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希望

碧黎は、うんざりしたように言った。

「だから、そんなもの子を作ってみなければわからぬと言うに。確立と言うて、我がそんなことを計算出来るはずもあるまいが。」

それでも、蒼はあきらめなかった。

「一気に解決するかもしれぬのです。碧黎様、公青の遺伝子というのは、強い部類でしょうか。」

碧黎は、ちらと蒼を見た。

「あやつは普通の神。龍でも鳥でもなく、自然に発祥したただ神という存在。なので、他の種族と交われば、弱いやもしれぬの。ただ、あの気はただの神の中では最強であるの。他は皆、鷹であったりいろいろと強い種族であるからこその、気の強さであるから。なので、本当に交わってみないと分からぬのだ。我だって、万能ではない。そんな生物学的な何某かなど、分からぬのだ。」

蒼は、唸った。つまりは、出たとこ勝負なんじゃないか。

「…つまり、公青と奏の場合、どうなるか分からないと?」

碧黎は、頷いた。

「そうだ。しかし本来なら龍しか生まれぬところ、奏であればそうならぬ可能性があるのだぞ?主の言う確立でいうと、良い方ではないか。」

蒼は、じっと考えた。そんな不確定なことで、知らせてしまっていいんだろうか。これで、あの二人が婚姻となって、子供が龍だったら、大変なんじゃないだろうか。

「…無責任なことは言えないしな。」蒼は、うなだれた。「どうしたらいいんだ。やっぱり、忘れろと言って、二人がすっかり忘れてしまうのを待つ方がいいんだろうか。」

十六夜は、顔をしかめて碧黎と顔を見合わせた。何も話を聞いてはいないが、どうやら奏は公青を、公青は奏を想っているらしい。だが、龍である奏を王の自分が娶ることが、奏の幸せではないことを、公青は知っているのだ。なので、こんなことになってしまっているのだろう。

「ええっと…蒼?とにかく、頭を冷やせ。あいつらのことは、あいつらのことだ。決めるのは、あいつら自身だろう。心配しなくても神は長生きなんだし、そのうちに何か考えると思うぞ?お前が何もそんなに悩むこたぁねぇんだよ。」

蒼は、十六夜をキッと見た。

「どうしてそんなに薄情なことが言えるんだよ。オレ、少なからず責任感じてるんだ。オレが公青に教育なんか任せなかったら、こんなことにはならなかったのに。あの二人は、あんなに悩んでるんだよ…どうにかしてやりたいじゃないか。」

碧黎はしかし、首を振った。

「蒼。もはや分かっていることではないか。端から言うたところで、どうにかなる事ではない。奏にしても、それが相手を男として愛おしいと思う気持ちなのか、親兄弟に対する愛情なのか、分かっておらぬのではないか。焦るでない。こういう事は、焦ってはろくな結果にならぬ事を、もう我は知っておる。しばし様子を見ようぞ。主が悩んでうまく行く事ではない。」

蒼は、確かにその通りだと分かっていた。どうにかしてやりたいが、どうにもならないことも…。

「分かりました。」蒼は、顔を上げた。「もう少し様子を見守ります。でも、公青も奏も、もうかなり憔悴しておるのです。一度、碧黎様にもご覧になって来てください。」

碧黎は、それで蒼の気がすむのならと、頷いた。

「見て参ろうぞ。主は、もう休むが良い。」

そうして、蒼は置くの間に戻って行った。十六夜は、碧黎を見た。

「そんなことになってるなんて、オレには一言も無かったのに。困ったもんだ。あっちが収まったらこっちって、落ち付かねぇな。」

碧黎は、肩で息をついた。

「ほんに、いつなりそうよ。主は維月にもこの事を知らせておけ。恐らくあれなら、我らより良い策を思い付くだろうよ。しかしまあ、今はどうにも出来ぬな。」

そうして、碧黎もその場から消えた。十六夜は、ため息をついて月へと戻って行ったのだった。


次の日の朝、十六夜が龍の宮の居間を窓から覗くと、維心と維月が並んで座って、何を話すわけでもなく、ただ口付けたり、頬を摺り寄せたり鼻の頭を摺り寄せたりと、見つめ合ってひたすらべったりと過ごしていた。それを見た十六夜は、嫉妬するよりもむしろ感心した。自分と維月も会えばそれは仲良く今の維心と維月と同じような状態ではあるが、兄妹だった記憶も手伝って仲間のような気持ちであることもある。それに、数ヶ月に一回ひと月の間だけなので、珍しいのもあってあんなにべったりな気がする。何しろ飽き性な十六夜は、ずっと同じ所に居て、同じことをするのが苦手なのだ。

それなのに維心は、いつまで経っても維月にべったりなのだ。常に龍の宮で共に過ごしているにも関わらず、いつ見てもああして維月を腕に嬉しそうにしている。そして、邪魔をすると迷惑そうな顔をして、里帰りしたら数日で追い掛けて来る。

ほんとに、徹底してるよなあ…。

十六夜はそう思うと邪魔をするのも悪いような気がして、声をかけられずに居た。

すると、不意に維月がこちらを見た。そして、言った。

「十六夜!まあ、気配が近いなあと思ったら。どうしたの?声を掛けてくれたら良かったのに。」

維月は立ち上がって、維心から離れて十六夜の方へ歩いて来た。維心は、やはり迷惑そうな顔をしている。十六夜は、維月の手を握って、言った。

「話したいことがあったから来たんだが、邪魔したら悪いように思ってな。いつ声を掛けたらいいかってさ。」

維月は、少し驚いた顔をした。

「いつもなら、遠慮なく割り込んで来るのに。良いのよ、何もすることがなくて、散策でもしようかなあって思っておったところだから。」

維心が、憮然として十六夜に言った。

「話があるのなら、座るが良いぞ。」と、維月に手を差し出した。「こちらへ来い。」

維月は、素直に従った。そうして、維心と維月は並んで座り、十六夜はその前に腰掛けた。

「お前達ってさあ…オレと維月も大概仲良い方だけど、徹底してるよな。もう何百年だ?よく飽きねぇなあ。いつ見ても、まるで昨日結婚したばっかみたいだろう。ベタベタベタベタ、はた迷惑なほどくっついててよぉ。オレも、たまに会うからあんな感じだけど、維心ほど一緒だったらそこまで出来たか疑問だな。」

維心が、両眉上げた。

「…何ぞ?藪から棒に。毎日毎日、維月の良い所が見えてどんどんと愛おしくなるのだからしようがあるまい。」と、隣の維月を見て、微笑んだ。「昨日も、己から我に寄って参って…なんと愛いヤツよ。」

維月は、十六夜の前なので、焦って言った。

「い、維心様、十六夜の前でございまするわ。あの、お互いが共に居る時のことはあまり話さないお約束。面倒なことになるからと、取り決めたのではありませんか。」

しかし、十六夜が首を振った。

「いや、まあもう慣れたしな。オレだって維月にべったりしてる時があるし。それにしても、維心のぶれない気持ちってのがよく分かるよ。」と、息をついた。「オレ達のことはいい。これで上手くやってるし。それより、話に来たのは奏のことなんだが。」

維月が、途端に心配そうに眉を寄せた。

「どうしたの?あの子、何かあったの?」

十六夜は、頷いた。

「蒼が何も言わなくて、オレもやっと知ったんだが、奏は公青を、公青は奏を、どうやら想ってるらしいんだ。」

維心と維月は、びっくりして顔を見合わせた。

「…では、公青が宮へ篭りがちなのは、そのせいなのか。」

維心が言うと、十六夜は頷いた。

「どうやら、そうらしい。だが、奏は龍だろう。公青は王だし、跡継ぎがまだ居ない。だから、跡継ぎを産めない奏を娶ると愛人扱いになるから、奏にとっていいことにはならないって何も言わないらしいんだ。あくまで、公青は正妃にしたいようなんだが、奏は龍だし。どうにもならねぇって悩んでああなってるらしいんだよ。」

維月は、口元を袖で押さえて聞いていたが、沈んだ声で言った。

「確かに…正妃にはなれないわね。龍しか生まないのだもの…他に妃を娶って、そちらと子をなすしかなくなるわけで、奏にしても公青にしても、想いがお互いにあるのなら、複雑な気持ちになってしまうわ。」

十六夜は、維心を見た。

「どうにもならねぇよな?こればっかりは。」

維心は、ため息をついた。

「ならぬな。我がいくら命を司っておるからと、種族の操作まで出来ぬ。龍の血が強いゆえ、昔から王の妃には龍は敬遠されたもの。龍は美しいゆえ、望む王は多かったが、その妃が生むのはやはり龍だった。なので、皇子が龍では先々困ることも出て来ようと、泣く泣く里へ子と共に返すようなことも、多かったの。」

十六夜は、息をついた。

「やっぱりそうか。美加のことがあるし、奏も同じ条件だから、もしかしてと蒼は言っていたが、親父に聞くと分からないと。ドラゴンと公青の血は違うし、それに偶然ああなっただけかもしれないし、必ずかと言われると、必ずではないとしか答えられないようだ。」

維心が、顎に手をやって考え込んだ。

「ふむ…自然の摂理に月が混じっておるわけであるから、我にも判断出来ぬな。ただ、龍は必ず龍を生むのは、今までの常識よ。なので、確立と言うて、低いよな。美加がかなり珍しい例なのだから。」

維月が、下を向いた。 

「せっかくにお互いに想い合っておるのに…何と哀れなこと。どうにか出来れば良いのに…。」

十六夜が、維月を元気づけるように肩をぽんと叩いた。

「お前が暗くなるなよ。蒼だって、親父だって考えてくれるらしいし。何か解決策が見つかるかもしれねぇじゃねぇか。とにかく、お前らもこの事を頭のどっかに入れといてくれ。それで、何かいい方法があったら、教えてやってほしい。」

維月の元気がないので、維心は気遣ってその肩を抱き、十六夜に頷き掛けた。

「尽力しようぞ。何かないか、こちらでも密かに調べさせる。月の宮でも、あまり気が進まぬが仙術などを探してみるが良い。人の考えることであるし、何か役に立つものがあるやもしれぬから。」

十六夜は、頷いて立ち上がった。

「そうだな、仙術か。調べてみるよ。」と、維月の頭を撫でた。「じゃあな、維月。また迎えに来るから、お前がそう落ち込むなって。」

維月は、何とか顔を上げて微笑むと、頷いた。

「ええ。またね、十六夜。」

十六夜は、月から月の宮へと戻って行った。

維心は、維月を抱きしめて慰めていた。

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