

すると、十六夜の声が言った。

《お前の考え方もやり方も知ってるが、後は公青がやる!ここはお前の領地じゃないだろうが!あいつらも馬鹿じゃねえ。お前の気を見たら一目散に逃げ帰るから!》

維心は、ため息をついて、炎嘉を見た。炎嘉は、面白く無さげに口を尖らすと言った。

「どうせ気が変わったんだろうが。主は維月の言う事に逆らわぬからの。」

維心は、炎嘉を見て笑った。

「気が変わったのではないわ。」と、見る見る龍身へと変化した。《始めから我は脅すと言うておったではないか。》

一気に、維心の大きな気が開放されて周囲を圧倒した。遥か上空なので地面から遠く離れているにも関わらず、その気の圧力で回りの山の木々が大きくしなっている。突然に出現したその強大な気に、100万の軍神達は一斉に上空を見上げた。

「己だけいい格好をしよってからに。」と、炎嘉もするすると龍身を取った。《我は龍身はあまり好きではなくてな。鳥の方が動きやすいからの。》

《文句を言うでないわ。》

維心は言って、下を見下ろした。眼下の軍神達は、維心の、見たこともないような大きな気に恐れおののき、今まで結界を破ろうとしていたのさえ、忘れたように愕然と空を見上げている。

維心は、ぐんと下へと降りた。近付くと更に大きいその姿に、押されるように皆がぼとぼとと地上へと落ちるように着地した。

《雑魚共よ。》維心は、念の声で言った。その声は、深く低く、遠くも近くも関係なく皆の身に痛いほどしっかりと響いた。《我は龍族の王。我が血族に繋がる王に、仇名す輩はうぬらか。》

軍神達は、龍を実際に見たのは初めてだった。それが、龍王であるなど、考えられないことだった。

皆ががくがくとただ震えて動けずに居るのを見て、炎嘉はイライラとしていたが、スッと維心の前に出ると、大きく口を開けて吼えた。

《去ね!!》

地面が轟くほどの声だ。それを合図に、軍神達は一斉に蜘蛛の子を散らすように飛び散って行った。それを見送りながら、炎嘉は龍身のまま大笑いした。

《はっはっは!!どーよ!面白いのー!!》

維心は呆れたように言った。

《子供じみたことを。まあ、逃げ帰ったし良いか。戦うのが性である軍神が、良いざまよ。》

炎嘉は、維心を見て言った。

《しようがないわ。それでなくとも龍など見たこともないやつらが、最初に主と我を見てしもうたのであるぞ?心の準備ぐらいさせてやれば良かったのに。》

維心は、ちらと炎嘉を見た。炎嘉の龍身はあまり見ることがない。滅多に龍身を取らないからだ。自分とて同じなのでそれは分かるが、炎嘉は龍には珍しい、赤みがかった色で、全体に金粉を振ったかのように、金色の鱗がついていた。何しろ鳥であった炎嘉なのだから、変わった色にはなると思っていたが、本当に見たことのない龍だった。

《…何ぞ、その姿は。龍にはあるまじき派手な色合いになりおって。》

炎嘉は、心外な、という顔をした。

《好きでこうなのではないわ。我だって龍になど転生したくなかったのに、こうなってしもうた上、こんな色だったのだから仕方があるまいが。我だって、主のような青黒い色の方が良かった。維月は暗い色が好みだと聞いたし。》

拗ねたように言う炎嘉に、月から声が響いた。

《まあ炎嘉様。とても美しい姿だと思いまするわ。珍しい色、見たことがないこと。炎嘉様らしい華やかな色合いでございますわね。》

炎嘉は、ぱっと表情を明るくすると、月を見上げた。

《おお維月!誠か?ならば我は年中この姿で過ごすかの。》

すると、呆れたような十六夜の声が言った。

《こらこら、今どこに居ると思ってるんだよ。戦場だぞ?そんな話は後、後!それより、箔翔の方を見に行ってやってくれ。あいつは、気は大きいが技術が未熟だろう。志心は問題なく脅していくらか始末した後他を逃走させることに成功していたが、箔翔は数騎に囲まれていちいち相手してるぞ。あれじゃあ体力がなくなっちまう。》

炎嘉は、慌てて維心を見上げた。

《おお、忘れておったわ。我が行って参るゆえ、主はこの辺で睨みをきかせておけ。》

維心は、まだ何か言いたそうだったが、頷いた。

《維明より未熟であったのを忘れておった。頼んだぞ、炎嘉。》

炎嘉は、龍身のまま、一瞬で飛んで消えて行った。維心は、ため息をついて下を見た…領地の結界の中では、維心の姿に恐れおののきながらも、公青の結界に阻まれて逃げ出すことも出来ずに居る軍神達が、じっと木々の間や岩の影から見上げているのが見えた。維心は、退屈しのぎにいちいちそれらの気を探って、翠明というのはどんなヤツかと興味本位で探していたのだった。


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