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凛と唯が、蒼に呼ばれて応接間に入って行くと、そこには知章とその臣下も、緊張気味に座っていた。蒼が、入って来た二人を見て、言った。

「ああ、来たか。維心様には、ただ今鷹の王との面会をしておられるので、終わるのを待っておるのだ。主らも、そこへ座るが良い。」

凛と唯は、頷いて緊張で青い顔をしながら、示された椅子へと座った。鷹の王…きっと、昨夜の約束通り、あのかたが龍王様にお話をしてくださっておるのだわ。

凛は、それに望みを繋いで、ただじっと、黙ってそこに座っていた。十六夜が、いらいらしながら言った。

「それにしても、長いな。帰る前の挨拶かと思ってたんだが、箔翔のヤツ何を話してるんだか。あの維心相手に会話が弾むとか考えられねぇだろう。」

蒼が、苦笑して十六夜を見た。

「母さんだって居るじゃないか。それに、箔翔は龍の宮で修行したんだからね。維心様との会話の材料には困らないと思うな。」

それでも、十六夜は憮然として言った。

「あいつが維月が居るのに、他の男と無駄話に時間を割くこと自体が考えられねぇってんだよ。何か気になることでも話してるから、長いんだとオレは思うね。」

そう言われてみれば、そうだった。維心は、維月が優先な神だ。普段政務はしっかりとやっているが、こういう宴の後の会談を受けるなど、言ってみれば維心からのサービスのようなものなので、手早く済ませてしまいたがるのが手に取るように分かるからだ。

「…そういえば、そうだな。」

蒼が言葉を続けようとすると、十六夜が急に立ち上がって入り口の方を見た。蒼が何事かと思っていると、しばらくしてそこから維月が入って来た。維月が近付いているのを、十六夜が感じ取っていたのを、蒼はそれで知った。

「維月?どうしたんだ、お前、維心と一緒だったんじゃないのか。」

まさか、ケンカ?

蒼がそう思っていると、十六夜もそう思っているようで、気遣わしげに維月の手を取る。維月は、首を振った。

「その、維心様から行って参れと言われたの。蒼、十六夜…今は維心様に会いに行かない方がいいわ。」

そこに居た、皆が驚いた顔をした。

「それは、お前が維心とケンカしたから?」

維月はぶんぶんと首を振った。

「そんな個人的なことじゃないのよ。箔翔が来て、今度の件を維心様ともやっと突っ込んで話したのだけれど…あの、昨夜、箔翔と庭で会ったのね?凛。」

凛は、びっくりして維月を見た。しかし、びっくりしていたのは知章もその臣下達もだった。鷹の王に、知られてしまっていたのか。

しかし、維月はその空気を察して、知章に言った。

「知章殿、それが良かったのですわ。このまま、維心様に会って正式に話が行くことになると、維心様は輝章殿も知章殿の宮も罰しなくてはならない、とおっしゃいました。箔翔が話す前から、維心様は軍神に探らせて既にほとんどのことを知っておられた。それでも、見て見ぬふりをしておってくれたのですわ。ここで正式に維心様に会われたら、それも無駄になってしまう。なので、止めよ、と私をこちらへ寄越されたのです。」

十六夜が、維月に言った。

「だが、オレはいろいろ輝章の話を聞いて来たぞ?女の方が頼んだし、承知の上だったんだ。それでもダメなのか?」

維月は、困ったように十六夜を見た。

「十六夜…私達、分かっていたはずなのに。維心様を甘く見ていたわ。維心様は、その時の感情で判断なさっておるのではないもの。そういったことも、義心に調べさせて知っておるのだと言ってらした。つまりは、それでも沙汰を下さねばならないのだと。個人の感情では、許すことは出来ないのですって。」

十六夜は、納得行かないようだった。

「だが、それじゃあなんで箔炎は罰しられなかったんだ?維心の友だからじゃないのか。箔翔は、人の女との間の子だろうが。」

それには、知章も息を飲んだ。薄っすらと噂話として聞いてはいたが、面と向かって聞いたのは初めてだったからだ。

維月は、十六夜が回りを気にしないのに顔をしかめたが、普段は自分も褒められたものではないので、そこには触れずに言った。

「維心様が言うには、そうやってなした子が、世にどれほどの影響力を持つのかが問題なのだと言っておられたわ。つまりは、箔炎様には箔翔たった一人しか子が居なかったでしょう。帝羽も最近に分かったけれど、あの子は龍だった。鷹族を衰退させないためには、箔翔という跡取りがどうしても必要だった。箔翔だから、箔炎様は罰しられなかったのですって。あくまで、維心様の考えは、世にどれだけ貢献するか、世を安定するのに力になるか、なのよ。」

十六夜と蒼は、それを聞いて凛と唯を見た。…ならば、維心が沙汰を下さねばならないと言うのも…。

「じゃあ…維心は、どうしろって?」

維月は、頷いた。

「あくまで知章様の宮は知らぬということを通すように。」維月は、知章を見て言った。知章は、頭を下げた。「そして、凛と唯は、孤児として蒼がここで面倒を見るように。輝章殿は…このまま、と。」

蒼が、悲しげに維月を見た。

「見殺しにしろと言うんだな。」

維月は、蒼を振り返った。

「戻しても、知章様の宮共々罰することになるから、良いことにはならないわ。これが、維心様のお考えよ。」

唯が、ワッと泣き出した。凛が、その背を撫でる。しかし、その凛も、目を赤くしていた。

知章が、立ち上がった。

「ならば長居は出来ぬ。我ら、何も見なかったことにする。弟には不憫なことと思うが、我が民のため。蒼殿、これらのこと、よろしくお頼み申す。」

蒼は、頷いて立ち上がった。

「任せておくが良い。また、何か状況が変わったら、連絡を入れるゆえ。」

知章は頷くと、軽く頭を下げて、出て行った。十六夜が、まだ泣いている唯を見ながら、言った。

「そんな判断しかねぇのか。維月、お前はそれで納得したのか。」

維月は、十六夜を見上げた。

「納得するはずないじゃないの。でも、維心様はこの神の世を押さえつけていらっしゃる。ここ最近のいざこざで、見逃すことの危険性は嫌というほど見て来たはずよ。維心様は、これを許すことで、神世の全てが龍王に逆らって、また世が乱れることを恐れていらっしゃる。そうなったら、もっとたくさんの命が散って行くことになるから…。」

十六夜にも、分かっていた。維心には、これが出来るぎりぎりのことだったのだ。こんなことが積み重なれば、龍王は甘いと皆我も我もと決まりを守らなくなる。そうなると、せっかくの秩序が乱れてまた戦乱へと戻ってしまう…。

「全くよう。いっそのこと、人と神は次元を完全に分けちまえばいいんだ。そうすりゃ出逢っちまうこともないだろうにさ。」

唯は、まだ泣いていた。凛はそんな唯の肩を抱いて、頭を下げてから、そこを出て行ったのだった。


結蘭は、突然に兄から離縁となったと聞かされて、兄の客間に移され、戸惑っていた。

結局、宴の席で見た後ろ姿が、箔翔を見た最後になった。本来なら王から直接に離縁を申し渡されて、迎えを待って実家へ帰るはずが、結蘭にはそれさえ許されることなく、宮を出ることになってしまった…。

ついていた侍女達も、皆鷹であったので、置いてくるよりなかった。慌ただしく別れを済ませるしかなく、自分が元々連れて来ていた侍女数人だけを連れて、結蘭は暗く沈んでいた。そのうちに、思い直してまた会いに来てくれるものだと思っていた。月の宮へ連れて来てくれると聞いた時には、きっかけになるかもと期待に胸を膨らませた。それなのに…やはり、兄と諍いになったのだろう。一瞬にして、こんなことになってしまったのだ。

公青は、日が変わって月の宮の美しい庭が見えるというのに、暗く沈んで外へ出ようともしない結蘭に、頭を悩ませていた。お互いに、想い合って嫁いだ訳でもないのに。やはり、里へ帰されるというのは、女にとって重いことなのだろうか。

王であって、女をあまり重く考えたことのなかった公青には、全く結蘭の気持ちが分からなかったのだ。どうすれば良いものかと、公青は蒼の元へと、宮の中を歩いて行った。

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