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西の宮

隼は、半ば無理矢理に就かされた王座に座り、空を見上げていた。隼の家系は、代々軍神で、ずっと筆頭として公青の血筋の王に仕えて来た。

公青は、老いが止まって若く見えるがもう700歳を過ぎており、300歳の隼が生まれた時には、もうとっくに王だった。幼い頃から、父について王を敬って生きて来た。王の見たことも無いような力に憧れ、それに近付こうと努力し、そうして父が亡くなった時当然のように筆頭に座った。父譲りの気と、持ち前の勤勉な性格とで、その地位を勝ち取ったのだ。

今まで、王の決定に不満を持ったことなど一度もなかった。王がそう言うのならそうなのだと、信じて疑わなかった。奏を正妃にと聞いた時も、王は何かお考えがあってそうなさるのだと隼は少しも疑問を抱かなかった。それなのに、ある日極秘に行なわれた会議の席に隼も呼ばれ、相良他重臣達に囲まれて、一族のためどうしても王になれ、と告げられた。それは、もう決定事項なのだと言った。隼は、戸惑った…そんなことが、許されるはずがない。自分の気や能力が、あの王の足元にも及ばないのは自分自身が一番良く知っている。

しかし、隼の意見など誰も聞いていなかった。果ては軍神達に至るまで、己の家族を龍の奴隷にせぬためと、重臣達に言いくるめられ、全て相良側についた。

そうして、結納の儀で宮を開けたその時に、実行することが決まったのだ。重臣達は、しっかりとした策を立てた。さすがに知恵を持っていて、古くからの巻物の中に人の仙人が使っていたという術を見つけ、それを使うことを考えた。普通に戦って、公青に勝てるなど誰も思っていなかったからだ。

しかし、奏を守ろうとする公青に、仙術を合わせればいくらなんでも倒せるだろうというのが、皆の意見だった。隼は、ずっと敬って来た公青を弑するなど、考えられなかった。皆が何かに憑かれたように、王を生かしておいては宮を龍と共に取り戻しに参って、皆殺しにされる、と信じていた。

隼は、仙術を学ぶと言って、その巻物を必死に読んだ。どこかに、術を退ける方法があるはず。しかし、どうやって皆に知られずそれを王に知らせたらいいのだ。いっそ、人が持つ守り袋のようなものが作れたらどんなにか…。

そうやって探していて、隼はあの身代わりの術を見つけた。自分の気を小さな玉にして、それに術を掛ける。しかし、それを持っていても、術を避けられるのはただ一度だけ…。

隼は、公青の能力に賭けた。自分が命を懸けて仕えて来た王。例え奏を背負っておろうとも、きっとそれで生き延びてくださるはず。

隼は、その玉を作った。そして、自分が王座に座るなら直接に王と対面して譲位してもらうと相良に言い、さもやる気があるように装った。

そして、公青から腕輪を受け取った時、その玉を着物の袖へと滑り落としたのだ。

公青は、今では奏と月の宮で落ち着いた暮らしぶりなのだと聞く。生きていてさえ、居てくだされば。

隼は、心の底から思っていた。

相良が、入って来て頭を下げた。

「王。最近は、結界が心もとないのではと、臣下達も不安に思っておりまする。どうなさったのかと。」

隼は、相良を見た。

「我は王の血筋ではない。我の結界が、公青様と違うのは当然のことではないか。わかっておって、こうしたのではないのか。」

相良は、慌てて手を振った。

「そのようなつもりで申したのではありませぬ。あの、回りが煩くなって来たようですので…。」

隼は、眉を寄せた。公青が居なくなってすぐ、回りの宮は結界の気配が変わったのをすぐに感じ取った。そして、水面下で動き出したことは、軍神達からの報告で知っていた。それが、最近になって堂々と同盟を結び始め、今では島の中心から少し東にぐらいにあるこの公青の広大な領地を囲むように、四人の王が台頭し始めた。その回りの宮はそれぞれの王につき、最近ではこの西の宮の指示通りに動かないことの方が多かった。中心にある公青の領地の北西には定佳(ていか)、南西には翠明(すいめい)、北東には安岐(あき)、南東には甲斐(かい)とそれぞれに使者を放って己の宮へつく者を募ったらしい。どの王も、隼より気が少し大きいか、それとも同じぐらいだった。つまりは、隼が王座に就いたとみるや、自分でもこの島を統治することが出来ると踏んで、四人が一斉に動いたのだ。

特に、南西の翠明は大変に優れた王だった。公青ですら、面倒だと時に言っていたほどだった。しかし、絶対的な公青の気と能力に、黙って従うよりなかったのだ。実際、80の宮のうち50ほどは既に翠明についたのではないかと思われる。隼は、相良をじっと睨むように見て、言った。

「それもわかっておったであろう。我など、他の宮の王達と差ほど変わらぬ気。公青様であったからこその、宮の繁栄であったからの。これからは、あのかた無き宮をどこまで守れるかぞ。戦になる。それで勝ち残らねば、我らは宮を失う。ここは、皆が目指す宮。四方から一度に来られて軍神達が守り切れるかと言うと、疑問ぞ。ここは三万。外には200万近くの軍神達が居るのだ。主は文官であるから。これがどれほど絶望的な数字であるか分からぬかの。」

しかし、相良にはわかっていた。ここは、島の中央。ひときわ大きな宮と領地だったのは、初代王から続く大きな気がこれ見よがしに結界で周囲に知らされていたからだった。それを失えば、ただ周囲を敵に囲まれた大変に不利な宮。皆が、ここを我がものとしようと、やって来る…。

「援軍を!王、あちらの王達に、どうか援軍を要請してくださいませ!」

隼は、首を振った。

「それが出来る立場か。己のしたことを考えよ。龍の王族を娶った王を弑しようとした上、それを人質にしようとしておったのは、月の宮で公青様の口から知れ渡っておろう。龍王が、それを助けようとすると思うか。他の宮の王も、皆龍に準じておるのに我らを助けようとするものなど居らぬ。龍王の勘気を被ったらたまらぬからだ。それでもと申すなら、一度書状を遣わせてみるが良い。」と、相良をじっと見た。「我は最後まで戦うがの。そのつもりでここに居る…譲歩して命乞いなどして、宮を明け渡すつもりなどない。皆にもそのつもりで居るよう申せ。」

隼は、背を向けて、再び空を見上げた。結界の外が、騒がしい。ずっと見て来たが、最近では活発になって来ている…恐らく、そろそろ誰かが仕掛けて来る。それが定佳か、翠明か、はたまた安岐か甲斐か分からないが、気性から考えて、最初は安岐。そして、定佳。後に翠明が出て来て、一気にかたをつけようとするだろう。甲斐はいつでも、最後まで状況を見守る性格。そうやって、この宮は落とされるのだ。ただ自分は王として、最後までここで宮と民を守るために全力を尽くす。我が王公青様が、我に託したこの王座なのだから。


蒼は、今日も公青と共に政務をしようと居間で来るのを待っていた。しかし、公青はいつもの時間になっても来ない。

なので、途中まで迎えに行くかとぶらぶら歩いて行くと、公青が一人じっと回廊に佇んで、西の空を見ていた。いつもの事なので邪魔はしたくなかったが、約束の刻限が過ぎている。蒼は、思い切って声をかけた。

「公青?ここに居たのか。」

公青は、ハッとしたように蒼を見た。

「ああ…蒼。時間を過ぎてしもうたの。」そして、下を向いた。「もう少し、時をもろうて良いか。考える事があっての。」

蒼は、公青をじっと見た。蒼には、公青の何かを案じているような気が感じ取れた。西の宮を思っているだろう時には、必ずこんな気がしていたが、今は強い。蒼は、公青に近付いた。

「公青…西の宮で何かあったか。いつもより強く案じているような…。」

公青は驚いた顔をしたが、フッと笑った。

「そうか、主には隠せぬな。気付いておったか。」

蒼は、頷いた。

「いつもは邪魔しちゃならないと思って何も言わなかったんだが…。」

公青は、頷いて促した。

「主には聞く権利がある。参ろう、居間で話そう。」

蒼は、公青の後に付いて自分の居間へと向かった。西が騒がしいのは、月から気を見て知っていた。しかし公青が退位させられて、回りの宮が動揺しているだけだと思っていた。だが、もしかして…。

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