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戦局

樹籐は、本当に目と鼻の先で行われている合戦に、警戒して軍神を配置していた。今は返してもらったとはいえ、公青には娘が嫁いでいたことがあるのだ。同盟を結んでいると、こちらにまで火花が散ることも考えられなくはない。

そんな樹藤の島は、突然に維心、炎嘉、志心、箔翔を迎えることになり、宮はぴりぴりとしていた。言わずと知れた、此度の戦の防衛の砦になるのだろうと、樹藤には分かっていた。ここが、あちらの地の神の宮の中で一番公青の地に近いからだ。

炎嘉が、真っ先に入って来て言った。

「よう娘を取り返しておったことよ、樹藤。でなければ今頃は人質として見捨てねばならぬところ。もしくは主が我らを謀らねばならぬところであったわ。」

樹藤は、軽く会釈した。

「だが、隼という王は分かっておったであろうに眞子も翠明に返した。なので、そうはならなんだかと思う。どうやら、あれは大変に実直な王らしい。」

維心が入って来て、言った。

「起こらなんだことは良い。それよりこれから起こる事ぞ、炎嘉。無駄口を叩くために来たのではない。」

それを聞いた炎嘉はふんと鼻を鳴らしたが、何も言わなかった。志心が入って来て、たしなめた。

「内輪もめしておる場合ではない。とにかくは備えておかねば、直にあちらは落ちようほどに。今結界が激しく攻撃されておる。公青が言うように、10日もつのかも疑問ぞ。」

維心が、椅子に座りながら言った。

「公青が言ったのは、宮が落ちるまで10日。結界が破れるのはもっと早いはずだ。次は宮の結界であるが、そちらに少し時間が掛かろう。それで10日と申しておったのだ。我の見たところでは、領地の結界はあと1日もてば良い方よな。」

箔翔が、息をついた。

「我が軍神達も、上空から遠く監視しておるが、同じように申しておった。それほど強い結界でもないし、攻撃の力もそれほどではない。数が多いだけよな。」

炎嘉が、頷いた。

「その通りよ。その数が面倒なのだ。それに、何をして来るかまだ分からぬ。翠明とやらのこと、主は知っておるのか、樹藤。」

樹籐は、頷いてぐるっと輪になって座った王達を見た。

「知っておる。二、三度公青の宮で見掛けた程度であるが。目つきの鋭い、若い王であったわ。確か今はまだ400に届かぬぐらいかの歳であるはず。」

炎嘉は、ほほう、と笑った。

「若いの。この今生の維心と同じぐらいではないか。」と、維心を小突いた。「主、同年代の好で話をつけて来ぬか。」

維心は、あからさまに顔をしかめた。

「あのな、我が何を話すと申す。我は主のように饒舌ではないわ。何か話すつもりであるなら、主が参れ。良いように言いくるめられるであろうよ。」

志心が、呆れたように言った。

「もう良い。真面目に話すのだ。」と、樹藤を見た。「して、こちらはどんな状況か?」

樹籐は、志心が居て良かったと思いながら、頷いて言った。

「西の宮の方はこちらには見向きもしない。しかしこちらに一番近い安芸の宮と甲斐の宮の軍神が、ちらほら偵察に来ているのを気取っている。やはり、こちらの地への足掛かりにこの島をと目論んでおるのは確かなようぞ。」

志心が、顔をしかめた。

「我が宮の方にも、近付く気配を感じたからの。だが数機で、おそらくあれは翠明の所の軍神であろうな。我の結界の力を見に参ったようだったの。すぐに退いたわ。」

炎嘉は、鼻で笑った。

「志心に敵うものか。伊達に序列最高位なのではないぞ。」

志心は、苦笑した。

「我に敵わぬというのなら、主や箔翔、まして維心には全く敵わぬということであろう。こちらへ侵攻など、本気で考えると思うか。」

維心は、しかし険しい顔を崩さなかった。

「真正面から来るとは限るまい。」と、炎嘉を見た。「姑息な手を使って来るやもしれぬ。」

炎嘉は、頷いた。

「面倒よな。片付かぬ。どうしたものかの…どさくさに紛れて一気に攻め滅ぼしても良いがの。」

面倒そうに言う炎嘉に、箔翔はさすがに内心仰天していた。軍神だけでも200万なのに、その島を全て攻め滅ぼすのか?

維心は、ため息をついて、頷いた。

「まあ、それは最終手段ぞ。いよいよ面倒だと思うたらそれでも良い。だがしかし、とりあえずは残す形で考えようぞ。」と、樹藤を見た。「我らの宮より3000ずつの軍神を連れて参っておる。ここへ駐屯させる。主の宮、及び志心の宮までを守る任に着かせることとする。いよいよとなれば、我らが出て参る。案ずるでない、ここは落ちぬ。」

樹籐は、ホッとしたようにうなずいた。

「安堵した。では、そのように。」

維心が、腰を上げた。

「では、一旦は志心の宮へでも参るか。」

するとその時、一斉に皆が西を見た。箔翔は、その瞬間を初めて感じた…結界が破られる時、あのような音と衝撃がするのだ。

「…1日もたなんだか。」

維心が言った。炎嘉が頷いている。箔翔は、その結界が破られた瞬間を初めて間近に感じて呆然としていた。志心が、言った。

「残りは宮の結界のみ。だが、隼自身今の衝撃である程度傷を受けておろう。手伝っておった軍神もぞ。宮はどれほど持ちこたえるものか。」

樹籐が、西の方角を見ながら言った。

「あのようなことがあったとはいえ、我は隼は嫌いではないのだ。実直で真面目な忠実な軍神であった…気が大きかったばかりに、あのようなことになって。出来るなら、どうにかしてやりたいと思うもの。」

維心は、それを聞いたが背を向けて歩き出した。

「では、我は志心の宮へ一旦退く。全ては翠明や他の神がこちらへ侵攻して参った時のためぞ。それまでは手を出さぬ。」

維心は出て行く。炎嘉も、それに続きながら言った。

「主の気持ちは分かるが、我らは別に西の島の誰にも思い入れなどない。我らが案じるのは、こちらの平穏な日常が脅かされることのみぞ。事情は分かるとはいえ、己の王を殺そうとした輩が当然の報いを受けておるのだからの。主も変な同情心など捨てて、今は己の民のことだけを考えるが良いぞ。」

樹籐は、頷いたが下を向いた。その通りでも、それでも納得出来ない感情もあった。だが、この状況では己の島を守ることを考えねばならないのだ。


隼は、自分の結界を破られた衝撃をもろに受けて、玉座から倒れた。慌てた軍神達と相良達数人が、急いで助け起こした。

「王!」

隼は、必死に正気を保とうとした。今気を失ったら、宮の結界まで消失してしまう。全てを失う!

「王!王、お気を確かに!」

相良が、必死に叫んでいる。隼は、ゆっくりと身を起こした。

「…大事ない。後は、宮の結界のみぞ。こちらは狭い範囲であるし、そうそう簡単には破らせぬ。」と、自分を支える軍神を見た。「民の避難は?」

軍神は、言いにくそうに言った。

「は、宮に仕えておる者の家族などはすぐに終えておりましたが、他の民は…。まだ、宮の結界外ではないかと。」

隼は、歯軋りした。民を守れなかった。恐らく今頃は、外で安芸の軍の襲撃を受けているのだろう。今の自分には、ここを守るだけの力しかない。

「籠城するより他ないとは。歴代の王が造り上げられた、この宮しか我らを守る術が残されておらぬ。」

相良は、しかし暗い口調で言った。

「…まだ、有りまする。あの書状さえ、届いておれば。」

隼は、驚いたような顔をした。

「書状?龍の宮にか。維心様は来ぬ。助ける謂れがないだろう。」

相良は、首を振った。

「いいえ、月の宮でございます。」

隼は、言葉を詰まらせた。

「何だって…王に…?」

相良は、険しい顔で頷いた。

「我が命、そして我ら重臣の命を懸けて願い出申した。聞いてくださるとは思うておらぬ。しかし、もしやに賭けたのでございます。一族存続のためには、公青様の力無くしては無理なのです。」

隼は、絶句した。王…王は、我らをお助けくださるのか。仙術などという卑怯な手を使ってまで、殺そうとした我らを。

「…王を殺害しようとしたのに。しかも、あのような卑怯な方法で。」

相良は、頷いた。

「元より承知。恥を忍んで助けを乞いました。我ら重臣の命と引き換えに、どうか一族をお救いくださいと。公青様にとってはどうでも良い事かもしれぬ。だが、我らを罰しようと気まぐれに来てくださるやもしれぬ。我は…この宮を、一族を守りたいのです。」

隼は、黙って背を向けた。我を信じて託してくださった王座を、我だけの力ではもはや守りきる事が出来ない。安芸には負けぬ。だがこのあとにまだ、定佳も、翠明も…ここに、あやつらを座らせたくはない…!

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