6‐2.人工内耳の話
さて、ここで余談なのですが――全面的に余談だとかいうツッコミは勘弁してくださいね――短編版の感想欄にて、「人工内耳などと絡め外部刺激を機械で受け取った場合の脳の反応に触れてはどうか」というご意見をいただきました。私自身、医療系は専門外なのですが、わかる範囲でご紹介してみたいと思います。申し訳ありませんが、うまく噛み砕けるほどの知識量がございませんので、すこしばかり小難しい内容となります。
「人工内耳」とは、難聴者が聴覚を取り戻す手段として実際に導入されている治療法です。9節で紹介するBMIの一種にあたります。耳の奥の「蝸牛」という器官に電極を埋め込み、体外の機器が受け取った音を電気信号に変換して電気刺激を送ります。蝸牛本来の電気刺激を再現するには至らないまでも、音声会話を可能とする程度の成果を上げているようです。
この場合、機械から脳に刺激を与えている、というよりも、機械から「脳に電気信号を送る部位」に刺激を与えている、といった方が的確かもしれません。
じつは、脳内でどのような処理が行われているのか、という点については、解明されていない謎が山ほどあります。また現在では「脳は部位ごとに違う機能を担っている」という脳機能局在論ではなく、局在的であるとともに全体的である――つまり、それなりの対応関係はあるけれど絶対ではなく複数の部位が協働して処理を行っている、という考えが主流になっています。
このように脳内の情報処理はまだまだブラックボックスなのですが、蝸牛における電気信号への変換であればある程度解明されています。これを利用したのが人工内耳であり、「蝸牛で音を電気信号に変換できない」ことが原因の失聴者には効力を発揮します。一方で「蝸牛よりも奥の脳神経に原因がある」場合には、人工内耳では解決できないということになります。類似した取り組みに、失明者の視力回復を目標とする「人工網膜」の研究もありますね。
健常者の耳と人工内耳で聴覚刺激に対して現れる脳波に違いがあるのかまでは、私には調べきれませんでした。その他の難聴と脳波の関わりとしては、生後6ヶ月以内の子供の聴覚障害を判定する手段として、脳波が用いられているようです。