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反乱

公青は、輿の中で身を硬くした。自分の結界を入ったところから、宮の中がよく見える。宮の到着口には、考えられないほど多くの軍神や臣下達が集まり、待機していた。とても、出迎えるといった雰囲気ではない…僅かに、闘気が感じられる。

公青は、奏を見た。奏は、何も知らない。自分は、奏を得て尚一族を存続させるため、こんな強行な態度を取って来た。そうすることで、皆が自分を王座から追い出し、新しい王を立て、そちらで一族の血を守ろうとするだろうと考えたからだ。そうすれば、自分は王座を失うが、奏は残る。そう考えたからだ。

しかし、臣下軍神達がどう考えたかは分からない。もしかして、自分を消そうと思ったかもしれないからだ。奏は、龍王の手前絶対に命を取られることはないだろう。だが、自分は分からないのだ。確かに、自分には臣下軍神を滅するだけの力があるが、そんなことをするつもりは、なかった。一族を全て消し去るなど本意ではなかったのだ。

「止まれ。」

公青が言い、輿は、ためらうように止まった。奏は、宮の目の前まで来て公青が急に輿を止めたので、どうしたのだろうと不思議そうに公青を見上げる。

「公青様?」

公青は、奏を見た。

「奏。」公青は、その頬に触れた。「厄介なことになりそうぞ。主は、しばし月の宮へ戻った方が良い。」

奏は、驚いて言った。

「月の宮へ?我は…ですがお傍に居たいのです。」

公青は、首を振った。

「直に我も参る。」

公青は、奏を抱いて輿から出た。輿の回りには、軍神達が円を描いて取り巻いていた。その中には、相良も居た。

「どちらへ?宮へ戻って頂かねばなりませぬ。」

公青は、その鋭い視線に、悟って頷いた。

「逃げはせぬ。戻るつもりぞ。しかし、奏を連れ参るわけには行かぬ。主らにしても、これに傷でもつければ龍王に攻め込まれてここは壊滅するぞ。そんなことは望んでおるまい。」

相良は、首を振った。

「それでも、でございます。そちらのかたは大事な人質でございまするから。そのかたが居れば、龍王も宮ごと滅することは出来ますまい。宮へ繋いでおきまする。」

公青は、それを聞いて顔色を変えた。見る見る目がうっすらと光り、それだけで怒っているのが分かる。相良は身震いしたが、それでも言った。

「いくら王でも、そのようなお荷物を手に軍神達を戦うことは出来ますまい。さあ、輿へお戻りを。宮の、到着口へ。」

公青は、奏を見た。奏は、ふるふると震えながら、公青にしがみついている。公青は、確かに今ここで逃げるのは無理だと思った。奏を傷つけたくはない。

公青は、奏を抱いて輿へと戻ると、しっかりと抱きしめた。奏を、人質になどされるわけにはいかぬ。どうにかして、奏を抱いて軍神達の囲みを抜けて、月の宮へと、いやせめて手前の白虎の宮まで向かう手立てを考えねばならぬ!


維心は、ちょうど湯殿から戻ったところだった。突然に来た炎嘉と志心から、慌てふためいて寝間着姿の維月を隠して奥の間に押し込むと、言った。

「急に何ぞ!妃があのような格好で居る時に!」

炎嘉は、それでも遠慮なく椅子へどっかり座った。

「知らぬわ。報国に来ると言うたであろうが。」

維心は、寝間着のまま椅子へ座った。

「動きがありそうだと蒼も帰ったゆえ、ある程度は知っておる。」と、まだ立っている志心に言った。「主も。座れ。」

志心は、炎嘉の横に座った。

「我が軍神が伝えに参った。公青の宮は見張りの軍神すら宮へ引き上げ、一所に留まって公青を迎えていると。何かあれば我が宮へ保護するようにと命を出したゆえ、今頃は我が軍神達は公青の結界境辺りに待機しておるだろう。だが、公青がそこまで来ぬことには、我らも手を出せぬ。領地の中まで入ってしもうたら、治外法権であるしの。」

維心は、眉を寄せた。

「…早かったの。狙っておったのだろう。」

炎嘉は、身を乗り出した。

「我は治外法権など知らぬ。奏が巻き込まれてそんなもの知ったことではないわ。嘉楠にはまさかの時には手段を選ばず公青と奏の保護をせよと命じておったゆえ、先ほど宮へ向かったと報告があった。あくまで忍んでおるので、猛と二人で潜んでおるだろう。どこまで出来るか分からぬが、公青も居るのだから白虎の軍が居る所ぐらいまではなんとかたどり着くだろうて。十六夜が見ておれば、まさかの時にも保護される。月の結界は破れぬからの。」

維心は、頷いた。

「今頃は見ておるはずよ。そのために先ほど戻ったのだからの。だが、十六夜の見える位置に居らねば無理なのだ。月とて万能ではない。」

志心が、ため息をついた。

「我も戻っておるべきであったか。廉邦(れんほう)は優秀とはいえ我の許しなくして何事も出来ぬ忠臣であるから。こういう時、迅速に動けず不自由よな。」

炎嘉が、呆れたように志心を見た。

「いくら若いとはいえ筆頭軍神であろう?もっと臨機応変に動けるように育てぬか。その点、嘉楠は頼りになるゆえな。ただ、我の命だと無茶をしよるから、案じられるのだが。」

すると、奥の間の戸が細く開いて、そこから声がした。

「あの、維心様。ならば、そこへ見に参ってはなりませぬか?奏と公青様が案じられてなりませぬ。」

維心は、慌てて戸の前に立って皆から隠しながら、首を振った。

「出てはならぬ!維月、主が行ってもどうにもならぬから。龍が手出ししてはややこしいのだ。嘉楠なら見つかっても鳥であるのは気で分かるゆえ、炎嘉の軍神だと分からねば問題ない。それより、奥へ入っておれ。炎嘉と志心が居るのに、そのような薄物一枚で!」

炎嘉が、後ろから面倒そうに言った。

「うるさいぞ、維心。そのように細く開けておるだけなのに、中まで見えぬわ。それに我は維月の襦袢姿どころか肌も見たことがあるのだぞ。今更であるわ。」

志心が、息をついた。

「そう言ってしまえば、我とて前世共に休んだことがある。心配せずとも、何かしようなどと我らは思うておらぬから。そのように神経質になる必要はないぞ、維心。」

維心は、くるりと振り返ると、首を振った。

「隙があったら何をするか分からぬわ!とにかくは、我が妃はあのような格好で絶対にここへ出さぬ!」

自分も大概襦袢のままで、表に出るような格好ではなかったが、維心は言い切って後ろ手に戸を閉じた。諦めたのか、維月の気配が戸の前から消える。維心はほっとして、また自分の椅子へと戻った。

「時を待とうぞ。今は公青のことであるからの。」

もはや、炎嘉も志心も面倒になって黙って頷いた。

維心は、険しい顔をして空を睨んだのだった。


十六夜は、月から公青が輿へと押し戻され、宮へと運ばれて行くのを見ていた。

普通なら月から光を放って二人をこちらへ連れて来ることが出来たが、公青と奏は軍神達にぐるりと360度囲まれていて、その間を抜けて光を降らせるのは出来なかった。つまりは、二人と一緒に他の軍神を連れて来てしまうことになり、後々誘拐だなんだと面倒になることを恐れたのだ。

蒼が、同じように月から見ているのを感じた十六夜は、蒼に言った。

《奏を人質と言ってやがったな。つまりは、公青を降ろして奏を地下へでも幽閉するつもりじゃねぇか。》

蒼は、険しい顔のまま頷いた。

「厄介だな。思ってたのとは違う。てっきり奏は里へ返されると思ってたのに。このままじゃ面倒なことになる…が、ここでさらってしまったら、公青が王座を退いてないから、王のまま月の宮へ連れて来ることになってしまって、そうなると、公青帰還の手伝いをすると思われて、あっちが攻めて来る可能性がある。月の宮と公青の宮の戦になるかもしれない。奏が人質だから龍は表立って参戦出来ないし、もっと面倒なことになる。公青は、王座を下りなきゃならないんだ。」

十六夜は、それでも心配そうに言った。

《ああ。隙が出来ても今はあっちから連れて来るのはやめとくよ。だが、公青は命を狙われてる可能性が高いぞ。奏を牢へ繋いで、公青を殺して誰かが王座に就く。公青が返り咲くのを恐れたんじゃないか。》

蒼は、下を向いた。

「…公青は、殺すと判断したのだと悟って、きっとつらいだろうな。臣下じゃないか。ずっと守って来たのに。放逐されると思っていたのだろうに、こんなことになって。」

十六夜の声は、沈んでいた。

《まだ何を考えてるのかわからねぇじゃねぇか。とにかく、オレは見てるよ。》

蒼は、頷いた。

「オレもね。」

そうして、月は空の真ん中へ向けて動いていた。

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