星の月の真ん中の鳥の日
星の月の真ん中の鳥の日
エミヤ・イムトが、大分明るく笑えるようになった、と思う。
本人は、もう以前の職場でバリバリ働きたいらしい。
でも、私はもう少しのんびりしてもいいんじゃないかな、と思う。
私がもっと人生経験が豊富なら、もっと適切な言葉を伝えられたかもしれないけど、哀しいかなまだ二十六歳の若造で。思っていることを伝えることで、今良い方向へ向かっているのに、反対に向かったらどうしようとか、いろいろ考えてしまう。
エミヤ・イムトは、当時の自分をまだ引きずっているように思う。
いろいろうまくいかなかったこと、冷たくされたこと、まだ心に抱えている。
簡単には手放せないことは当然だしアタリマエだと思う。
でも、今の気持ちのまま以前の職場に戻っても、同じことを繰り返すんじゃないのかな。
今はいい。みんなが気を使って、距離を保ってくれている。でも、仕事となれば、いつまでも甘えは許されないだろう。距離を置いて見ているだけの人と、気を使って声をかけてくれる人も、そういうわけにはいかなくなる。自分は病気だと、言うわけにはいかない状況がどこかでくるんじゃないのかな。
あ、違う。今のエミヤ・イムトは、自分はまだ病気なんだと、それをイイワケにしそうに見えるんだ。
病気なら病気なりに、やれることをやる。それならば、その姿が伝われば周りの人も理解してくれる。でも、まだいろんなことを認めきれていない彼は、結局そういうことが原因で、また具合が悪くなりそうに見えるんだ。
まだゆっくりしていなさいと、職場の人は言ってくれているらしい。それならば、もう少し今の状況に甘えさせてもらって、一番辛かった時期の自分の気持ちや、理不尽に思っていたことを受け止められるようになってからでも遅くないと思うんだよね。
何も知らない人は、エミヤ・イムトのことを甘えているって言うのかもしれない。強くなれとか言うのかもしれない。でも、そうじゃないよね。どうしたって、上手くいかないことってあるよねって思うんだ。
趣味のこととか、楽しいこととか、話す内容も随分変わってきた。話し方も随分変わってきた。
きっと、もうすぐだよ。声には出さなかったけど、そう思って見送った。