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異常

公青は、奏を連れて宮へと戻って行った。

それを見送ってから、維心は維月の手を引いて、自分の居間へと歩いていた。その後ろからは、蒼と十六夜がついて来ていた。炎嘉や志心、箔翔はもう、客間の方へと入っていた。

居間へと到着すると、維心は維月と共に椅子へ座り、二人に言った。

「して?何を見たというのだ。」

蒼が答えた。

「あの、公青の臣下達です。」蒼は、急いで言った。「相良もそうでしたが、他の臣下もそうでした。本当なら、奏と公青をあの宮へ帰したくなかったぐらいだ。」

十六夜が、隣りで頷いた。

「真っ黒だった。」十六夜は、思い出して顔をしかめた。「物悲しいような、黒だ。一人残らず。とても結納などめでたい席で見える色じゃねぇ。」

維月が口を押さえる。維心は眉を寄せた。

「では、戻って早々ということもあり得るの。志心が宮へ連絡して、公青の宮を伺うようにしてくれておる。あそこが一番公青の領地に近いからの。炎嘉も軍神を偵察に行かせているようであるし、何かあればすぐに対処は出来よう。」

蒼は、気遣わしげに空を見上げた。

「まだ動きは見えません。ですが十六夜と、今日は宮に戻っているべきではないかと話しております。月の宮は志心様の白虎の宮と近いので、すぐに動けますから。」

維心は、頷いた。

「では、そうするが良い。軍神が少なかったのも気にかかる。宮で何某が謀っておるやもしれぬしな。」

蒼は、すぐに立ち上がった。

「では、戻ります。十六夜は、先に戻っててくれ。」

十六夜は、頷いた。

「ああ。月から見張るよ。」

蒼が出て行くのを見送ってから、十六夜は維月を見て近付くと、抱き寄せた。

「じゃあな、維月。心配すんな。」

維月は、頷いて十六夜を抱きしめ返した。

「ええ。よろしくね。」

十六夜は維月の額に口付けると、光に戻って空へと打ち上がって行った。維心が、それを見上げている維月を引き寄せた。

「全く、遠慮のないことよ。我が居るのに堂々と。これだけは慣れぬの。」

維月は、苦笑した。

「挨拶でございますわ。他意はございませぬの。」

維心は、笑った。

「わかっておる。」と、維月の肩を抱いて、同じように空を見上げた。「良いようになれば良いの。」

維月は、頷いた。だが、不穏な空気は、維月にも見えていた。


少し前、凜は蒼のために龍の宮の中を急いで歩いていた。本来なら客間に滞在するのだが、龍の宮には特別に維心から与えられた蒼専用の部屋があったので、そこの準備を抜かりなくするためだった。

蒼の新しい襦袢を届けるために急いで歩いていると、前から見たことのある姿が歩いて来るのが見えた。それが、箔翔であることに気付くのに時間が掛からなかった…箔翔は、龍の宮の中では少ない金髪だったからだ。

慌てて頭を下げて箔翔が通り過ぎるのを待っていると、箔翔は凜に気付いて言った。

「主、凜か?」

凜は、頭を上げた。覚えていてくださったの?

「はい、箔翔様。覚えておってくださったのですか?」

箔翔は、頷いた。

「我はそこまで物覚えが悪うないからの。」と、気軽に近付いて来た。「蒼の供で来たのか?龍の宮へ参るなど、短期間に主も出世したものよ。」

凜は、苦笑した。

「いえ、たまたまですの。十六夜が気まぐれに私をメンバーに入れてくれたので、来られただけですわ。他の侍女達に叱られはしないかと、びくびくし通しですの。箔翔様は、奏様の結納のお式にご出席で来られたのですか?」

箔翔は、頷いた。

「普通は、結納になど客は呼ばぬのだがの。我も宮でじっとしておるのに飽きておったので、呼ばれたら気軽に出て参った。明日には帰らねば、玖伊がうるさいであろうが。」

凜は、ほほと笑った。

「どちらも同じですわね。蒼様も、あまり長居をしたら翔馬様がうるさいのだと言っておられましたもの。」

箔翔も、声を立てて笑った。

「おお、そうであろうな。維心殿でさえ、兆加がうるさいと申しておった。」と、回りを見た。「そういえば、妹が居ったのではなかったか。あれは、侍女ではないのか?」

凜は、それには困ったように微笑んだ。

「唯ですわね。唯は、父が助けてもらえぬかもと知ってから、学校にも満足に通うことが出来なくなって…結局、屋敷で療養しておりますの。」

箔翔は、顔をしかめた。

「ならば、主は面倒よな。その分蒼に仕えねばならぬだろう。主は、大丈夫なのか?」

凜は、首を振った。

「大丈夫、私は昔から丈夫なのですわ。唯一人ぐらい、何とかなりまする。それよりも、父のことが気になっておって…十六夜も蒼様も、どうにかして下さろうと考えてくださるけれど、それがまたご迷惑をお掛けするようなことになるように思えて、とてもお頼み出来ませぬし。自分で、何とか考えて参ろうと思うております。どちらにしても父はまだ生きておるのですし、あと数年は持つだろうと治癒の者も言っておった。最後まで、望みは捨てませぬ。」

箔翔は、また頷いた。

「ままならぬのが神の世。しかし、何か考えられるやもしれぬ。我も何か思いついたら知らせようぞ。主もがんばるが良い。」

凜は、微笑んで頷いた。

「はい。ありがとうございます、箔翔様。」と、頭を下げてから、手にしていた襦袢を見た。「ああ、これを蒼様のお部屋へお持ちせねばならなかったのですわ。失礼致します。」

箔翔は、会釈を返した。

「ではの、凜。」

すると、歩き出した凜に、他の侍女の声が飛んだ。

「凜殿!王が急遽月の宮へご帰還とおっしゃっておりまする!ただ今軍神達が慌てて輿の準備を!」

「まあ!大変!」

凜は、駆け出した。箔翔は、驚いて振り返った。蒼が、帰ると。何かあったのか。

しかし、その時には凜は侍女と合流し、急いで遠く去って行くところだった。


その頃、炎嘉は自分の軍神の訪問を受けていた。部屋へ帰って、休もうかと寝台へ向かった時だった。

「王。このような時間に申し訳ありませぬ。」

その軍神は、膝をついて頭を下げている。炎嘉は、首を振った。

「良い。して、何ぞ。」

相手は、顔を上げた。

「は。ただ今公青様の宮を遠くうかがっておった嘉楠殿から、宮へ向かうと王にご連絡するようにといわれました。連れて行ったのは猛のみ。」

炎嘉は、険しい顔をした。

「動いたか。」

その軍神は、頷いた。

「は。遠く気配を探っておる間にも、軍神達の気が一箇所に集まって行くのは気取っておったのでありまするが、公青様がご帰還されて、一気に不穏な雰囲気になったとのこと。もしかしての事態を考え、宮に潜入して潜んでおるととのことでありまする。」

炎嘉は、イライラと横を向いた。

「中の様子がそれでは気取れぬの。嘉楠がそれを気取っても、我に知らせる術がない。猛しか連れておらぬのなら、猛を使いに寄越せばあやつ一人になって、何かの時に面倒ぞ。」と、その軍神を見た。「主は戻り、結界外で嘉楠を待て。何かあれば、すぐに我に知らせよ。分かったの。」

その軍神は、深く頭を下げた。

「は!」

そうして、去って行った。炎嘉は、傍の袿をひったくると肩に掛け、すぐに維心の居間へと向かった。

廊下へ出ると、志心が同じような格好で歩いて行くところだった。

「炎嘉!主も、連絡が来たか?」

炎嘉は、志心に頷いた。

「主もか。どうであった?」

志心は、早足に歩きながら言った。

「とにかくは維心に連絡を。そこで一緒に話そうぞ。」

炎嘉は、頷いてすっと浮き上がった。志心もそれに倣い、二人は龍の宮の回廊を僅かに浮いて滑るように維心の元へと急いだのだった。

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