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龍とドラゴン

「維月!そろそろだぞ!」

維月は、維心と共にそろそろ寝ようかと維心の居間で座っているところだったが、十六夜が飛び込んで来たのに弾かれたように立ち上がった。

「ええ?!始まったの?!」

十六夜は、うなずいて窓から維月に手を差し出した。

「間に合わなかったら駄目だから、一回月へ帰ってからあっちへ降りよう。来い!」

維月がうなずいてその手を取ろうとすると、維心が慌てて駆け寄って来た。

「こら!我はどうするのだ、我は!」

十六夜は、光へ戻って行きながら言った。

《お前は立場上一緒に来れねぇんじゃねぇのか。美加の出産だぞ?とにかく、急いでるんだ!来たいなら自分で勝手に来てくれ!じゃあな!》

維月と十六夜は、二つの光になって、空へと打ちあがって行く。維心はそれを見送りながら、言った。

「我が普通に飛んだら、ヴァルラムの城まで一時ほど掛かるというのに!」

だが、十六夜からも維月からも、答えはなかった。


ヴァシリーが、美加の手を握っている。美加は、ヴァルラムの城の、治癒の部屋のベッドに寝かされてていた。着ているのは薄い白のドレス一枚で、それも汗で肌に所々貼り付いていた。ヴァシリーは、美加の額の汗を布で拭いながら、言った。

『水は要らぬか?ミカ、我が代わってやれたらどんなにか…。』

美加は、ヴァシリーを見て、うっすら微笑んだ。

『案じる事はないわ。戦場に立つ事を思えば、何でも無いこと。我は軍神でもあるのよ。無事に生んで見せるから、そのような顔をしないで。』

すると、痛みが来てヴァシリーの手を握る美加の手の力が強くなった。治癒のドラゴンが言った。

『ヴァシリー様、それでは殿方は外へ。これよりミカ様は本格的に生み出す努力をなさいます。』

ヴァシリーは、ためらった。

『だが、苦しんでおるのに!』

治癒のドラゴンは、首を振った。

『なりませぬ。殿方は何の力にもなれませぬ!さ、早よう!』

ヴァシリーは、追い出されるように戸の外へ押し出された。そこへ、十六夜と維月が駆け込んで来た。

『ヴァシリー!まだか?』

ヴァシリーは、振り返った。

『まだぞ。治癒のドラゴンに追い出された。これより出産が始まるらしい。』

維月が、首をかしげる。

「ええっと、追い出されたって言ったのかしら?」

維月はロシア語が少ししか分からない。ヴァシリーは、頷いて日本語で言った。

「今から出産が始まると。」

維月は、頷いた。

「ならば、後少し掛かるわね。大丈夫よ、あの子は強いわ。龍なのだもの。」

しかし、ヴァシリーは心配そうに閉じられた戸を見つめた。

「だが、あれは龍でも何かが混ざっておると治癒の者達が言うておった。どうも、純粋な龍ではないように。」

維月は、目を丸くした。

「え?でも、明維の子よ?龍は誰が生んでも龍でしょう。違うの?」

十六夜が、考え込むような顔をした。

「どうだろう…明維は、龍と月の子。これは維心の子だし完全な龍で、月は僅か土台になっただけだって聞いてる。母の美羽は、月と普通の神の子。蒼の子だからな。美加は、だから月の命を僅かながら両親からもらった上に、普通の神も、混ざってるわけだから、龍っていっても中身はかなり薄いんじゃないか?月の割合が、他より強いはずだ。」

維月は、口を押さえた。

「え?!じゃあ、帝羽みたいに中身は混ざってるの?」

十六夜はますます考え込む顔になった。

「分からねぇ。親父には分かるかも知れねぇが、オレには何とも。だが、帝羽みたいに完全な龍同士から生まれた親じゃねぇし、もっとおかしくなっても不思議じゃねぇ。ドラゴンの遺伝子ってのは、どれぐらいの力があるんだろうな。」

「ドラゴンは、誰が生んでもドラゴンぞ。」

低い声が割り込んだ。慌てて見ると、ヴァルラムがそこに立っていた。

維月が、その久しぶりに見る姿に、思わず見とれた。ヴァルラムは、本当に美しい神なのだ。十六夜が、そんな維月に気づかず言った。

「ヴァルラム、じゃあ、龍とドラゴンならどっちが優位なんだ?」

ヴァルラムは、苦笑した。

「知らぬ。未だ我が眷属と龍の婚姻は聞いたことがないゆえな。それより」と、維月に手を差し出した。「久しいの、維月よ。参れ、まだ時は掛かるだろう。こんな場で立っておっても仕方がない。」

維月は、その手を取った。だが、ヴァシリーは動かなかった。

「しかし我は…少しでも、近くに。」

ヴァルラムは、踵を返しながら、苦笑した。

「良い。ならば主はここに居れ。十六夜、我の居間へ。」

そうして、維月と十六夜は、促されるままにヴァルラムの居間へと向かった。

維月は、歩きながら言った。

「ヴァルラム様、いつも私の誕生日には、見事なダイアモンドのアクセサリーを贈ってくださってありがとうございまする。とても気に入っておりますの。」

ヴァルラムは、微笑んだ。

「気に入ったのなら、よかったことよ。しかし、維心が前に来た際には、あまり快く思うておらぬようであったの。」

維月は、困ったように十六夜を見た。十六夜が、言った。

「あいつはさあ、とにかく神経質だから。特にアーラが死んじまってからは、また維月に、とか言って。」

ヴァルラムは、ため息をついた。

「仕方が無いであろう、アーラは寿命で逝った。大氣の子であったし、少しは期待しておったが、あれは普通の神と同じように老いて、旅立って逝ったのだ。少し早かったぐらいぞ。我は、未だこのように老いぬがな。」

そこで、ヴァルラムの居間の大扉の前へとたどり着いた。ヴァルラムはその扉を開けて、維月と十六夜を招き入れた。

相変わらず豪華な調度に目を見張りながらも、維月と十六夜は勧められるままに、椅子へと腰掛けた。

十六夜が、まだ維月の手を握ったままのヴァルラムに、言った。

「気持ちは分かるが、維心が来たら大騒ぎするし、維月に未練があるのは言わねぇ方がいいぞ。」

維月が、驚いた顔をした。ヴァルラムが、ふっと息をついた。

「未練と言うて、我はもうそこまで思い詰めておるわけではないからの。アーラを娶って、そうしてヴァシリーが生まれたのだ。しかし、こうして顔を見れば癒されるのは確か。これぐらい、罰は当たらないであろうよ。」

そう言って、維月に微笑みかけた。維月は、ためらいがちに微笑み返してから、話題を変えようと言った。

「あの、先ほどのことでございまするが。」ヴァルラムが、片眉を上げた。維月は続けた。「美加のことですわ。あの子、やはり月の割合が多いので、龍でも、血が薄いのでしょうか。」

ヴァルラムは、急に話題が変わったので驚いたようだったが、言った。

「どうであろうの。月の力がそのまま遺伝子の力なのだとしたら、龍に匹敵する力であるだろうと言えるが、しかし、主と維心の間の子は、完全な龍であろう?」

十六夜は、うなずきながらも、言った。

「確かにそうなんだが、僅かに月が混ざってるような感じなんだよ。何しろ、維月から生まれた皇子は、皆僅かばかりでも月の力が使えるんだ。そこが、他の龍とは違う。」

ヴァルラムは、顔をしかめた。

「よう分からぬな。そのようなこと、気にしたことなど無かったゆえ。どちらにしろ、こちらでは別に、皇子の子が龍であっても良いのだ。力が強い者が次の王になるのであって、皇子が王になるわけではない。つまりは、その子も王になるわけではない。心身ともに強ければ良いわけなのだ。」

維月は、気遣わしげに扉の方を見た。

「…でも、やっぱりドラゴンの王はドラゴンでしょう。ややこしいことになってしまったこと…。」

十六夜が、月を見上げた。

「ちょっと親父に聞いてみるか。」

しかし、維月が慌てて十六夜の腕をつかんだ。

「いいわよ!生まれてからで!生まれた赤子を見て、いろいろ教えてもらいましょう。今呼んだら、また呼ぶことになって、お父様は何度も来なければならなくなるわ。」

十六夜は、考えたが、うなずいた。

「そうだな。あんまり呼ぶと、親父も面倒だろうからよ。」

すると、突然に居間の大扉が開き、筆頭重臣が駆け込んで来た。

「王!ヴァシリー様のお子が、ご誕生になられました!」

三人は、一斉にそちらを見た。ヴァルラムが、急いで立ち上がりながら言った。

「どちらぞ?!」

重臣は、頭を下げた。

「はい。間違いなく王のお血筋の強い気を放つ、ドラゴンの男の赤子でございます。」

ヴァルラムと十六夜と維月は、顔を見合わせた。

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