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理由

維心は、維月と共にまったりと居間で過ごしていた。

最近では、ついぞ面倒など起きていない。記憶が戻った維明も真面目に軍ばかりに行っているし、帝羽と仲良くしているようだった。維心には、時に維明が以前の維明のままで、記憶がなくなったのではと思うほどだったのだ。

庭の花々が、居間から遠く見えて色がとても美しかった。維月が、維心の腕の中でうとうととしている様にも、維心は癒された。完全に自分に身を預けて眠る維月の髪に頬を寄せて、その気を心地よく受けていると、侍女の声がした。

「王。蒼様がいらっしゃいました。」

維心は、少し顔をしかめた。穏やかな午後を乱されたのにでもあるが、蒼が来るとまた何か面倒を持って来たのではないかと疑ったからだ。

しかし、維心は言った。

「通せ。」

そして、維月を優しく揺すった。

「維月。蒼が来たぞ。起きよ。」

維月は、まだ寝ぼけたまま言った。

「維心様…朝ですの?」

維心は、相も変わらず目覚めて一発目は同じ台詞を言う維月に笑いながら、答えた。

「いや、昼間ぞ。」そして、どう反応するのかと、更に優しく揺すった。「さあ維月…起きよ。」

維月は、維心の胸に頭を乗せ直して目を閉じたまま言った。

「まだ眠いのですの…。維心様も共に休んでいてくださいませ…。」

維心は、苦笑して維月の耳元に言った。

「そうしたいがの、もう起きねば。維月…無理を言うでない。」

すると維月は、維心の着物間の素肌にすりすりと顔を摺り寄せた。

「そのような意地悪をおっしゃらないで…」

維心は、クックと笑った。寝ぼけている維月は、愛らしい。すると、維心が笑っているのを感じ取った維月は、うっすらと目を開いて、維心を見上げた。

「ならば…目を覚まさせて下さいませ。維心様…」

維月は、んーっと維心に唇を寄せた。維心は、維月に唇を寄せながら、言った。

「何と我儘な妃よ。困ったの…起こせと申すか。」

「あのー。」

維月が、ハッと目を見開いた。維心も、戸口の方を見る。すると、そこに蒼が立っていた。バツが悪そうだが、しかしもう慣れているので、呼びかけたままじっと待っている。維月は、がばっと起き上がった。

「蒼!来てたの?…え、昼?あれ、私はどうしておったのでしたっけ…」

維心が、苦笑しながら言った。

「居間で庭を眺めておったら、主がうたた寝を。我は蒼が来たと起こしておるのに、主がなかなか起きなかったのだ。困った妃よの。」

維月は、赤くなって下を向いた。

「申し訳ありませぬ。あの、朝と勘違いしておりました。」

維心は笑った。

「良い、分かっておるよ。我もおもしろうて思わず相手をしてしもうた。」

維月は、顔を赤らめながら恨めしげに維心を見上げた。

「蒼が来ておるのに…意地悪をなさること。」

維心は、まだ笑ったまま維月の肩を抱いて蒼を見た。

「して、蒼?座るが良い。急に訪ねて参るとは、何かあったのか?」

維月は、まだ少し恥ずかしげだったが、維心に合わせて蒼の方を向いた。蒼は頷いた。

「維心様にはご存知ないかもしれないのですが…あの、こちらは相変らず仲睦まじくなさっておられて結構な限りですが、箔翔のことについて、何かお耳に入ってはおりませんか?」

維心は、意外だったようで眉を上げた。

「箔翔とな?あー、それは、箔翔の所の妃との仲ということか?」

蒼は、ため息をつきながら頷いた。

「はい。先日公青がオレを訪ねて参りまして、維明に聞いても帝羽に聞いても知らぬ存ぜぬで教えてくれぬので、遠回しに聞いてくれないかと頼まれました。」

維心は、維月と顔を見合わせた。

「あれは…確か、数十年前に公青の妹を娶っておったよな。そう言われれば、ついぞ妃の話など聞かぬの。」

維月は、頷いた。

「はい。我らは会うこともないのですけれど、維明なら親しくしておるのですし、知っておるのではありませぬか?」

蒼は、首をかしげた。

「だけど、維明様がオレに話してくれるだろうか。とても口が堅いかただろう?」

維心が、ぐっと眉を寄せた。蒼は、あ、と口を押さえた。そうだった、維心様は維明様を前世の維明様として扱ったら怒るんだった。

維心は、少し機嫌を悪くしながらも、言った。

「…まあ、あやつに聞くなら命じたら良いのだ。皇子であるのだからの。王には従わねばならぬ。我が聞こう。」

蒼は、慌てて首を振った。

「そんな!いいのです、維心様が聞いておられないのなら、オレが直接聞いてみますから。」

維月が、横から言った。

「そうですわ。公青様は、妹君を案じられてわざわざ蒼に聞きに参ったのでしょう。維心様が聞いては、事が大きくなってしまいまするわ。きっと、蒼が頼めば幾らか支障のないことなどを教えてくれるでしょう。維明は、箔翔殿とは友なのですから、知っておることもあるはずですもの。」

維心は、まだ憮然としていたが、息をついて頷いた。

「…では、維明に会って行くが良い。どちらにしろ、我は知らぬからの。」と、維月を見た。「さ、我らは庭へでも参ろうぞ。せっかくに共に過ごす時間があるのだ。他の宮の夫婦仲など預かり知らぬことよ。」

維月は、苦笑して維心の手を取ると、一緒に立ち上がった。

「はい、維心様。」と、蒼を見た。「ではね、蒼。今、維明は訓練場に居るはずよ。」

蒼は、同じように立ち上がって、維心に頭を下げた。

「では、維心様。失礼しました。」

維心は、軽く会釈した。

「良い。ではの。」

そうして、維心は維月の手を取って、庭へと出て行った。

蒼は、相変らずな維心にため息をつきながら、勝手知ったる龍の宮の、訓練場へと向かったのだった。


蒼が訓練場への回廊を歩いていると、そこのガラスから維明が激しく立ち合っているのが見えた。相手は、帝羽だ。

蒼が、邪魔をしてはいけないとそれが終わるまで見守ろうとそこに立ち止まっていると、帝羽の動きはしばらく見ない間にそれは素早くなっていた。蒼は月なので、動体視力が誰よりも良い。なので、二人の動きはよく見えていた。維明は、まだ余裕を残した動きであるのに対し、帝羽は必死に食らいついて行っている感じだ。蒼は、感心してそれを見ていた。前世の維明は、極端に他の神と接しずに静かに生きていたので、立ち合いの技術などは、それほど高くなかったはずだった。なので、記憶を戻したからあの動きが出来たわけではない…あくまで、今生生まれてから取得した技術なのだ。それが、あそこまで上達しているなんて。

帝羽の刀が宙を舞い、地面に刺さるのを見て、蒼はふっと息を付いた。決まった…やっぱり、維明が勝った。

蒼は、訓練場へ向けて足を進めた。

維明が、膝をついて頭を下げる帝羽に、言った。

「よう精進しているではないか。前に立ち合うた時より数段良うなっておるわ。」

維明は、側の軍神に自分の刀を渡しながら笑った。帝羽は、うなだれて言った。

「良うなっておると思っていたのは、己だけであった。もっと精進せねばならぬ。」

維明は、苦笑した。

「おいおい、我に勝とうてか?無理よ、帝羽。我は王になるのだぞ?簡単に負かされておったら、王は務まらぬ。のう、義心よ。」

義心は、微笑しながら頷いた。

「はい、維明様。年々、王の動きに近付いておられるので、心強うございます。」

帝羽は、立ち上がってふっと息を付いた。

「義心殿にも勝てぬのに。王族でもない主が、なぜにそれほどの力を持つのか、我は知りたいわ。」

義心は、ふふんと笑った。

「歳が違うゆえ。簡単に追いついてもらっては困るの。我とて、筆頭の座はまだまだ譲りとうない。」

そこへ、蒼が入って来て、声を掛けた。

「維明。」

三人は、振り返った。そして、そこに蒼が居るのを見て、義心と帝羽は慌てて頭を下げた。維明が、足を踏み出した。

「おお、蒼!いつ参ったのだ、知らなんだ。」

蒼は、微笑んだ。

「今さっき来て、維心様にご挨拶を。時間があるだろうか…話があるのだが。」

維明は、こちらへ歩いて来て、蒼に並んだ。

「良い。我が対へ。」と、義心を帝羽を見た。「我は戻る。」

二人は、頭を下げた。

「は!」

そうして、維明は蒼と共に、維明の対へと向かって歩いたのだった。

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