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開戦

隼は、眉を寄せて空をじっと見つめていた。やはり、安芸が出て来た…恐らく、他の宮に先を越されるのを嫌ってのことだろう。安芸は短気で気性の荒い王だった。

「王、10万でこちらへ向かっておりまする!」

隼は、もはや甲冑を来て座っていたが、頷いた。

「我が結界が幾日もつか分からぬ。結界まで到達する前に数を減らさねばならぬ!出る!」

「は!」

一万の軍神達は、隼と共に一斉に宮を飛び立った。残りは、三方へ分かれて結界の守りに向かう。他の王が、これに便乗して来ないとも限らないからだ。

飛んで行きながら、隼はふと、北東の方を見た。我が王のおわす場所。見ておられるか…。

結界を抜けるとすぐ目の前には、10万の軍隊が闘気を上げて向かって来るのが見えた。真っ直ぐに、この結界を狙っている。

「行け!!」

隼は叫んで、先頭切ってその軍神達に飛び込んで行った。仲間の軍神達は、それに続いた。

そうして、安芸の軍と隼の軍がぶつかり合った…開戦の瞬間だった。


その、質素でありながら頑強な宮で、その王・翠明は言った。

「そうか、動いたか。」と、ふんと鼻で笑った。「相変わらず馬鹿なヤツぞ。己で一気にかたをつける気であろうが、そんな能力はあれにはない。まあ、いくらか消耗はさせてくれるであろう。我が警戒しておるのは、安芸より定佳よ。あやつが討って出たら、我らも時を置かずに出る。定佳にあの宮を落とされて篭られては、厄介なことになる。時が掛かろう。」

軍神が、頭を下げた。

「は、王よ。しかし定佳様の宮でも、こちらの動きは気にしておる様子。あちらは戦場で我らと会いたくはないようでございまするな。」

翠明は、ニッと笑った。

「それはそうよ。我に敵わぬことは知っておるからの。我の隙をついて、先に宮を押さえてしまおうとしておるのは、安芸と同じ。だから我は、こうして甲冑も身に着けずにのんびりと過ごしておる風なのではないか。気取られては、あれを動かせぬだろう。あれには、しっかり思い知らせねばならぬ…それには、戦場で対峙するのが一番ぞ。我の下へ下らせて見せるわ。」

軍神は、また頭を下げた。

「では、我は再び偵察に。」

翠明は、厳しい顔つきで頷いた。

「頼むぞ。」

そうして、それを見送った。すると、脇の戸から女が一人入って来た。

「お兄様…公青様の宮へ行かれるとは、事実でありまするか。」

翠明は、振り返って面倒そう手を振った。

眞子(まこ)。何を言うておるのだ、あれはもう公青の宮ではないわ。己があれに捨てられたのであろうが?龍の王族の小娘に。」

その眞子と言われた女神は、少し顔を赤らめたが、それでも言った。

「良いのです、我も別にそんなことを期待して嫁いだのではありませぬもの。お兄様から急に決められたと言って、持って来られた政略の婚姻。我はそれでもあちらで、大変に好き勝手させてもろうておりました。それなりに、我は楽しんでおったのです。あの宮には、我に長く仕えてくれておった、侍女達も居ります。それを…まさか、殺してしまうのではありませぬわね。」

翠明は、横を向いた。

「知らぬ。我が侵攻せずとも、今は安芸が出ておるようであるわ。戦であるぞ?そんなことまで知らぬわ。」

眞子は、顔色を変えた。

「安芸様が…ならば、今頃…。」

翠明は、ため息をついた。

「いつまで己の宮だと思うておるのだ。主は里へ帰された妃。まして王はもう居らぬ。失脚したのだぞ?」

眞子は、涙を押えてくるりと兄王に背を向け、足早にそこを出て行った。翠明は、ため息をついた。公青を押えようと、あわよくば妹が生んだ子を次の王座に就けて、ゆくゆくは思い通りにしようと思ってのことだった。人質だとは思っていなかった…なぜなら、自分が中央の宮を取るためなら、妹の命も厭わないと思っていたからだ。

しかし、公青は全く眞子には通わなかった。当然のこと、子供も出来ず、翠明の思惑はすっかり外れてしまった。

そこへ降ってわいたかのような公青の失脚。翠明は、これを逃してなるものかと思っていた。絶対に、あの遥か高みにある中央の宮へ、我は君臨する。


隼人は、思ったより楽に敵の軍神達を始末していた。いつもなら先頭切っているはずの安芸の姿がない。それは、恐らく安芸が慎重になっているということだ。千載一遇の機なのは、あの短慮な安芸にも十分に分かっているようだった。

それでも、敵の軍神の数は凄まじかった。こちらの軍神がいくら優秀でも、数には敵わない。最初は押しているようだった味方の軍神達も、段々と疲弊し、数が減り始めた。

「…一旦、退け!」

隼は叫んだ。

軍神達は驚いたように隼を見たが、それでも隼について結界内へとなだれ込んだ。結界外では、敵の軍神達が、結界を破ろうと気を放っている。隼は、言った。

「これ以上は無駄にこちらの数を減らすだけぞ。主らには、我が結界を維持するために、力を貸してくれ。宮の結界と二重であるので、どうしても外側が薄くなる。民が案じられる。」

軍神達は、頷いた。結界…この調子であれば、もって10日か。外の軍神は僅かでも減らした。後は、何とか籠城するよりないのか。しかし、その後はどうなるのだ。

それでも、軍神達は必死に結界を強化して気を放った。妻を子を、親を守らねばならぬ。その為に、公青様を王座からおろしたのではなかったか。それなのに、今はもっと危険な状況に家族を置いている…まさか、こんなことになるとは!


相良は、宮からじっと結界を見上げていた。結界外では、激しく火花が散っている…どこまでもつのか分からない、隼の結界を攻撃しているのだ。

相良は、考えていた。自分は、間違っていたのだろうか。長く続いて来た宮が、公青の代で終わって龍の傘下に下るのだと思った。龍王が統治する地との、交流を考えた初めに、反対すればよかったのかとその時思った。だが、違った。公青は先を見越していた。この島には、未だこうしてこの中央の宮を目指す王達が居る。隙あらばと狙っているのは、相良も知っていた。だが、王の力を恐れて、誰も蜂起などしなかった。だが、いつか公青が居てもこうなる時が来るやもと、公青には分かっていたのだ。だからこそ、龍王の地との交流を進め、そこでの力も付けようと画策した。結蘭を龍王にとあれほど推し進めたのも、龍王という後ろ盾が欲しかったからだった。

相良は、息をついた。龍が妃で良かったのではないか。子が龍であっても、侵略されて皆殺しにされるよりは良い。龍王が後ろに着けば、少なくとも一人の死者も出なかった。今、報告を受けているだけでも2000以上の軍神が命を散らしている。このままでは、我が一族は、滅びる…。

相良は、涙を流した。月の宮に居るという、王。公青は、これをどう見ているのだろうか。愚かな奴らと笑っているのか、それとも少しは、案じてくださっておるのか…。

相良は、涙を流した。王、公青。王は確かに、その存在だけで自分達を数多の危険から守っていたのだ。そんなことに気付かず、殺そうとまでした。もう、とても許してはくれまい。

結界が、チカチカと瞬いている。このままでは、数日…いやもっと早いかもしれぬ…。

相良は、絶望の中、筆を握りしめた。しかしこの戦場の中、使者がこの囲みを抜けられるとは、思ってはいなかった。

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